F1ドライバーの本能を逆なでする、チームオーダーという不条理
ノリスに非情なチームオーダー
表彰台のランド・ノリス(左)と勝者オスカー・ピアストリ。戦略担当責任者(右端)を表彰台に上げたのは、正当なチームオーダーだったというアピールか 【©️McLaren】
発端は45周目の、ノリスのピットインだった。この時、ノリスは2番手。しかし首位のピアストリがピットインを2周遅らせたことで、二人の順位は逆転してしまう。するとチームはノリスに、「首位をオスカーに戻せ」と指示を出した。
しかしノリスは無言のまま、逆にペースを上げ、ピアストリとの差は広がっていった。担当エンジニアのウィル・ジョゼフはその後、公開された無線のやり取りだけでもノリスに対し15回以上、順位交換の指示を出し続けた。
ただし決して、命令口調ではなかった。「タイヤを使いすぎてる」「君が正しい判断をしてくれると信じてる」「君の速さは、もう十分に証明された」。5年前のノリスのF1デビュー時からコンビを組み、2ヶ月前のマイアミGPでようやく初優勝を遂げさせたジョゼフにしてみれば、2勝目を譲り渡すノリスの無念さは痛すぎるほどわかっている。あくまでパートナーとしての説得を続けたのも、そんな思いがあったからだろう。
「個人の結果よりチームの利益が最優先」
首位を譲ったあとも、ピアストリの背後にぴたりとつけていたノリス 【©️McLaren】
ノリスからの答えはなかったが、68周目のメインストレートで急減速。ピアストリを抜かせていった。その後もしばらく1秒以内の位置につけていたのは、「本当なら、勝つのは僕だった」という意思表示だったのか。
この後味の悪い幕切れは、そもそもチームが首位のピアストリを先にピットインさせていれば防げていた。それに対するアンドレア・ステラ代表の答えは、「ルイス・ハミルトンやマックス・フェルスタッペンが後ろから迫っていたから」というものだった。
「1-2フィニッシュを確かなものにするためには、彼らに抜かれる恐れがあったランドを、まずピットインさせる必要があった。その場合、1位と2位が入れ替わる可能性はあった。そして実際、その通りになった。でも我々はその問題の対処に、自信を持っていた」
ステラ代表が強調するのは、「チームの利益が最優先」ということだ。これについては、少し歴史的な説明が必要だろう。