F1の大音量サウンドが復活か!? 現行のエンジン音は小さすぎるのか。F1と音の関係を考察する

柴田久仁夫

モナコのトンネル内を爆走するフェラーリ。今のF1なら反響音も耐えられるレベルだ 【(C)Ferrari】

懐かしのV12サウンドが蘇る?

 F1が、「大音量レーシングサウンド」を復活させようとしている。

 現在のF1はターボエンジンと電気モーターを組み合わせたハイブリッドのパワーユニットを搭載している。わずか1600ccの排気量ながら、最大1000馬力を発生するモンスターマシンだ。

 一方で回転数は毎分15000回転に制限され、かつて20000回転近く回っていた時の独特の甲高い音は望むべくもない。何より排ガスや排熱を利用してタービンを回して電気を起こすシステムのため、音や熱として排出されるエネルギーの多くが吸収、再利用される。それだけエコで高効率なエンジンということになり、その分エンジン音もかなり小さくなった。

 かつてはたとえばモナコGPの有名なトンネルの中では、たとえ耳栓をしていてもマシン通過の際の大音響には耐えられないほどだった。そんな大排気量時代のF1を知る人々の中には、荒々しいエンジン音を懐かしむ声は多い。

 その筆頭がF1のステファノ・ドメニカリCEOで、「あくまで個人的に検討しているレベルだが」と前置きした上で、「あのエンジン音を取り戻したい。そのためには、ハイブリッドシステムを廃止する方向性もありうる」と、かなり踏み込んだ発言をした。

スポーツにおける音の大切さ

コロナ禍の3年間、僕たちは時に音のないスポーツ観戦を強いられてきた 【(C)Ferrari】

 そもそもスポーツ観戦とは基本的に、「五感を刺激するもの」である。サッカーの試合を見に行った時のことを思い出してほしい。ピッチ上の光景とは別に、降り注ぐ初夏の陽光、スタンドの声援の反響、ハーフタイムに飲んだビール、それらの体験が、頭の片隅に微かな記憶として刻まれる。だからTVやネットで観戦していても、スタジアムの色や匂いや雰囲気が蘇ってくる。

 レース観戦も、基本は同じだ。いや、音や匂いの訴求力はもっとずっとダイレクトで、激しいかもしれない。激しかった、というべきか。かつてのサーキットには独特の音と、甘く焦げたようなオイルの匂いが満ちていた。

 V型8気筒から12気筒まで様々な形式のエンジンを積んだマシンが走り出すと、それらが発する音だけで「フェラーリだ」「ホンダのV12だ」と聞き分けられたものだ。

 開発コストが厳しく制限された現代のF1では、V10やV12エンジンを自由に走らせることなど夢のまた夢だ。しかしエネルギー回生を廃止して、エンジン(内燃機関)だけでF1マシンを走らせる変更なら、技術的にもコスト上も何の問題もない。そうすれば以前ほどとはいかないにしても、F1らしいサウンドが復活するのではないか、というのがドメニカリCEOの目論見だ。

 電気自動車(EV)が世界の主流を占めるであろう今、時代に逆行するのではないか。そんな批判に対しても、「植物由来など、100%カーボンニュートラルの燃料を使用することで、環境面での問題はクリアできる」と、ドメニカリCEOは自信たっぷりだった。

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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