ライバル出現で「悪童ぶり」が戻ってきた? F1王者フェルスタッペンの綻び
スプリントレースでの健闘を讃え合うフェルスタッペンとノリス。二人はプライベートでも仲がいい 【©️Redbull】
フェルスタッペンの「悪童ぶり」
少なくとも今季序盤までのフェルスタッペンは、マシンの優位を活かし、他チームのライバルとほとんどガチバトルを繰り広げることなく勝利を重ねてきた。しかし今はフェラーリ、マクラーレン、メルセデスが着実に戦闘力を増し、簡単に勝てない状況になっている。
中でもマクラーレンはレッドブルと互角か、時に王者を凌ぐ速さを見せつつある。今回のレースで、白熱のバトルは必至だったということだ。そしてもう一つの伏線が、「ダークなマックス」だった。
F1デビュー以来、フェルスタッペンの攻撃的なドライビングは何度も先輩ドライバーたちから批判され、ペナルティも受けてきた。そんな「悪童ぶり」が、今回戻ってきたという見方だ。
実際、明らかにペースに優れるノリスに攻め立てられたフェルスタッペンは、抜かれまいとあらゆる手を使ったように見えた。
しかしそれが規約に違反するほどの「悪どい手」だったかは、議論の分かれるところだ。ノリスが無線で非難したように、55周目のターン3でのフェルスタッペンは、確かにブレーキング中に進路を変えていたように見える。スポーツ規約で明確に禁止されている行為であり、競技委員もリプレイで確認もしたはず。しかしここは、何の裁定も下さなかった。
その後もターン3、4でノリスは何度も仕掛けるが、フェルスタッペンは違反ギリギリとはいえ、むしろ巧みというべきライン取りでノリスの攻撃を封じていた。
10秒ペナルティは何の救済にもならない
いくつものミスや不手際が重なって、優勝を争う2台の事故が起きてしまった 【Photo by Clive Rose/Getty Images】
改めてレース映像を見直しても、ノリスのいるアウト側にマシンを振ったフェルスタッペンに非があるのは明らかに思える。その意味で10秒ペナルティは妥当な裁定と言えた。
ただし問題は、このペナルティではリタイアを喫したノリスに対して、何の救済にもならないことだ(何度もタイムペナルティを受けたケビン・マグヌッセンがその後も角田裕毅をブロックし続け、入賞を阻止した第2戦サウジGPも同じ問題を孕んでいる)。
今回の事故を受けてマクラーレンのアンドレア・ステラ代表は、「マックスが進路変更違反をした時、黒白旗の警告を出すべきだった。そうすれば、より慎重なドライビングになっていただろう」と語る。
同感である。若い世代のF1ドライバーの中でも、フェルスタッペンは特にブレーキング時の進路変更で物議を醸すことが多かった。記憶に新しいところでは、ルイス・ハミルトンと激烈なタイトル争いを繰り広げた2021年、イタリア・モンツァやサウジで接触事故を繰り返し、そのたびにペナルティを受けた(ただしその前のシルバーストンでは、ハミルトンが超高速のコプスで接触。10秒ペナルティを科された)。
それが2022年、23年は、上述したようにライバルとの熱いバトルがほとんどなかったこともあって、フェルスタッペンのアグレッシブなドライビングはすっかり鳴りをひそめていた。
だがF1ドライバーの運転スタイルは、(マシン特性に合わせてある程度の変化、適応はあるとはいえ)基本的に大きく変わらない。フェルスタッペンも、例外ではない。彼のアグレッシブなスタイルは不変で、機会があればいつでも姿を見せる。そしてそれが度を越せば、「ダークなマックス」が顔を出す。だとすれば、効果的な規約で予防するしかない。