もう一つの大記録を打ち立てたハミルトン 来季のフェラーリでもはたして勝てるのか?

柴田久仁夫

2年半ぶりの勝利を母国で達成したハミルトン 【©️Finn Pomeroy】

いきなり勝ち、17年後も勝つ

 ルイス・ハミルトンが先週末のイギリスGPで、ついに優勝を果たした。

 まさかの勝利、と言ったら七度の世界王者に失礼すぎるだろうか。しかしレーススタートの時点で、ポールシッターのジョージ・ラッセルやここ数戦絶好調のランド・ノリスを抑えてハミルトンが勝つと予想した人は、そう多くなかったはずだ。

 だがこの日のハミルトンは、一味違っていた。レース序盤にラッセルをオーバーテイクして首位を奪還。ハーフウェットの路面コンディションで際立って速かったマクラーレンの2台にいったんはかわされるが、早めにスリックに履き替えた判断が功を奏し、再び首位に。ラッセルのリタイア、マクラーレンの度重なる戦略ミスにも助けられ、そのまま逃げ切った。

 通算104勝という記録は、同じく7回の世界タイトル保持者ミハエル・シューマッハの勝利数を10勝以上上回る。他にもハミルトンはポールポジション最多獲得(104回)、最多表彰台、最多獲得ポイントなど、今も更新中の数多くの記録を持つ。39歳182日の優勝も、キミ・ライコネンの39歳4日を抜いて21世紀での最年長記録だ。

 2008年のF1デビューから今年で17年。キャリア7戦目に初優勝を遂げると、2021年までの14年間、毎シーズン最低でも1勝は挙げて来た。ハミルトンほど初年度から優勝に絡む速さを見せ、その後も現役を続け、しかもトップドライバーの座を占めてきた存在は、他にはない。

2021年最終戦のトラウマ

「レースで泣いたことはない」と言っていたハミルトンも、さすがに感極まった 【©️LATImages】

 そして今回の勝利で、ハミルトンには新たな勲章が加わった。参戦300戦を超えて優勝した、初めてのドライバーとなったのだ。

 F1史上300GP以上のレースを経験したドライバーは、6人しかいない(フェルナンド・アロンソ、キミ・ライコネン、ルーベンス・バリチェロ、ミハエル・シューマッハ、ジェンソン・バトン、ハミルトン)。しかしいずれも(そしてハミルトンも先週末までは)、参戦300戦を超えてからは勝てなくなっていた。キャリア終盤を迎え、本人の能力自体が落ちていく。あるいは戦闘力の劣るチームに移籍してリタイアを迎える。超一流ドライバーでも、その流れには避けられなかった。

 しかしハミルトンだけが、ジンクスを打ち破った。とはいえ2021年12月のサウジアラビアGPを最後に、未勝利の期間は2年半に及んだ。2022年から導入されたグランドエフェクトカー規約に、メルセデスの技術陣が対応できなかったことが最大の理由だ。

 それでもチームメイトのラッセルはその年の終盤にキャリア初優勝を果たし、選手権でも4位につけた。対照的にハミルトンは1勝もできず、キャリアワーストの選手権6位。デビュー以来の勝利記録もついに途絶えた。

 その精彩の欠き方には、メンタル面の要因もあったと思う。2021年最終戦アブダビGPでタイトルを逃したこと、何より勝てていたレースを、FIAによるいわば「超法規的措置」で敗れたことが、深い傷となっていたと想像する。

 それでも去年はレッドブルの二人に次ぐ選手権3位に躍進し、8位のラッセルに50ポイント以上の大差をつけた。マシン戦闘力も少しずつ上がっていき、モチベーションも上がっていった。104勝目を達成する条件は、着実に整っていったのだった。

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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