連載:最先端レフェリング論

[金曜特別コラム]最先端レフェリング論(3) 日本の審判レベルと環境の実態

木崎伸也

J1のジャッジスピードをW杯と比べると…

W杯と比べると、日本のジャッジスピードはまだまだのびしろがある 【Photo by Ayman Aref/NurPhoto via Getty Images】

 昨年、J1ではオフサイド判定に「3Dオフサイドライン」のテクノロジーが導入されたが、2次元の線を引いてからでないと3次元に切り替えられなかった。それが今年はダイレクトに3次元の線を引けるようになった。切り替え分の短縮が期待される。

 もちろん改善が見られるとはいえ、これで十分というわけではない。世界最大のサッカーの祭典であるW杯と比べると、まだまだのびしろがある。2023年J1と2022年カタールW杯の数字を比較してみよう(注:W杯のデータはJFA調べ)。

<オンフィールドレビューが発生した際>
VAR(およびAVAR)が映像を確認するのに要した平均時間
2023年J1:81.6秒
2022年W杯:66.2秒

レフェリーレビューエリアで主審が最終判定を下すまでに要した平均時間
2023年J1:43.6秒
2022年W杯:27.9秒

<オンリーレビューが発生した際>
VAR(およびAVAR)が映像を確認するのに要した平均時間
2023年J1:118.2秒
2022年W杯:68.3秒

 どのケースにおいてもW杯の方が短時間で素早くジャッジされていることがわかる。オンフィールドレビューでは平均31.1秒短く、オンリーレビューでは平均49.9秒短い。観戦者をそれだけ待たせずに済むのでこの差は大きい。

 連載第2回で書いたように、カタールW杯ではVARの運営体制が異なっており、単純に比較できない部分もある。J1が「VAR1人・AVAR1人・リプレイオペレーター1人」という3人体制で運用されているのに対して、カタールW杯では「VAR1人・AVAR3人・リプレイオペレーター3人」という7人体制で運用されていた。

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納得感が得られる判定かどうかも考慮

主審は選手のみならず、ファン・サポーターの納得感も考えて最適解を出している 【Photo by Masashi Hara/Getty Images】

 W杯はテクノロジーの面でもアドバンテージがある。カタールW杯では半自動オフサイドテクノロジーが導入され、AIが最初にオフサイドラインを引いていた。当然オンリーレビューに要する秒数は短くなる。

 そういう規模やテクノロジーの差を理解したうえで、佐藤は上を目指している。

「JリーグのVARで使用できるカメラが12台なのに対して、カタールW杯では50台以上のカメラから最もクリアな映像を選択できた。オフサイドチェックには『SAOT』(半自動オフサイドテクノロジー)が使われていた。必ずしもJリーグにおけるVARの判定が悪いというわけではない。

 ただ、W杯と比べると、僕らはまだまだ学ぶべきこと、改善すべき点がある。1つの事象を見たときの判断スピードについて、僕らはまだまだ改善できると考えています」

 また、佐藤はサポーターやファンの納得感も大事にしていきたいと考えている。

「スタジアムに来ているサポーター、ファン、そしてDAZNやテレビで見ている人たちが、判定をどう感じるのか。そこを僕らがしっかり考えていくことが、VARへの理解や納得につながる。

 主審のこの判定は競技規則では間違っていない、だから介入しませんということはVARのルール上は正しいのだけど、はたしてそれで審判への信頼が上がるのか。選手、サポーター、ファンの納得感を考えて、何が最適解なのかを考えてVARを運営したいと考えています」

 正確性とスピードを両立させ、なおかつ納得感を考慮する――つまりレフェリングにおいてサッカーという競技の魅力を最優先するということだ。

 レフェリーたちの日々の研鑽がJリーグのエンターテインメント性アップに貢献している。

<次回に続く>

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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載開始。

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