露呈した町田の経験不足と隙 新潟の戦いが明かしたJ1首位の危うさ

大島和人

町田は新潟に今季最大の3失点を喫した 【(C)J.LEAGUE】

 J1の首位を走るFC町田ゼルビアが、6月1日のホーム戦でアルビレックス新潟に1-3と敗れた。5月の戦績を比較すると町田は5勝1分け、新潟は1勝1分け4敗で、対戦を対象的な状況で迎えていた。しかし町田は今季最多の3失点で、今季の4敗目を喫している。

 それでも町田は勝ち点35の首位で第17節を終えている。今季の目標は「勝ち点70」「5位」だから、それははっきり上回るペースだ。

 そんな快適なシーズンを過ごしつつ、3連勝の後に下位を迎え撃つ状況とあれば、「健全な危機感」が薄れがちな部分もあっただろう。黒田剛監督も試合前の取材時から、苦戦の末に引き分けた5月11日の湘南ベルマーレ戦を例に出し、新潟戦が厳しい展開になることを『予言』していた。

町田が「ふわっと」した前半の2失点

 黒田監督は試合後にこう述べている。

「カウンターっぽい形からの2失点で、ふっと抜けているところ、1対1の対人で曖昧な守備が目立った前半でした。『町田のサッカーではないよね』という一言目が出てくる、そんなゲームをやってしまった印象です。一つは球際で、ボールが相次いで新潟にこぼれるシーンが多かった。これはやっぱり立ち位置、または出足の問題で、新潟の方がアラートにセカンドを拾う体制を整えていたと思います」

 前半の2失点は、いずれも守備の枚数が揃っている状況から新潟にゴールを奪われた。

 1失点目は小見洋太と長倉幹樹の連携に対して町田のディフェンス(DF)が戻りながら対応し、一度は長倉のコントロールミスを誘った。しかし林幸多郎の弾いたクリアが、フリーランニングを続けていた小見の足元にピッタリ入った。

 2失点目は谷口海斗のミドルシュートがDFに当たり、ゴール右にこぼれたボールに藤原奏哉が詰めて押し込む形だった。

 町田視点で見ればどちらも1歩、2歩の寄せや「細かい判断」が甘く、相手をフリーにしてしまった形だった。ボランチの仙頭啓矢はこう振り返る。

「ボールが当たって相手にこぼれることが続いて、相手のリズムになってしまったというのもあります。もう一歩寄せる、しっかり外に切ることが必要だったと思います。中途半端なプレーをやると、五分五分のボールをこぼしてしまって失点になる。そういうところをはっきりするのは大事だと思います」

 3失点目はセットプレーから生まれた町田のオウンゴールで、それ以前の2失点と意味合いは違うが、いずれも「崩された」形ではなかった。もちろん、それを不運で片付けることはできない。新潟の前線にはここという場面の勢いや、枚数をかける大胆さがあった。対する町田は、この試合に限れば最終局面の「1歩、2歩」「判断」に隙(すき)があった。

「上のパス」を生かした新潟

松橋力蔵監督は町田戦を前にビルドアップの修正を図っていた 【(C)J.LEAGUE】

 新潟はボールを握りながらリズムを作るチームで、J1でも1位2位を争うボール保持率を記録している。町田は前に向かうアクション、プレーエリアの高さを優先する「非保持型」のスタイル。そんな両者が対峙したにもかかわらず、Jリーグが公表した数字を見ると、町田戦は新潟の保持率が53%にどどまった。

 ただ、町田には「ボール保持率が上がるほど勝てない傾向」がある。今季の17試合で「50%超え」は2試合だけだが、第8節・ヴィッセル神戸戦は52%、第10節・ジュビロ磐田戦は56%を記録しつつ敗れている。

 町田は鋭く踏み込んだプレスで、高い位置で前向きに奪うことでチャンスにつなげるスタイル。神戸、磐田は「早めに両サイドのスペースに散らす」ことで、その強みを消していた。

 新潟も同様の工夫をしていた。松橋力蔵監督は振り返る。

「トレーニングの中で、うまくいかなかったところが実はビルドアップでした。選手の目線が手前、手前ばかりになってしまって、相手の背後や、相手が前から来ることで開くスペースを認知できていなかった。実際のゲームの中で、もちろん全てがうまくいったわけではないですけども、そこでうまく我々の起点を作り、相手の迷いを利用できたと思っています」

 DFが詰めてくれば、その背後は使いやすくなる。DFが裏への「一発」を警戒すれば、今度は手前のスペースが空く。それはサッカーの原理原則だが、新潟はプレスを強みとする町田に対して程よく背後、脇へのロングボールを混ぜて対応していた。

 FW鈴木孝司はこう振り返る。

「今までショートパス、下のパスが多かったです。上のパスは相手も予想外なところもあったと思うし、センターバックからウイングの裏という大きな展開も、今回はいつもの試合よりも多かった。そこに入れたあとのセカンドを拾って、押し込める部分もありました」

 新潟は守備面でも町田を意識した工夫をしていた。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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