スーパーフォーミュラで走行中のレースカーの車載データを利用した超低遅延AIの実証実験を実施 ~リアルタイムでラップタイムやレース順位の予測を実現~

SUPER FORMULA/SFgo
チーム・協会
株式会社ノーチラス・テクノロジーズ(本社:東京都港区、代表取締役会長:神林飛志、代表取締役社長:目黒雄一、以下「ノーチラス」)、さくらインターネット株式会社(本社:大阪府大阪市、代表取締役社長:田中邦裕、以下「さくらインターネット」)、株式会社日本レースプロモーション(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:上野禎久、以下「JRP」)は、超低遅延AIシステム(以下「本システム」)の実証実験を実施しました。
実証実験では、2024年11月8日および9日に行われたJRP主催のスーパーフォーミュラRd8-9のレース中に、鈴鹿サーキットを走行するフォーミュラカー※の車載データ(以下、テレメトリデータ)を取得し、AIを用いてラップタイムやレース順位をリアルタイムで予測することに成功しました。
なお、本実証実験はノーチラスが研究開発を実施する、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」)のプロジェクトの一環として実施したものです。

当実証実験での、各社の役割は以下の通りです。
■ノーチラス
・NEDOの支援のもと開発された次世代データベース「劔“Tsurugi”」の提供
・本システムの設計および開発

■さくらインターネット
「高火力コンピューティング」「さくらのVPS」をクラウドインフラとして提供

■JRP
走行中の21台におけるフォーミュラカーのテレメトリデータの提供

本システムは、JRPが管理しているレースにて走行中の21台におけるフォーミュラカーのテレメトリデータを、さくらインターネットが提供する計算基盤上で稼働する「劔“Tsurugi”」で収集し、機械学習の処理を実行します。システム上のパフォーマンスは、テレメトリデータに適切な前処理を施し、かつ一貫性を担保した状態での永続化の書き込み処理を5ミリ秒で行い、同時にAIの推論処理を5ミリ秒から20ミリ秒程度の時間で実行しています。従来のAIシステムでは、このスピードでの処理を実行するためには、フォーミュラカーに搭載している端末側に特殊なチップを組み込むなどの対応が必要ですが、本実証実験ではチップを組み込まずに高いパフォーマンスを維持したまま、従来のオープンアーキテクチャで実施することができました。
本実証実験の成果から、今後その他のレース中の予測・分析の検討、実運用の開始を予定しています。また、本システムはNEDOの協力のもと、現在研究開発を実施している光通信のインフラ上での稼働を目指します。

実証実験の詳細

実証実験は、図1のシステム構成で行いました。

図1 システム構成 【JRP】

車両のテレメトリ送信ユニットからさくらインターネット提供の「さくらのVPS」上に構築された実証実験サーバーに送られたテレメトリデータは、「劔“Tsurugi”」のJavaライブラリのIceaxe経由で前処理を行いながら書き込みを行い、特徴量テーブルを作成します。そのデータを使って、同サーバー内に構築された推論モジュールコンテナで推論処理を行い、あらかじめ準備された機械学習プログラムと連携されて、学習結果が「劔“Tsurugi”」に登録されます。一連の処理をレースの開始から終了まで行い、その学習結果はラップタイム予測と順位予測のデータとして提供され、Webブラウザから閲覧することができます。本システムは、特別なツール等は使用せず、データベースサーバーを用意し、データ処理は平易な標準SQLで実装されています。特別なツールの利用や、新しいソリューションの学習等は必要とせず、既存のソフトウェア開発のテクノロジーのみでアプリケーション開発が行われています。

テレメトリデータのデータベースへの登録にかかった時間は、図2の通りです。

図2 テレメトリデータの登録時間 ※1トランザクションあたりの処理時間をサンプリングして得られたデータのヒストグラム 【JRP】

このテレメトリの登録は、UDPパケットのテレメトリデータを受信して、「劔“Tsurugi”」に登録をしています。パケットサイズは768Byteです。毎秒1,050パケットを受信処理し、9テーブルに登録(Insert)を行います。1パケットを1トランザクションで処理を実行しています。図中にあるとおり、95%のデータを平均6.44msで登録しており、高速に実行ができました。また、この処理の実行中はデータの一貫性を担保しながらディスクに永続化もできました。

図3 推論処理にかかった時間 ※各スレッドごとに1,000回推論を実行した時の処理時間から1回の推論処理の平均処理時間を算出しヒストグラム化したもの 【JRP】

推論処理にかかった時間は、上記の図3の通りです。推論では、ラップタイム予測(Lap Time Prediction)と順位予測(Position Prediction)を行っています。レースにて走行する車の台数に対応する21スレッドが、連続して「劔“Tsurugi”」をポーリングし、ラップタイムを推論しています。1回のポーリングで、11テーブルを結合して、最大25レコードを取得しています。推論結果については、2テーブルに書き込んでいます。この処理についても、データの一貫性を担保しながら、ディスクに永続化されています。

実証実験の結果

本実証実験の結果により、NEDOプロジェクトにおいて実現を目指す光通信インフラ上での分散情報処理にかかる有益な知見、実運用を見据えた信頼性を確認することができました。また、将来的に本システムをレースシーンで活用することで、フォーミュラカーの順位や状態などリアルタイムな予測を提供することも可能となり、より高度な戦略を駆使したレースの実現に寄与することも期待できる結果となりました。今後も様々な予測を行って、エンターテイメントとしてのフォーミュラレースの盛り上がりを醸成してまいります。
なお、本実証実験の結果が示すものとして、他のIoT分野においても本システムを活用することで、M2M(Machine to Machine)の機械学習を実現することができます。ミリセカンドの速度の世界で学習処理を実行することで、人間の反応よりも速い反応を返す機械学習の実現を可能とします。今後は本システムの他分野への提供にも力を入れてまいります。
ノーチラス、さくらインターネット、JRPは、今後もデジタル社会の継続的な発展へ寄与してまいります。

※フォーミュラカー:国際自動車連盟が定めた規格に従って作られたレーシングカー。単座席で屋根がなく、タイヤに覆いがないなどの特徴を有する。

NEDOプロジェクトについて

本実証実験は、NEDOが実施する「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発」における「異種材料集積光エレクトロニクスを用いた高効率・高速処理分散コンピューティングシステム技術開発」で開発を進める、100㎞圏内の複数データセンタ間での分散情報処理の実現に資する次世代型分散ミドルウェアの実現に向け、実運用環境を想定した実験の一つとしてノーチラスを中心に実施されたものです。昨今、増大する情報量への効率的な対応策として分散コンピューティングが注目されており、またAIを活用したシステムを低消費電力で、かつ高速に動作させる技術に関しても大きな関心が集まっております。本実証実験を通じて得られた成果は、ノーチラスがオープンソースとして展開する次世代データベース「劔”Tsurugi”」に反映され、NEDOプロジェクトにおける成果最大化に寄与するものとなります。
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著者プロフィール

SUPER FORMULAは国内最高峰で最速のフォーミュラレースシリーズです。レースに使用する車両やタイヤ・エンジンに性能の差が無い「イコールコンディション」のため、ドライバーの実力やチームの戦略が勝敗につながります。世界的に見てもF1に次ぐ速さをもち、F1に乗るために必要な「スーパーライセンス」が最短2年で取得が可能。それにより、世界の舞台で活躍している名だたるドライバーを輩出している、世界でも注目されているカテゴリーです。公式サイトでは、SUPER FORMULAに関する様々な情報をご紹介いたします。

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