ローラーコースターのような11月を経て、評価急上昇の久保 それでも現時点で移籍は考えにくいと判断する根拠
ELのアヤックス戦で1得点・1アシストの大活躍。乱高下の11月を最高の形で締めくくった久保に、メガクラブが再び強い関心を示し始めている 【Photo by Cesar Ortiz Gonzalez/Soccrates/Getty Images】
地球上でも最も価値のあるアジア人選手
11月の初戦、アウェーのセビージャ戦(第12節/2-0で勝利)で、久保はほぼ1カ月ぶりのゴールを決めた。9月28日(現地時間、以下同)のバレンシア戦以来となる今季2得点目だ。個人技で奪った先制ゴールについて久保本人も、「勝利を呼び込めたし、10点(満点)ではないけれど8点」と高く評価している。
幸先の良いスタートを切った久保は、4日後のヨーロッパリーグ(EL)、ビクトリア・プルゼニ戦でもスタメン出場を果たす。しかし、ゴールには絡めず60分で途中交代。チームも後半のアディショナルタイムに決勝点を許し、1-2で敗れた。久保にとって、ソシエダでの公式戦通算100試合目のマイルストーンを勝利で飾ることはできず、試合後にはこんなコメントを残している。
「(イマノル・アルグアシル)監督からも、『もうこのチームに来て100試合なのだから、(中心選手として)もっとゴールを決めなければいけない』と言われたし、僕もそれに同感だ」
そんな久保のフラストレーションが爆発したのが、11月10日のホームでのバルセロナ戦(第13節)だった。周知の通り、ソシエダが前評判を覆して首位バルサを1-0で撃破。久保はマッチMVPに選出されるハイパフォーマンスを披露した。
特大のインパクトを残した久保は、ヴィニシウス・ジュニオール(レアル・マドリー)、ダニ・オルモ(バルサ)、アルナウ・マルティネス(ジローナ)、ジュリアーノ・シメオネ(アトレティコ・マドリー)とともに、11月のラ・リーガベストプレーヤーにノミネートされる。
最終的にヴィニシウスが受賞したものの、久保の評価は再び急上昇。地元有力紙の『エル・ディアリオ・バスコ』は、《クボ、地球上で最も価値のあるアジア人選手》との見出しを打ち、彼の市場価値が現時点でアジア人サッカー選手トップの5000万ユーロ(約79億円)であることを報じた。ちなみにこれは、バイエルン・ミュンヘンのキム・ミンジェ、トッテナムのソン・フンミン、ブライトンの三笘薫を500万ユーロ上回る額だ。
バルサ戦の出来とはまさに雲泥の差
バスクダービーでは見せ場を作れず、60分で交代を命じられた。長距離移動を重ね、日本代表としてW杯予選を戦ったダメージが残っていたのは間違いないだろう 【Photo by Cesar Ortiz/Soccrates/Getty Images】
《タケクボが再び、内容の悪い試合の割れた皿の代償を払う》
これはスペインのサッカー専門サイト『エル・デス・マルケ』が掲載した記事のタイトルだ。「割れた皿の代償を払う」とはスペインでよく使われる言い回しの1つで、例えばバルやレストランでお皿が割れたら、その責任の所在をはっきりさせ、はっきりしない場合も、誰かがその責任を取らなければならないという、世の不条理を嘆く表現。平たく言えば、「不当に責任をなすりつけられる」ことを意味している。
地元の有力紙『ディアリオ・デ・ギプスコア』紙が、《近年では記憶にないほど低レベルのバスクダービー》と辛辣に批判したほどの凡庸な一戦は結局、アスレティックが1-0で制したが、自身がゴールを決めることの重要性を常々口にしている久保は、それが不当であろうとなかろうと、チームが無得点に終わった責任を痛感していたに違いない。
それにしても、バルサ戦の出来とはまさに雲泥の差だった。そこで思い出したのが、数ヵ月前にソシエダの番記者と交わした会話だ。
「代表戦から帰ってきた後の久保のパフォーマンスが落ちるのは、もはや恒例だよ」
彼はため息混じりにそう呟いた。
代表に招集されるのは、サッカー選手にとっての名誉に違いない。しかしここスペインにおいては、選手が最優先すべきはクラブチームであり、代表は二の次というのが共通の認識なのだ。