連載:最先端レフェリング論

[金曜特別コラム]最先端レフェリング論(2) J2・J3にVARがなかなか採用されない理由

木崎伸也

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簡単には養成できないVAR人材

2021年からJ1全試合でVARが使用されている一方、J2とJ3ではまだ導入されていない 【(C)J.LEAGUE】

 なぜJ2とJ3にはVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が導入されていないのか?

 J2とJ3を観る際に1度は頭に浮かぶ疑問ではないだろうか。

 J1では2021年から全試合でVARが使用されている一方で、J2とJ3ではまだ導入されておらず、依然として「ゴールラインを大きく割ったが、ボールがバウンドして外に出たためゴールが認められない」といった判定間違いが起こっている。

 機材の購入、試合当日の機材運搬とセットアップ、技術者(リプレイ・オペレーター)の派遣など、さまざまなコストがかかり、それが多くの国にとってVAR導入の障壁になっている。

 中でも最大の障壁になっているのがVAR人材の育成だ。

 日本サッカー協会(JFA)審判部の秋江昌司部長はこう説明する。

「VARを務めるには、FIFA(国際サッカー連盟)が指定する教育カリキュラムの修了が必要です。現在日本ではFIFAの承認のもとVARカリキュラムのコースを1年間に1回開催しており、受講できるのは最大8人。つまり毎年8人しかVARをできる審判員を増やせないんです。

 1コース開催するごとに、JFAに数千万円の費用負担が生じます。VAR人材の養成には時間とお金がかかるんですよ」

 そもそもVARカリキュラムコースで教えられるインストラクターを養成するのにもコストがかかるという。

「IFAB(国際サッカー評議会)から日本へ講師を派遣してもらい(注:以前ではFIFAではなくIFABがVARの管轄だった)、VARインストラクターの養成コースを1度開催しました。宮島一代(JFA審判委員会副委員長)や佐藤隆治(JFA審判委員会副委員長)が受講したのですが、現在日本では彼らしかVARカリキュラムコースでインストラクターを務められません。VARに関して指導者が少ないことも大きな課題です。

 それでもアジアにおいて日本は進んでいる方で、多くのアジアの国にVARインストラクターがおらず、そのためVARライセンス保有者を育てられないという状況が起きています」

 秋江は「J2とJ3にVARを」というサポーターやファンの気持ちを十分に理解しつつも、現実的な数字を口にした。

「来年からJ2とJ3でVARを導入しようと思っても、すぐに安全に運営するための十分な数のレフェリーをそろえられないんです。8人のコースを1年に2回開催しても16人。2年間で32人にしかなりません」

 ただし、実現の可能性がないわけではない。

 FIFAが簡易版の「VARライト」を試験運用しており、JリーグやJFAも情報収集にあたっている。

環境によって関わる人数が異なるVAR

ビデオ判定はVAR(中央)、AVAR(左奥)、RO(右手前)の3人1組という体制が通常になっている 【写真提供:JFA】

 通常、ビデオ判定はVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)、AVAR(アシスタント・ビデオ・アシスタント・レフェリー)、RO(リプレイ・オペレーター)の3人1組という体制で実施される。

 ちなみにROとは、VARの横に座り、事象のチェックに必要な映像をVARの画面に出す担当者のことだ。たとえば「25%スローでループにしてください」という指示を受けたら、瞬時に再生スピードを調節し、繰り返し問題の場面が流れるようにキーボードをたたいて操作する。

 通常のVARシステムではROを置くことが必須になっているが、それに対して「VARライト」はROを置かず、VARとAVARの2人1組の体制で運営する(注:VARライトではVAR1人の体制も認められている)。さらにカメラの台数が通常より少なく、ピッチ脇に置かれる主審確認用のモニターもタブレットで代替され、いろいろなコストが軽減される。

 依然としてVARとAVARは必要なので、そろえなければならないレフェリーの数に変わりはないのだが、うまくやれば全体で経費を削減できた分をVAR育成に割り振ることができるだろう。

 実はすでにVARの世界には運営体制の「グレード」が存在する。一口にVARと言っても関わる人数が異なるのだ。

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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載開始。

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