現地発! プレミア日本人の週刊リポート(毎週水曜更新)

クロップ勇退とシティ4連覇、存在感示した日本人選手 プレミアリーグ「激動のシーズン」を振り返る

森昌利

加入1年目にして名門リバプールでレギュラーを勝ち取った遠藤に加えて、怪我で長欠した三笘と冨安も今季のプレミアで存在感を示した 【写真:REX/アフロ】

 FA杯決勝も終わり、イングランド・フットボールの2023-24シーズンが幕を閉じた。昨年9月に始まった当連載も、今季はこれが最後。そこで、約9カ月にわたり現地で取材にあたった筆者が今季のプレミアリーグを振り返る。

今季最大の話題はクロップの勇退

クロップが今季限りでリバプールを去ると発表したのは1月26日。シーズンを通して最も衝撃的だったのは、この突然の辞任表明だろう 【写真:ロイター/アフロ 】

 5月25日(現地時間、以下同)、イングランド・フットボールの聖地ウェンブリー・スタジアムでFA杯決勝が行われた。今季限りでの解任が確実視されているエリック・テン・ハグ監督のマンチェスター・ユナイテッドが大方の予想を裏切って、イングランド史上初となる1部リーグ4連覇を達成したばかりの最強マンチェスター・シティを相手に2-1で勝利を収め、アーセナルが保持する最多優勝記録にあと1と迫る13回目の優勝を果たした。

 そして翌26日に1億ポンド――円安の現時点では200億円を超える――事実上、欧州チャンピオンズリーグの優勝賞金よりも大きな金額がかかったプレミアリーグ昇格のプレーオフもウェンブリーで行われ、サウサンプトンがリーズを1-0で下して、レスター、イプスウィッチに続き昇格の切符を手にした。きっとOBの吉田麻也も喜んだに違いない。

 ウェンブリーではさらに6月1日に欧州チャンピオンズリーグ決勝が行われるが、残念ながらプレミアリーグ勢は準々決勝までに全チームが姿を消したため、2023-24シーズンのイングランドのフットボールは5月で幕を閉じた。

 今季のプレミアリーグを振り返ってみると、やはり最大の話題はユルゲン・クロップの勇退だったと思う。

 しかも、4月に入るまではリバプールがマンチェスター・C、アーセナルとの激しい三つ巴の優勝争いを一歩リードしていたこともあり、1月26日に今季限りでの勇退を発表した後、9シーズンにわたってプレミアリーグを大いに盛り上げたドイツ人闘将の一挙手一投足に注目が集まった。

 残念ながら、31試合目のマンチェスター・Uとのアウェー戦で2-2と引き分けてから失速し、リバプールはタイトルレースから脱落。最後はマンチェスター・Cとアーセナルの2強で優勝が争われた。

 しかしそれでも英国メディアはクロップの“リバプールの次”を追い求め、「少なくとも1年間は休養する」と公言したドイツ人の言葉はまるで聞こえなかったとばかりに、その裏に“必ずある”と自分たちが信じる真意を探り続けて、質問責めに遭わせた。

 最後の会見でも「自分がそう望まなくともフットボール界があなたを引き戻す可能性があるのでは?」と尋ねた記者に対しては、それまでは感動的なセレモニーの直後で穏やかな口調だったクロップが語気鋭く、「どうして何度言っても信用されないのか分からない。現時点ではこれを最後に監督業には戻らない可能性もある」と言って、不快感を露わにした。

 クロップ最後の試合を取材できたのは、筆者にとって本当に感慨深いものがあった。日本人記者は1人だけだった。アンフィールドで行われた最終戦は信じられないぐらいの楽勝となった。対戦相手のウルヴァーハンプトンが前半28分の段階で10人となった。VARも含めて、全てがクロップ最後の試合の味方になったようだった。2-0と常識的なスコアで収まったが、リバプールにとって危ない場面は全くなく、もっと大差でもおかしくない試合だった。

 クロップに関しては先週のコラムで言及したので、ここではひとつだけ、最後の退団セレモニーで非常に印象に残ったシーンを記したい。

 それはクロップをはじめ、今季限りでリバプールを去る選手、スタッフ、コーチ陣を労うレセプションが行われる直前の場面だった。来季も残る選手団とスタッフが右と左の二手に分かれて花道を作り、その奥に設置された、ジョン・ヘンリー・オーナーをはじめとするリバプール経営陣が待つ壇上にクラブを去る面々を迎えようというわけである。

 すると、その花道の入口にクロップが満面の笑顔で立っているではないか。すかさず進行役のスタッフの1人が「何やってるの!? あなたは送られる方の人でしょう!」とでもいうように、56歳ドイツ人の腕を引っ張って控え室に通じるトンネルへ引っ込めてしまった。

 この場面も含めて、きっと予行練習も何もせずに臨んだのだろう、すごくいい加減な感じでセレモニーが進んだ。誰も何にも指示されていない感じだった。けれどもみんな笑顔で、本当に和んでいた。そんな光景を見ていたら、このお別れの会も「細かいことはいいじゃないか」とでもいうような、クロップの大らかな性格が反映されているようで、すごく気持ち良く、感じ入った。

 ものすごくみんなが自然体だった。見ているだけでもリラックスして、今日でお別れという悲しみが薄らいだ。クロップはセレモニーが終わっても、ピッチの上にいつまでも残り、選手の家族たちにせがまれた写真撮影に全て応じながら、スタンドにも歩み寄り、サポーターたちとも長々と言葉を交わして、記者会見に現れたのは午後8時過ぎだった。2時間以上もアンフィールドとの別れを惜しんでいたことになる。

マンチェスター・Cはプレミアから除名される可能性も…

史上初のプレミア4連覇を果たしたマンチェスター・Cだが、クラブ運営に関して115件もの違反を指摘されており、秋の聴聞会を経て厳しい処分が科されるかもしれない 【写真:ロイター/アフロ】

 一方、史上初の4連覇を飾ったペップ・グアルディオラは、「彼が恋しくなる」と目を潤ませて宿敵だったクロップの勇退に言及すると、「4連覇を達成したら次は何を目指せばいい? これ以上モチベーションを保つのは非常に難しい」と語って、マンチェスター・Cとの契約が満了する2025年夏の退団を示唆した。

 そうなれば、ポゼッションvsプレスの構図で、イングランドにとどまらず世界のフットボールをリードした2大監督がプレミアリーグを去ることになる。これはひとつの大きな節目だ。

 クロップ、そしてグアルディオラの両監督がその全盛期を捧げ、生み出した名勝負の数々が過去の歴史となり、その後イングランドのフットボールはどんな転換を遂げるのだろうか。

 こうした歴史の節目には、ある種の喪失感も感じるが、世界一熱いサポーターがその熱源として存在する限り、今後もプレミアリーグは隆盛を続けていくと信じたい。

 とはいうものの、マンチェスター・Cには115ものファイナシャル・フェアプレー(人件費や移籍金などの支出がクラブ収入を超えることを禁じる規程)に関する疑惑がある。今年の秋に聴聞会が開かれ、来季中、すなわち2025年5月までには決着がつくと言われるが、もしも有罪となればチャンピオンシップ(2部リーグ)への降格が確実となる大量の勝ち点剥奪、もしくはプレミアリーグからの除名処分となる可能性もある。

 反対に無罪放免となれば、グアルディオラが突如として続投を表明するかもしれないが、ペップのしんみりとした退団示唆の裏には、そんなマンチェスター・Cの事情もあるのではと勘繰ってしまうのだ。

 実際、昨季は地元ライバルのマンチェスター・Uの誇りであるトレブル(3冠)を、25年前当時より確実に苛烈である現代のプレミアリーグで達成し、そして今季はもう驚愕としかいえない史上初の4連覇を達成したというのに、英国でマンチェスター・Cの偉業を称える声が高まらない。

 それは“ファイナンシャル・ドーピング”(資金的なドーピング)とも揶揄(やゆ)される、アブダビ政府絡みの莫大なオイルマネーを背景にしたマンチェスター・Cの金満体質があるからだろう。

 今季はシーズン中にエヴァートンとノッティンガム・フォレストが――こちらはマンチェスター・Cと違ってクラブ側が違反を認めたこともあるが――勝ち点を剥奪されて、厳しく罰せられた。

 ファンとしては1日も早くこの問題に決着がついてほしいと思っているが、果たしてどうなるのか。泥沼となって、いつまでも疑惑のままでは、マンチェスター・Cがいくら偉大なチームであっても、トロフィーを勝ち取るたびに“違反はどうなっているんだ?”という疑問がつきまとってすっきりしない。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2023-24で23シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル28年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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