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優勝してレジェンドになる! 全身全霊で勝利に貢献した冨安が最終節に望みをつなぐ

森昌利

勝利が絶対必要だったマンU戦。冨安は気力を振り絞って最後まで体を張り続け、チームメイトとともに虎の子の1点を守り切った 【写真:REX/アフロ】

 プレミアリーグ第37節。5月12日(現地時間、以下同)に敵地でマンチェスター・ユナイテッドと対戦したアーセナルは、前半20分に奪った1点のリードを守り切り、優勝へ望みをつないだ。冨安健洋は左サイドバックでスタメン出場。「体が重かった」と本人が言うように疲労が蓄積した肉体は限界に近づいていたが、優勝への強い思いが彼を衝き動かし、試合終了のホイッスルを聞くまで懸命に戦った。

醜いほど貪欲に勝利を求めた執念の1勝

 Arsenal win ugly to take title race to the wire.

 5月13日朝、BBCのホームページを開くと、そんな見出しが目に飛び込んできた。アーセナルがマンチェスター・ユナイテッドとのアウェー戦で1-0で辛勝した翌朝の記事の見出しだった。

 win ugly。直訳すると「醜く勝つ」となるか。最近のアーセナルはというと、ペップ・グアルディオラの下で修行したスペイン人青年監督のミケル・アルテタが、技術の高い若い選手を鍛えてスタイリッシュなチームを作り、ugly(醜い)という言葉とは縁がないフットボールを展開するイメージだ。

 しかし5月12日に行われたアウェー戦では、前半20分にレアンドロ・トロサールが先制ゴールを奪うと、そのリードを保とうと必死に守り、まさしく虎の子の1点を守り切って勝った。

 今季のマンチェスター・Uは不振とはいえ、リバプールをホームに迎え撃った3月17日のFA杯準々決勝では、驚異的な粘りを見せて延長戦の末に4-3の逆転勝利。さらに4月7日のリーグ戦では素晴らしい個人技で2点を奪って、同じくリバプール相手のホームゲームで引き分けた。こうして憎きレッズを世界最古のカップ戦で敗退させ、リーグ戦では勝ち点2を削り取り優勝争いから脱落させるきっかけを作ったように、本拠地オールドトラフォードでのマンチェスター・Uは油断ならない。

 またこのカードは20年前にはプレミア頂上対決であった。アレックス・ファーガソン監督とアーセン・ヴェンゲル監督が毎シーズンのように激しく優勝を争った当時は、リーグの看板と言える黄金カードで、今も間違いなくイングランド有数の強豪対決であり、伝統の一戦でもある。

 そんな試合でアーセナルは、なりふり構わず、1-0で逃げ切って勝った。それは醜いほど貪欲に勝利を求めた、執念の1勝だった。

 こうしてアーセナルは前日の11日、午後12時30分開始のトリッキーなアーリー・キックオフのアウェー戦で4-0とフラムを一蹴して、首位の座を奪ったマンチェスター・シティを抜き返し、1ポイント差で暫定首位に立った。

 醜く勝って(win ugly)、優勝争いの決着を最終戦まで持ち込んだ(to take title race to the wire)のである。

攻め上がらなかったのは体力面の不安も理由

この試合では攻め上がる場面はあまりなく、最終ラインにとどまり、粘り強い守りでマンUのイキのいいアタッカー陣を抑えた 【写真:ロイター/アフロ】

 長丁場のリーグ戦で優勝を果たすチームは、圧倒的な点差で大勝して強さを誇示するだけでなく、こうした1-0の勝利をしぶとく積み重ねることが重要になる。しかし当然ながら、どのチームもそれなりの決定力を持つプレミアリーグで、1-0で勝ち切るのは難しい。

 そんな厳しく難しい試合で、冨安健洋は90分フル出場を果たした。

 5月中旬の日曜日の試合。いつも天気が悪いことで有名なマンチェスターが真っ青な晴天に恵まれた。

 当日朝、香川真司が移籍してきた2012年から付き合いがある、英高級紙『ザ・ガーディアン』のマンチェスター・U番ジェイミー・ジャクソン記者が、その雲一つない真っ青な空の写真をSNSに投稿していた。筆者は思わず“いったいどこの空だ?”と書き込んでしまったが、マンチェスターの青天はそれほど珍しいのである。

 この好天に伴って、気温が25度まで上昇した。英国では完全な夏日である。

「体が重かった」

 21歳のコートジボワール代表FWアマド・ディアロと対峙し、デンマーク代表FWラスムス・ホイルンド、そして売り出し中の19歳アルゼンチン代表FWアレハンドロ・ガルナチョなど、身体能力が高く、手がかかるアタッカー陣を90分間にわたって跳ね返し続けた冨安は、試合後にそう語った。

 最近の冨安は、今季のプレミアで大量点を奪い続けるアーセナルのなかにいて「ゴールに絡みたい」と言っているが、この試合では――早い時間帯に先制したこともあり、それは冨安だけではなかったが――あまり前には出ず、守備に重点を置いてプレーをしているように見えた。試合後にそのことを聞くと、1点を守りたかっただけではなく、前に出る体力にやや不安もあったようだ。

 日本代表DFは、体が重く感じた理由として「前半は暑さもあった」と言ったが、今シーズン、気温が20度以上に上がったピッチで試合をしたのはほんの数えるほどだったに違いない。今年になってからは間違いなく初めての暑さだった。

 それに加えてこの試合直前、スカイ・スポーツが報道したことで、冨安が練習を欠席したことが話題になった。故障が発生してマンチェスター・U戦出場は微妙だという憶測も呼んだ。

 これはすぐにリカバリーのための休みだったことが明らかになった。ただし、この臨時の休日が必要だったことからも分かるように、冨安に連戦の疲れが溜まっていたことは確かだった。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2023-24で23シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル28年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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