【週刊ドラフトレポート#02】高校生スラッガーの評価は? “ギータ級”スイングのモイセエフ、走攻守ハイレベルな正林輝大
今回紹介するのは、選抜高校野球でともに低反発バットでフェンスオーバーのホームランを放ったモイセエフ・ニキータ(豊川)と正林輝大(神村学園)の2人。ともに強打の外野手として注目を集めていますが、それぞれどんな特長があるのでしょうか?
(企画編集:Timely!編集部)
*現時点のレベルバロメーター:
★★★★★5:複数球団の1位入札濃厚
★★★★☆4:1位指名の可能性あり
★★★☆☆3:2位以上の可能性あり
★★☆☆☆2:支配下での指名濃厚
★☆☆☆☆1:育成であれば指名濃厚
「迫力十分の豪快フルスイング!将来的にはギータになれる?」
新基準の金属バットでの公式戦第1号となるホームランを放ち、大きなインパクトを残したモイセエフ 【写真は共同】
【将来像】柳田悠岐(ソフトバンク)
全身を使えるスイングの力は十分。対応力も低くなく、打率も残せる可能性高い。
【指名オススメ球団】北海道日本ハム
右の若手スラッガーが育ち、次は左の強打者を確保したい。
【現時点のドラフト評価】★★★☆☆(2位以上の可能性あり)
モイセエフの評判を聞いたのは昨年夏のことだった。粗削りではあるものの、長打力が抜群の選手ということで、関東の強豪大学のコーチが勧誘のために練習を訪れたが、そのパワーは想像以上だったとのことで「(進路は)もうプロですね。大学は無理だと思います」という話を聞いて俄然興味が沸いた。2年秋の新チームになるとモイセエフの才能は本格的に開花。初めてプレーを見た東海大会の宇治山田商戦では4安打を放ち、明治神宮大会でも準決勝の星稜戦で高々と打ち上げるライトスタンドへのホームランを放っている。このプレーを見て前述したコーチの言葉は事実だということを確信した。
迎えた選抜高校野球。初戦の相手は大会屈指の好投手である吉岡暖(阿南光)で、バッテリーも徹底的にマークしていたこともあって、第2打席までは連続三振に倒れる。ただそんな中でもモイセエフの凄さを感じさせるプレーがあった。それが第1打席で放ったファウルだ。ファーストのファウルゾーンに高々と打ちあがり、あまりの高さに相手の一塁手が落球。その滞空時間は6.21秒を記録したのだ。これは高校生のファウルフライではなかなか見られる数字ではなく、その高さにスタンドからも思わずどよめきが起こっていた。
選抜大会から反発力が弱い新基準の金属バットが使われるようになったことは大きな話題となっており、昨年秋までとは明らかに打球スピードも全体的に落ちていたことは間違いない。その中でモイセエフの放ったファウルフライはそんな影響を全く感じさせないもので、第3打席で放ったライトフライもあわや長打という当たりだった。
そして迎えた第4打席。吉岡の投じたフォークボールをとらえ、ライトポール際に叩き込んで見せたのだ。コースも高さも甘かったことは確かだが、そのボールを見逃すことなくホームランという最高の結果にするのはさすがという他ない。この試合を視察に訪れていた侍ジャパンの井端弘和監督も、シングルヒットではなく長打、しかもホームランにできる点を評価していた。それまでの3打席で結果が出ていなかったことに対する焦りもあったはずだが、ホームランとなったスイングを見返してみても、決して上半身が力み過ぎることなく、下半身も上手く使ってバランス良く振り切れていることがよく分かる。またヘッドの走りも素晴らしく、そういった“スイングの総合力”の高さが、低反発のバットでも飛距離を生み出すことができる要因と言える。結局ヒットはこの1本だけで試合にも敗れて早々に甲子園を去ることとなったが、新基準の金属バットでの公式戦第1号となるホームランを放ったことで、残したインパクトは十分だった。
一方で課題が見えたことも確かである。一つはセンターの守備だ。昨年秋の東海大会では難しい打球に対してダイビングキャッチを見せるなど決して守備範囲が狭いわけではないが、阿南光との試合では打球判断を誤って長打にしてしまう場面があった。またシートノックでのスローイングも全体的に高く浮くボールが多い。基本的な脚力や肩の強さは飛び抜けたものがあるわけではないだけに、もう少し守備の技術や意識を上げる必要があるだろう。バッティングに関しても吉岡の高低を上手く使った攻めに対して、ボールから目線を切るのが早くなるスイングが目立った。決してミート力が低いわけではないが、高いレベルの投手を相手にした時にはもう少ししっかりボールを呼び込むことや、狙い球を絞るなどといった工夫は必要になってくるだろう。
ただそんな課題はありながらも、スイングの速さや打球の勢いに関しては選抜大会でもナンバーワンの迫力があったことは間違いない。プロのスカウト陣からも、その点を評価する声が多く聞かれた。春季大会や夏の大会はさらにマークが厳しくなることが予想されるが、その中でも結果を残し続けることができれば上位指名も十分に狙えるだろう。