『パワーユニット×車体の開発傾向』から今季のF1勢力図を予測する
2023年の全23戦中22戦で勝利を飾ったのが、レッドブルRB19だ。圧倒的な強さにあやかろうと、RB19からヒントを得たであろう車体も見られるが、”レッドブルの翼”は授かるのだろうか 【Red Bull Content Pool】
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今のF1にはメルセデス、フェラーリ、ホンダ、ルノーの4メーカーが参戦し、メルセデスは1)ワークスメルセデス、2)マクラーレン、3)アストンマーティン、4)ウィリアムズの4チーム、フェラーリは1)ワークスフェラーリ、2)ハース、3)キック・ザウバーの3チーム、そしてホンダは1)レッドブル、2)RBの2チームに同じPUを供給している。唯一ルノーだけが、アルピーヌへの単独供給だ。
同じPUを搭載した場合、吸排気系や補器類のレイアウトも似る。さらにチームによっては、ワークスチームのギヤボックスや足回りをそのまま移植していることも少なくない。そうなると全体的な車体デザインにも、共通点がある程度反映されるはずで、『メルセデス系』『フェラーリ系』『ホンダ系』『ルノー系』の4つのグループをひとつ目の分類とした。
一方で4メーカー別の分類とは関係なく、あまりに強かった昨年のチャンピオンRB19の空力および足回りのアイデアを積極的に取り入れたマシンも少なくない。そこでRB19の影響の強さを軸に、『追随型』『折衷型』『独自進化型』に分類した。
では全10チームのマシンの特徴を具体的に見ていこう。
メルセデスグループ
メルセデスは昨年中盤、ゼロポッドと呼ばれた極小かつ縦長のサイドポンツーンの独自デザインを捨てた。今季のW15はそれを発展させ、P字型のエアインテークや鋭く切り込んだアンダーカットが大きな特徴だ。一方で前方に突き出た下唇や、非常に高い位置のエアインテークなど、他の多くのチームが追随したRB19の手法は取っていない。さらにフロントサスのアッパーアームは、走行するコースによってモノコック側の取り付け位置を大きく変更できるユニークなアイデアを取り入れた。レッドブルの影響から極力離れようとした『独自進化型』と言えるだろう。
PUが導入された2014年、大幅なレギュレーション変更にどこよりもうまく対応し、そこから8連覇を成し遂げたメルセデス。独自路線を貫く姿勢が報われる時はくるか 【Pirelli】
外観だけを見る限り、昨年のレッドブルマシンに最も近いデザインである。空力形状だけでなく、プルロッドのフロントサス、ブレーキング時の車体の沈み込みを防ぐアンチダイブ機構なども、レッドブルの影響を強く受けたものだ。ただし昨年のMCL60が採用していた横長で突き出た下唇形状のエアインテークは、逆に上面が前に突出したものに変わっている。
2023年の日本GPで2、3位表彰台にあがった勇姿が記憶に残っているファンも多いはずだ。今季も3戦を経て、ワークスメルセデスよりもランキングで上まわっている。 【McLaren】
チームはマシン後部全体(エンジン、サスペンション、ギヤボックス、油圧システム)を、メルセデスから購入。しかしかつてレッドブルの空力部門を率いたダン・ファロウズがテクニカル・ディレクターを務めることもあって、空力コンセプトは受け口形状が顕著なエアインテーク、強く絞られたサイドポンツーン下部など、昨年型レッドブルの影響を色濃く受けている。ただしフロントサスは、プッシュロッドのままだ。
バーレーンGPとオーストラリアGPで2台そろって入賞するなど活躍が目覚ましい。車体が持つポテンシャルをドライバーがきちんと引き出している印象だ 【Pirelli】
ここ数年は最下位付近の成績が続いていた、かつての名門ウイリアムズ。しかし昨年は選手権7位と、復活の兆しも見える。昨年型FW45は最高速の伸びが最大の武器で、特にストレートの長いコースで威力を発揮した。今年のFW46も基本的にはローダウンフォースの空力コンセプトを維持。ただしサイドポンツーン下の気流の流し方など、そこかしこにRB19の影響が見える。
2023年に8名の元レッドブル所属のエンジニアが加入しているため、RB19コンセプトが反映されたマシンができあがるのも当然といえるだろう 【Pirelli】
フェラーリグループ
昨年は独自のバスタブ型サイドポンツーンなど、かなり我が道をゆく空力コンセプトだった。今年のSF-24も基本的にはその流れで、たとえばサスペンション形式は前プッシュロッド、後ろプルロッドと、レッドブルとは真逆だ。一方でフロントサスには、レッドブルとほぼ同じアンチダイブシステムを取り入れた。何よりサイドポンツーン形状は、RB19の影響が色濃い。側面衝撃を吸収する下部バーの位置を低く設計し直したことで、エアインテークをかなり高い位置に置き、サイドポンツーン下方の絞り込みを一層大きくすることに成功している。
コーナリングの際にダウンフォースが抜けてしまう問題解決に注力したと、車体技術責任者は話す。その対策は奏功している模様で、今季一勝をもぎとった 【Ferrari】
昨年のハースは予選一発では時に上位に迫る速さを見せながら、レースはタイヤが持たずに失速するパターンを繰り返した。それが今季は開幕3戦で2回の入賞。その結果を見る限り、課題は早速克服されつつあるようだ。昨年のVF-23は、親チームというべきフェラーリにかなり寄せたコンセプトだった。それに対しVF-24はフェラーリらしさは残しつつ、サイドポンツーンの絞り込み、エンジンカウルのデッキ化など、RB19の影響は明らかだ。
車体の弱みを補いつつ強みを引き出す、ヒュルケンベルグとマグヌッセンのベテランコンビが見せ場を作っている今季。小松礼雄新代表の体制強化は続く 【Pirelli】
ザウバーの新車はマクラーレンの不振の責任を取って1年前に更迭されたジェームズ・キーが、古巣に戻って手がけた最初のマシンである。それもあってフロントサスはマクラーレン、そしてレッドブルと同じく、低重心で空力に優れるプルロッドに変更された。さらにサイドポンツーンの開口部、および全体の形状は、昨年のフェラーリ型から一気にレッドブルRB19に近いデザインになった。フェラーリ製PUの搭載も来年までで、ザウバーの『フェラーリ離れ』は加速しているように見える。
中団グループに浮上したいチームにとっては、最適解ともいえるRB19をお手本にするのが成功への近道。フェラーリ製PUを搭載するザウバーもこの流れにのる 【Pirelli】