フォーミュラEは、F1を超える? 批判の渦から一転、魅力と将来性に溢れていた電気自動車レース
優勝したマキシミリアン・ギュンターが、大歓声のファンたちの間を表彰台へと駆け上がっていく。フォーミュラEを象徴する光景だった 【(C)FormulaE】
予想よりはるかに面白かったフォーミュラE
普段、喧騒にまみれたサーキットを主な取材場所にしている僕には、何もかもが勝手の違う環境だった。でも同時に、新鮮でもある。これが電気自動車のレースというものか。
予選は、まずは22台のマシンを2グループに分けてタイムを争わせ、そこでの上位8台が1対1で速さを競うトーナメント形式だ。ファイナルでは唯一の日本チームであるニッサンに所属するオリバーローランドが、0.021秒の僅差でポールポジションを獲得した。あれ?もしかして、F1と同じくらい面白い予選かも。そう感じていることに、我ながら少し驚いていた。
そして決勝レースは、さらなる盛り上がりが待っていた。スタート自体は音が小さいこともあって意外にあっけなく始まったが、そこからは終始抜きつ抜かれつの展開だ。
元F1ドライバーやF2チャンピオンたちが多数参戦しているのだから当然だが、バトルのレベルも非常に高い。F1のように前のマシンの乱流で挙動が乱されることもないから、ぴたりと背後についてオーバーテイクの機会を伺う。レース終盤には電気も減り、タイヤも持たなくなって、両方のマネージメント能力も問われる。といっても、エコランのような退屈な展開に陥ることなく、緊迫した優勝争いは最後まで続いた。
もはや別物 マシンもレースも進化を重ねて来た
最新型第3世代のマシン。マシン後方への乱流がF1ほどひどくなく、マシン同士の超接近戦が展開される 【(C)FormulaE】
10年近く前に観客として観に行ったパリ大会では、マシンの走行中に大音量で音楽を流していて、かなり違和感を覚えたことを覚えている。主催者側としても、生まれたばかりの電気自動車レースをどう扱っていいのか、試行錯誤の時期だったのだろう。
なにしろ当時のマシンはドライバー込みで900kgとかなり重い上に、パワーもなかった。バッテリーの持続時間も短く、わずか100kmのレース距離すら走り切ることができなかった。そのためドライバーはレース中に、マシンを乗り換えていたほどだ。「こんなのはモータースポーツじゃない」「純粋にレースとして面白くない」という批判が渦巻いたのも無理はなかった。
しかしその後、マシンはどんどん性能を向上させ、レース形式も洗練されて行った。2018年シーズンから導入された第2世代マシンはバッテリー容量とモーターのパワーが飛躍的に上がり、乗り換えなしでレースを走り切れるように。野暮ったかった外観も、近未来的にかっこよくなった。
さらに去年からの第3世代では電気モーターが前後に2基搭載され、モーターパワーは第1世代に比べて75%増大した。車重も840kgと、60kgも軽くなった。こうして最高速は320km/hまで伸び、ついに300km/h超えを達成した。
レース自体も、面白さを増している。特筆すべきが「アタックモード」と呼ばれるパワーアップのギミックだ。これを使用すると、400馬力ちょっとのパワーが最大480馬力近くまで増大する。
このアタックモードはレース中に2回、計8分間使える代わりに、特定のコーナーのアウト側に設けられた「アクティベーションゾーン」を通過しないとモードに入れない。つまりパワー増大と引き換えに通常の走行ラインを外れることで、隙も生まれるわけだ。
実際に東京大会では、モードに入った瞬間に背後のライバルに抜かれるドライバーも少なくなかった。一方で優勝したマキシミリアン・ギュンターは、2秒以上のマージンを築いてアタックモードに入って首位を死守と、駆け引きの巧拙が明暗を分けた。