フォーミュラEは、F1を超える? 批判の渦から一転、魅力と将来性に溢れていた電気自動車レース

柴田久仁夫

成功のカギは「電気」と「公道」

ひょっとすると来年の東京大会は、高層ビルの立ち並ぶ新宿副都心で開催されるかも? 【(C)FormulaE】

 日本の一般道での自動車レース開催は、2020年の島根県江津(ごうつ)市でのゴーカートレースを除けば、史上初だ。しかも今回は開催地が東京都内で、電車で通うことができる。目新しさもあったと思うが、チケットは売り出して3分で完売。第2次募集も1分で売り切れた。

 これを受けて主催者側は、会場内に設置された「ファンビレッジ」を、チケットを持たない人たちにも無料開放した。東京ビッグサイトの広大な施設内に巨大スクリーンが設置され、全セッションが迫力の大画面で観戦できる。フォーミュラEマシンのシミュレーターや、ちびっ子たちの電動カート、タイヤ交換タイムトライアルなども全て無料で楽しめるとあって、レース前には1万人近くがファンビレッジに詰めかけた。

 さらに素晴らしかったのが、決勝レース後の表彰式がこのファンビレッジ内で行われたことだ。トップ3ドライバーが、花道の両側のファンたちとハイタッチを交わしながら、表彰台へと駆け上がっていく。ファンとの距離がすっかり遠くなってしまったF1を見慣れている身には、実に新鮮な光景だった。

 実はフォーミュラEは2014年の創設当初から東京での開催を熱望し、当時のCEOが何度も来日を重ねていた。しかし東京都、そしてそれ以上に警視庁が公道でのレース開催に難色を示し、実現できずにきた。

 それが今年、10年越しの開催にこぎつけたのは、排ガスゼロを目指す「TokyoZEV(Zero Emission Vehicle)」キャンペーンを推進中の東京都の思惑に、この大会がうまくハマったこともあった。言い換えればこの10年の間に、「事故と隣り合わせの自動車レースを公道で開催するなどあり得ない」というお上の固定観念が、「騒音も排ガスも出さないクリーンなスポーツイベント」へと、激変したとも言える。

 その意識がさらに進めば、今後は東京マラソンと同じく都庁周辺の公道での開催も可能かもしれない。フォーミュラE側は「住民の日常生活に支障が出ない開催」が最優先としているが、都庁周辺は住宅がほとんどない。これが実現したら、さらなる盛り上がりも間違いだろう。

フォーミュラEは、F1を超える?

モータースポーツの頂点にF1とフォーミュラEが並ぶ日が、いつか来るかもしれない 【(C)FormulaE】

 では将来的にフォーミュラEは、F1を超えるのか? 今回の取材の前だったら、「そんな未来は、絶対にあり得ない」と、断言していたところだ。しかし今は、「う~ん、もしかしたら」というところまで僕の固定観念も変わりつつある。

「公道で行われる電気自動車レース」という形態に、僕自身それだけの魅力と将来性を感じてしまったのだ。もちろんF1にも市街地レースは存在するし、その数は増えてきた。しかしフォーミュラEに比べれば開催のハードルは非常に高く、東京やニューヨークのような大都市での開催はまず不可能だ。今のF1をF1たらしめている超高性能の内燃機関が発する排ガスと騒音が、最大のネックになっているからだ。

 そしてフォーミュラEの電気モーター、バッテリーの性能は、確実に向上を続けている。ジェフ・ドッズCEOは「EVは内燃機関より潜在的に速く、加速もはるかに力強い。今後4、5年の間に、フォーミュラEマシンはエンジン搭載のレーシングカーより速くなるだろう」とまで言う。

 一方でF1も2026年以降は電気のエネルギー比率をほぼ50%まで増やし、燃料も100%カーボンニュートラルと、エコな車へと方向転換を図る。しかしF1が内燃機関を完全に放棄することは、(少なくとも今のところは)考えにくい。

 もしドッズCEOの予言するような未来が本当に訪れたら、才能あふれる若手ドライバーたちの選択肢がF1とフォーミュラEの二つに増えることになる。この二つのカテゴリーが、そんな形で共存できたら最高であろう。

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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