日本代表が踏み出した再起への一歩目 北朝鮮戦で「覇気」は取り戻せたか?

舩木渉

開始早々に田中碧が先制ゴール。チームの狙いがハマった重要な1点が勝利につながった 【Photo by Hiroki Watanabe/Getty Images】

 日本代表が再始動した。AFCアジアカップでの早期敗退から約1カ月経ち、迎えたのは北中米ワールドカップ(W杯)アジア2次予選の朝鮮民主主義人民共和国代表戦だ。選手たちはカタールで味わった敗北の悔しさを胸に、さらなる進化を志して集まってきた。では、試合の中で実際に変わろうとする意志や進歩した姿を見せられたのだろうか。

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長友佑都が指摘したアジアカップ敗退の要因

出番はなかったが試合中もベンチから盛んに指示を出すなど、献身的にチームを支えた長友佑都。いまだ存在感は絶大だ 【Photo by Masashi Hara/Getty Images】

 北中米W杯に向けたアジア2次予選が再開した。21日に行われた試合で日本代表は朝鮮民主主義人民共和国代表(望ましくはないが、本稿では便宜的に「北朝鮮代表」と表記する)に1-0の完封勝利を収めている。

 昨年11月と今回の活動の間に挟まる形で今年1月から2月にかけて行われたAFCアジアカップではイラン代表に屈して準々決勝敗退。そこで味わった悔しさや突きつけられた課題をどのような形で改善につなげ、結果に反映させていくかが21日の北朝鮮代表戦におけるテーマの1つだった。

 アジアカップはカタールで戦っていた選手たちだけのものではない。カタールのピッチに立てなかった選手たちも、「自分がいたら……」という想いを胸に集まってきていた。2023年3月以降、日本代表から遠ざかっていた長友佑都もその1人。合宿初日の取材でアジアカップの話題を振られると「元気がないな、と。覇気も。アジアカップまでみんな生き生きしていて、躍動して、意欲も覇気もあって、『今の代表は本当に強いな』と思って見ていたんですけど、アジアカップは本当に覇気がなかった」と述べていた。

 日本代表の「覇気」に関しては、アジアカップ直後にもさまざまな方面から指摘されていた。その中身に関しては、単に勝利を貪欲に追い求める姿勢を意味するのはもちろん、ピッチ上で相手を圧倒するような迫力や、相手を常に上回るような戦術、相手に付け入る隙を与えないほどのクオリティなど、さまざまな意味が含まれていると感じる。

 なので、何か1つだけ改善すれば「覇気」が宿るとは思わない。それでもテレビの前にいながらピッチ上の選手たちの機微を感じ取れる長友ならではの指摘だった。そのうえで先に引用した発言に続く彼の言葉にも注目したい。

「何が影響かはわからないですけど。何か1つ歯車が噛み合えばまたガラッと変わっていくし、歯車が合わなくなればアジアでも勝てなくなる」

序盤から仕掛けた日本代表

 北朝鮮代表戦は、それぞれが持ち寄った現在の日本代表に対する課題感を擦り合わせてさらなる進化を目指した時に「歯車」が噛み合うのかが試される90分間でもあった。そして、結論から言えば歯車は再び噛み合い始めたと言えるのではないだろうか。

 試合開始早々、日本代表は仕掛けた。相手のキックオフと同時に前線からボールに対して激しくプレッシャーをかけ、高い位置での奪取とショートカウンターを連発。そのうちの1本が田中碧の先制点につながった。

 ゴールに向かって仕掛けていく姿勢、セカンドボールを逃さない執念、そして最後にペナルティエリア内まで詰めている田中の意識の高さ。最初からトップギアで仕掛けていくのはチームの狙い通りで、左ウィングとして先発出場した前田大然も「相手もアグレッシブにくるので、こっちも受けて立っちゃうとアジアカップと同じになるとわかっていた。最初からアグレッシブにいけたと思います」と手応えを口にした。

 幸先よく先制した日本代表はボールを握って試合を進めていき、北朝鮮代表がロングボール主体のカウンターを狙う展開に。ユニフォームの色は違ったが、どこかアジアカップの準々決勝を思い出してしまう雰囲気があった。北朝鮮代表の攻撃は縦に非常に速く、手数をかけずまっすぐゴールに向かう鋭さもある。さながら“ミニ・イラン戦”だ。

 しかし、あの時と同じ失敗は繰り返さない。ロングボールを蹴られ続けても、その押しに負けることなく跳ね返し、相手に主導権は渡さなかった。北朝鮮代表はおそらくアジアカップで日本代表が敗れたイラク代表戦とイラン代表戦を分析・研究してきただろうが、同じ轍は踏まない。手綱は握って離さず、追加点こそ奪えなかったものの前半は辛抱強く相手の隙を探す作業を続けた。

 後半、北朝鮮代表は選手交代も使いながら一気にギアを上げてきた。もし「覇気」を欠いたチームなら気圧され、主導権を相手に渡してしまっていただろう。ただ、こうした変化はある程度想定できた。

 昨年11月のアジア2次予選初戦、シリア代表と対戦した北朝鮮代表は守備的に戦った前半に失点を喫した。今回の日本代表戦と同じ状況で、彼らは後半から全く違うチームに変貌したのだ。勇敢にポゼッション主体でゲームを組み立て、シリア代表をどんどん押し込んでいった。

 後半開始早々、日本代表は一度ゴールネットを揺らされている。GKカン・ジュヒョクがディフェンスラインから蹴り込んだロングボールを起点に、こぼれ球を2度にわたって拾われた形だった。結局は直前のファウルで得点と認められなかったものの、肝を冷やす場面だった。それでも失点の危機と言えるような大きなピンチはこの1つだけ。もし同点弾となっていたらその後の展開は変わっていたかもしれないが、以降の日本代表は冷静そのものだった。

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著者プロフィール

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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