日本代表が踏み出した再起への一歩目 北朝鮮戦で「覇気」は取り戻せたか?
選手交代から伝わった勝利への道筋
途中出場で攻守に奮闘した橋岡大樹。彼の投入やシステム変更には森保一監督からの明確なメッセージがあった 【Photo by Hiroki Watanabe/Getty Images】
その後、押し込まれ気味の時間帯が続くと、74分に3枚替えを敢行。堂安律、南野拓実、菅原由勢を下げて谷口彰悟、浅野拓磨、橋岡大樹を送り出す。この交代によってシステムは4-1-4-1から5-4-1に変わり、ディフェンスを厚くして逃げ切りに入る姿勢が見えるようになった。
残り15分のタイミングで右ウィングバックに入った橋岡は「後半は結構難しい状況になっていた中で、5バックにするということは守備を固めるという意図が見えた」と振り返る。それでも「攻撃をやめてはいけないと思ったので、行けるところは仕掛けて、守備のところではやらせないというのが僕の強みだと思うので、そこを全力でやろうと思っていました」と攻守に自らの役割を全うした。
「難しい状況で入った中、長友さんにも『とりあえずゴリゴリ仕掛けろ』と言われていたので、持った時にはとにかく縦に仕掛けようと思っていました」
無失点で抑えるために守備に重心を移しつつ、ゴールを奪いにいく意識を残しておく。アディショナルタイムまで残り10分を切っていた81分に上田綺世を下げて小川航基を起用し、1トップを入れ替えたことにも「もう1点取りにいく」という指揮官の意図が透けて見えた。
最終スコアは1-0と最少得点差での勝利になった。多くの選手が「自分があそこで決めていれば……」と語ったように、追加点を奪ってもっとラクに試合を進められた可能性は十分にあった。それでも情報が少ないうえ局面でタフに戦ってくる相手に対し、常に先手を取りながら勝ち切れたことが何よりの成果だ。無失点試合が一度もなかったアジアカップと比べれば、安定感は見違えるほどだ。
ゲームキャプテンを務めた板倉滉も「特に後半、ああいう時間帯になるとラインを下げてコンパクトに守ることも多いと思いますけど、あそこで5バックにしたことで、もう1回前からプレスに行こうという意図も感じられました。だからこそ、後ろも余裕をもって対応できていたと思うし、前半も特に切り替えの速さで(ロングボールの)出どころを抑えてくれていた。だから、本当にチーム全体として、ゲームの締め方はポジティブに捉えて次に向かいたいと思います」と90分間を通じたマネジメントに手応えを感じているようだった。
歯車は再び噛み合い始めたが……
ゲームキャプテンを務めた板倉滉。アジアカップでは批判を浴びた空中戦にも強さが戻り、守備の要として完封に大きく貢献した 【Photo by Koji Watanabe/Getty Images】
板倉は「本当に危機感をもって日本に帰ってきましたし、このままではダメだ、日本代表をもっと強くしたいという思いはすごく強い。今日はキャプテンを任せてもらった中で、自分のプレーどうこうは正直どうでもよくて、チームが最後に勝っていればいいという気持ちでやっていました。まずは、結果として勝ち点3を取れたことはよかったかなと思います」と語る。
アジアカップではパフォーマンスが上がらず本来の実力を発揮しきれなかった菅原由勢も「試合の中身を見たらいろいろ突き詰められる部分があると思うし、もっともっと上を見たときに、効果的な攻撃ができたんじゃないか、自分が攻撃参加できたんじゃないかというのは感じています。でも、しっかり今日は勝てたことが大事」と、反省しつつも勝ち点3をつかめたことの重要性を強調した。
限られた時間の中で充実した準備ができたという手応えもある。アジアカップとは違い、全員が集合できるのは試合2日前で、全員で練習できるのは1日しかない状況でも「自分たちがやろうといろいろな話し合いもできたし、取り組みもできた」と菅原は言う。未来を見据える23歳の両眼に不安や油断は一切なかった。
もちろん課題がゼロになったわけではない。試合内容に改善すべき点があることに関しては菅原以外の多くの選手の見解も一致している。とはいえ、屈辱的な敗退となったアジアカップの失望を乗り越え、森保監督率いる日本代表が次の一歩を踏み出したことは確認できた。
1試合で全てが変わるわけでも、一気に進歩するわけでもないのは当たり前。まずは前進できていることを見せられたのは今回の北朝鮮戦の大きな収穫だろう。歯車は再び噛み合い始め、一度途切れそうになった森保ジャパンのW杯優勝への道は、まだしっかりとつながっていると確認できた。アジアの戦いにおいてもシビアに勝利を追い求め、常に相手を上回ろうとする「覇気」のようなものも見えた。
そんな中で26日に予定されていた北朝鮮代表とのアウェイゲームは平壌開催が白紙となった。この流れを継続して発展させていく場が失われかねない状況なのは心配だが、経験豊富な選手たちが自らの手でコントロールできないものに動揺することはないと信じている。