なでしこジャパン、現時点での「五輪金メダル」までの距離は? 最終予選を通じて得た収穫と課題

早草紀子

北朝鮮との激闘を制し、パリ五輪出場を決めたなでしこジャパンだが、本当の戦いはここからとも言える。残り約5カ月で改善すべきポイントは? 【写真は共同】

 北朝鮮との2連戦となったアジア最終予選を制して、今夏に開催されるパリ五輪への出場権を勝ち取ったなでしこジャパン。苦しんだ中立国サウジアラビアでの第1戦から、ホームの第2戦で復調を遂げた要因はどこにあったのか。そして、この2試合を通じて得た収穫と課題とは──。残り約5カ月となったパリ五輪本番で、日本が目標に掲げる「金メダル」までの距離を縮めるために必要なものを、なでしこに密着する早草紀子氏が提示してくれた。

リオ五輪の最終予選時と似た状況に

 勝利を告げるホイッスルが鳴り響いた瞬間、キャプテンの熊谷紗希(ASローマ)はその両手を思い切り国立競技場の夜空に突き上げた。3バックを形成し、ともに北朝鮮の猛攻を跳ね返し続けた南萌華(ASローマ)と高橋はな(三菱重工浦和レッズレディース)が駆け寄ると、満面の笑みが弾けた。

「ホッとしています……その一言に尽きる。本当に良かったです」

 試合後、安堵の表情でそう語った熊谷が、その背中に負っていたものはあまりにも大きかった。

 2016年、なでしこジャパンは大阪で戦ったリオデジャネイロ五輪のアジア最終予選で2勝1分け2敗の3位に終わり、2位以内(出場6カ国中)に与えられる出場権を逃した。

 当時のチームを牽引していたのは、宮間あや、阪口夢穂といった先輩たち。2011年のワールドカップ(W杯)初制覇の偉業から、翌年のロンドン五輪での史上初の銀メダル獲得、そして15年のW杯準優勝と、世界に「NADESHIKO」の名を知らしめたチームはしかし、「一瞬にして解散になった」(熊谷)。

 この予選敗退が、日本国内における女子サッカーの地位をどれだけ脅かすことになったのか。五輪出場の難しさとその重みをリアルに知るのは、今のなでしこジャパンでは熊谷ただ1人だった。

「歯車が噛み合っていたとは言えない状況だった」

 当時25歳の熊谷は、リオ五輪予選の敗因をそんな風に語っていた。それと似た状況に陥ったのが、北朝鮮とのホーム&アウェイ2連戦で雌雄を決することになった、今回のパリ五輪最終予選の第1戦だった。

 ベスト8入りを果たした昨夏のW杯後、チームは新たなオプションとして熊谷をアンカーに据える4-1-4-1に取り組んできた。しかし、確かな手応えを掴み切れないまま、集中合宿で徹底した日本対策を練ってきた北朝鮮と対峙することとなる。

 意表を突く5バックを敷いてきた相手に、日本は攻守で後手を踏む。直前まで開催地が決まらず、ローマから日本へ、さらにはサウジアラビアへと渡った長距離移動の疲労もあって、熊谷のプレーも精彩を欠いた。アンカーとして存在感を発揮できず、69分には18歳の谷川萌々子(FCローゼンゴート)との交代を余儀なくされている。

重い空気を払しょくした選手ミーティング

アンカーで起用された第1戦は精彩を欠いたキャプテンの熊谷(中央)だが、高橋、山下、南らと最終ラインを形成した第2戦で、さすがの存在感を示した 【Photo by Masashi Hara/Getty Images】

 スコアレスドローに終わった試合後には悔しさを滲ませていた熊谷だが、それでもこのままでは終われないと、ホームでの第2戦に向けてすぐさま気持ちを切り替えていた。

 もともと勉強家の熊谷である。試合後は映像を見ながら、自分なりの分析を欠かさない。そして時間を見つけてはDF陣で集まり、お互いに意見を出し合って、修正点を探っていく。

「ほっておくと、何時間でも話してますよ。こっちの(全体)ミーティングを短くしないと(笑)」

 池田太監督が冗談交じりにそう話したこともあった。全員で活発に意見をぶつけ合う選手ミーティングは、熊谷がなでしこジャパンのキャプテンを引き継いでから最も大事にしてきたことだ。そして今回も、この選手ミーティングが初戦の重い空気を払しょくする。

 第2戦に向けて、池田監督は実質2日間での3バックへの移行を決断。昨年のW杯以来となる3バックの感覚を、短時間で取り戻さなくてはならない。最終ラインにポジションを下げた熊谷を中心に、全員で話し合いながらファーストディフェンダーの動きとボールの奪いどころを突き詰めた。

「ワールドカップで積み上げた“修正力”がここで生きた」(熊谷)

 こうして迎えた運命の国立決戦で、歯車がふたたび噛み合う。システム変更によって局面、局面でミスマッチを生み出し、第1戦の不出来が嘘のようになでしこらしい連動が戻った。

 26分に高橋のゴールで先制すると、予想通り後半に訪れた北朝鮮のトップギアでの反撃にも懸命に対応した。熊谷も捨て身のブロックでシュートを跳ね返す。76分に2点目を奪ったわずか5分後、北朝鮮に1点差に詰め寄られるゴールを許した直後にはピッチ上で円陣を組み、熊谷がこう言ってチームメイトを鼓舞した。

「落ち着こう! 今、自分たちは勝っている。小さなことはせずに大きなプレーで残りの時間を戦おう!」

 ここぞという場面では、やはり熊谷のキャプテンシーが頼りになる。残り9分、タイムアップの瞬間まで、なでしこジャパンの集中が切れることはなかった。

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著者プロフィール

東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりJリーグ撮影を開始。1996年から日本女子サッカーリーグのオフィシャルカメラマンとなる。以降、サッカー専門誌で培った経験を武器に、サッカー撮影にどっぷり浸かる。現在はJリーグ・大宮アルディージャのオフィシャルフォトブラファーであり、日本サッカー協会オフィシャルウェブサイトでは女子サッカー連載コラムを担当している

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