これは復帰でも復活でもない。FC東京・荒木遼太郎、自分を信じ続けた末の現在地

青山知雄

FC東京へ移籍した今シーズンは開幕2試合で3得点という強烈なインパクトを残し、約2年ぶりにパリ五輪世代の代表にも返り咲いた 【青山知雄】

 約2年ぶりにパリ五輪世代の日本代表に招集された荒木遼太郎。U-23日本代表を率いる大岩剛監督は3月15日のメンバー発表会見で「FC東京で出しているパフォーマンスをそのまま我々のグループで発揮してくれれば、非常に力になってくれると思う」と期待を寄せた。彼が日の丸を着けるのは、2022年3月のドバイカップ以来。これは復帰という表現が正しいのか、それとも復活と称するべきなのか。

 センセーショナルな活躍を見せた10代の姿は記憶に新しいところだ。東福岡高から鹿島アントラーズに加入した2020年は、クラブの高卒ルーキーとして内田篤人さん以来のとなるリーグ開幕戦出場を果たし、プロ2年目にはJリーグ史上2人目となる10代でのリーグ戦2ケタ得点を記録。年末のJリーグアウォーズでベストヤングプレーヤー賞を受賞し、日本代表にも初選出された。だが、そこから彼を待ち受けていたのは、2年にわたる苦悩の日々。ケガに悩まされ、出場機会を得られない時間をどんな想いで過ごし、再び脚光を浴びるに至ったのか。

 2024シーズン、覚悟の移籍で新天地を選び、FC東京で確固たる結果を出し始めた荒木の心中とは。そこには「復帰」でも、「復活」でもないという彼の強い信念があった。(取材日:3月12日)

「完全復活」と言われることが嫌い

2021シーズンは開幕戦でのゴールを皮切りに10得点をマーク。10代での2ケタ得点はリーグ史上2人目の快挙となった 【写真:Jリーグフォト】

──開幕2試合で3ゴール。FC東京への移籍後は「動きにキレが戻ってきているし、試合に出られたら結果を出す自信がある」と言い続けてきました。実際に結果を出したことで、周囲からは“完全復活”と見られることが増えているんじゃないですか?

 そうですね。ただ、自分は“完全復活”という言葉が嫌いで、言われるのも嫌なんですよね。自分としては試合に出られれば活躍する自信があった。でも、試合に出ていなかったから、そう思われるのは仕方がないです。この数試合で自分が持っているものは本当に出せていると思うし、そう思わせていた方々には、「やっぱりできるんだ」と思わせることができているんじゃないかと思います。

──自分のイメージと周りからの見られ方に乖離があった。

 自分としては全然違うと思っていたし、もっともっとやれるところを今後も示していきたいですね。

──その自信についてお伺いしていきたいと思います。東福岡高を卒業して鹿島アントラーズに加入した2020年は、クラブの高卒ルーキーとして内田篤人さん以来となるリーグ開幕戦出場。2年目には史上2人目となる10代でのJリーグ2ケタ得点を記録し、ベストヤングプレーヤー賞を受賞。日本代表にも初選出されました。最初の2年間で見せた活躍や成績は自信の源になっている?

 最初の2年間で本当に自信がつきましたし、自分はまだまだやれるとも思っていました。

──プロに入るチャンスをもらえばやれるという自信もあったんですか?

 いや、1年目は高校生とプロでは全然違うと思ってました。本当に何も知らない世界だったので、「当たって砕けろ」くらいの気持ちで思いっきり自分のプレーを出して、本当に当たり続けた感じでした。

──自分が「プロでもやれる」という手応えを感じたのは?

 試合を重ねていくうちに自信がついていきましたし、仮にミスをしても自分で取り返せばいいと考えて、サッカーの基本に返ったような形で取り組むようにはしてました。最初はミスをしたら結構周りに言われていたんですよ。でも、自分で取り返したらミスをしても言われなくなってきた。ミスをしても取り返すからいいっていう気持ちになれて、どんどんチャレンジできるようになりました。

──鹿島に経験豊富な先輩や指導者がたくさんいたと思います。そこでの取り組みやアドバイスがプラスになっているんじゃないかと思います。

 勝利に対するメンタリティなど、学ぶものは本当に多かったですね。日々の練習でもちょっとした球際の部分やミニゲームでも勝利へのこだわりはすごかった。最初に鹿島に入って良かったと思う部分は大きかったです。

──もともと荒木選手はかなりの負けず嫌いだったと聞いていますが、それでも驚いた部分があった。

 勝利への執念がめちゃくちゃ強かったんです。遊びのようなゲームでも、ちゃんと本気になるし。その中でも自分は同期の存在が大きかった。染野(唯月)、松村(優太)、山田(大樹)が同期なんですけど、みんな1年目から試合に出て活躍していたので、「同期には負けたくない」って気持ちが強かった。そこでお互いに切磋琢磨しながらやれたことが自分を成長させてくれたかなと思います。

鹿島での成長と苦悩

2023年3月、ヘルニアを乗り越えて復活弾で勝利を導くと試合後に鈴木優磨から肩車で祝福された 【写真:Jリーグフォト】

──鹿島の選手は伝統的に練習が厳しいですが、試合になると若手に伸び伸びプレーさせている印象があります。

 正直、鹿島では試合よりも練習のほうがきつかったんですよね。フィジカル的にもメンタル的にも。プロ入りしてすぐのプレシーズンマッチとか開幕戦に出て思ったんですけど、「なんか試合のほうが楽だな」って。それが鹿島だし、それだけ練習から激しくやっている証拠なんだと思いました。プロ入り前から少し聞いてはいたんですが、実感としてはあまり分かっていなかったんです。実際にチームで練習して、試合になったときに結構感じることは多かったですね。

──鹿島で学んできた部分も含めて、荒木選手が勝つために必要だと思うことは?

 もちろん一人ひとりが自分の仕事を徹底することは大事なんですけど、その中で大事になるのは集中力だと思います。90分間を通して絶対に必要になってくるものだし、本当に一瞬でも気を抜けないのがサッカーなので。ピッチに立っている11人のうち、誰か一人でも気を抜いたら、そこから失点することもありますからね。

──集中力をキープできる工夫、秘訣はありますか?

 常に考えることを止めないようにはしていますね。常に考えていたら危険な場面が分かるし、チャンスになりそうな展開も見える。そうしたら次に体を動かせばいいんで、フィジカル的に厳しいときこそ頭を動かすようにしています。

──鹿島で結果を出せたのは、プロ入り後に成長したからなのか、それとも自分の実力を発揮できたからなのでしょうか。

 やっぱり鹿島の環境があったからだと思います。さっきも言ったように、試合のほうが楽に感じたのは大きかったです。

──その後はケガもあって、自分のイメージとは違った時期を過ごすことになってしまいました。あまり思い出したくないかもしれないですけど、どんな思いで過ごしていたのでしょう。

 プロ3年目はヘルニアでサッカーができなくて、復帰しても違和感が残っていたので、自分の中では「仕方がない」と割り切るようにはしていました。でも、昨年は痛みが取れてコンディション的には問題がなかったんですよ。ただ、監督のサッカーにフィットしきれなかった。その中で自分のやるべきことはやっていたとは思っています。

──そこでポジティブに捉えて成長しようとトライした?

 いや……正直に言うと、めちゃくちゃネガティブになってました。でも、そこで周りの先輩たちが常に声を掛けてくれたんです。その声掛けで自分を保つことができた。もしそれがなかったらもっともっとひどい状況になっていたと思います。(鈴木)優磨くん、(広瀬)陸斗くんとかが「誰にも難しい時期はある。そういう時期こそが大事だ」という感じで、言葉をもらったというより練習以外のトレーニングに強制的に誘ってくれたんですよ。最初はちょっと嫌だったんですけど(苦笑)、でも今考えると、そういうトレーニングができて良かったと思います。練習前のジョギングも含めて、練習に対する準備をかなり教えてもらいました。

──その2年間は結果を見ると苦しかったけれど、先輩から学んだものが今の自分につながっていると。

 そうですね。毎日の練習に臨むための体作りが大事だと思うようになりました。それが今も「どうしたら次の日にもっといいパフォーマンスを出せるか」とか「いい目覚めでトレーニングを迎えるか」という取り組みは続けているんで。そこは結構大きかったかなと思っています。

──もともとストイックなタイプだった?

 いや、全然ストイックじゃなかったし、今も自分ではストイックじゃないと思うんですけど、ちゃんと8時間寝ても起きた時に眠さが残ったりすることがあると、それが嫌だなって思っちゃうタイプなんですよ。そういうところから練習に対する意識が変わっていったので、それがストイックなのかどうかは分からないですけど、少しずつストイックになってきたのかもしれないですね。今は本当にいいサイクルで回っていると思うし、自分の中でも定まってきたような感じがして。練習にも試合にもいい形で取り組めているようになってきました。でも、もっと活躍するためには普段の過ごし方からもっとやらなきゃいけないと思います。

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著者プロフィール

2001年からJリーグやJクラブの各種オフィシャル案件で編集やライターを歴任。月刊誌『Jリーグサッカーキング』で編集長も務めた。関係各所に太いパイプを持ち、2017年から2023年までDAZNで各種コンテンツ制作に従事。現在はフリーランスとしてJリーグ、日本代表を継続取材している。

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