24年J1・J2「補強・戦力」を徹底分析!

浦和、川崎、神戸、広島の4チームが抜けている!? キャンプ密着の識者3人によるJ1展望座談会【前編】

青山知雄

効果的な補強を行った大阪勢の躍進の可能性は?

開幕戦でゴールを決めた新加入の田中。ただ、C大阪はセンターバックの選手層に不安がありそうだ 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

──飯尾さんだけがセレッソ大阪をAクラスに置いています。ここはいかがですか?

飯尾 とにかく陣容が充実している印象なんですよね。新外国籍選手のヴィトール・ブエノ(←アトレチコ・パラナエンセ)は“本物”だという話を聞いていますし、田中駿汰(←北海道コンサドーレ札幌)の獲得でアンカーシステムが可能になって、インサイドハーフに香川真司と清武弘嗣を並び立たせることもできるようになった。そこは奥埜博亮を起用するかもしれないですけど、相変わらず攻撃のタレントは揃っていますよね。

 それに登里享平(←川崎)の獲得も大きい。リーダーであり、ムードメーカーでもある選手が入ったことでチームの雰囲気は変わりそうだし、香川が背負っているものも少し軽くなるんじゃないかと思います。昨季のレギュラークラスも抜けていないし、小菊昭雄監督も就任4年目に入って、スタイルも浸透している。普通にAクラスに入ってくる力がある……というか、マイナス面があまり見当たらなかったです。

舩木 ヴィトール・ブエノの昨シーズンのプレーを見たんですけど、割と何でもできるタイプですね。ポジションも含めて柔軟に起用できそうだなという印象があります。前所属で主に起用されていたのは3-4-2-1の2シャドーや4-2-3-1の右ウイングなんですけど、セレッソの4-3-3だとインサイドハーフになるのか、それともウイングなのか注目しています。3年連続2ケタ得点のレオ・セアラがいれば、得点源に関しては問題ないでしょうし、飯尾さんがおっしゃっていたように主軸はほとんど変わっていないので、安定感もあるだろうなと。個人的にはAクラスに入れたくて迷ったんですが、他との比較で泣く泣く外しました。

河治 僕は、セレッソは色気が出てしまうんじゃないかなと思っていて。田中駿汰を獲得できたことで、“強者のサッカー”に向かっていきそうな気がするんですけど、そこにはちょっと守備のタレント力が足りないのかなと思うんです。自ずと主導権を握ることにはなると思うんですけど、中盤から前が攻撃的になる一方、後ろの強度がそれを支えるだけのものを持っていない。毎熊晟矢も「自分のところでしっかり守備をしないと」みたいに守備の重要さについて言及していました。

 僕がAクラスに推した6チームのセンターバックと比べると、最終ラインの不安定さは否めないですね。小菊監督っていい守備からいい攻撃に移行するサッカーをやってきて、ハマってるときは勝点を稼げるけど、いいサッカーをしながら結果がついてこない状況もできやすくなったのかなと。これが勇気を持って踏み出すきっかけにしたいシーズンなら応援したいんですけど、予想という観点だと難しいですね。

──ガンバ大阪をAクラスに挙げているのは舩木くん。飯尾さんはBクラス、そして河治さんはCクラス予想でした。ここの違いは興味深いです。

舩木 まず補強の本気感がすごい。獲得した選手数とメンツを見て、昨年の課題だった守備を補強しつつ、中盤にダニエル・ポヤトス監督の徳島ヴォルティス時代の教え子である鈴木徳真(←C大阪)や、スタイルに合致しそうな山田康太(←柏レイソル)が加入しました。各ポジションに2〜3人がひしめいていて、もしかすると昨シーズンのレギュラーだったイッサム・ジェバリも試合に出られない状況になるかもしれません。開幕前の広島とのプレシーズンマッチを見ていたら、昨シーズン終盤の厳しい内容が嘘みたいに安定感のあるサッカーをしていたんですよ。中谷進之介(←名古屋)の加入、一森純(←横浜FM)のレンタルバックによる守備の安定が前線の躍動にもつながって、もしかしたら一気にブレイクする可能性があるなと思って、Aクラスに入れました。期待も込めてということですね。

飯尾 僕も補強リストや陣容を見ると、かなりの本気度が感じられ、実際に戦力的にすごくプラスになったと思います。沖縄でガンバの練習試合を見たときは、大丈夫かな、と思ったんですけど(苦笑)、広島とのプレシーズンマッチを確認すると、かなり仕上がってきた印象を受けました。ただ、鈴木徳真や岸本武流(←清水)といったポヤトスサッカーの“申し子”たちが加入した一方で、ジェバリやネタ・ラヴィ、宇佐美貴史といった昨季の中心選手がベンチに回りそうな感じがある。だから、監督のチームマネジメントや人心掌握術がポイントになりそうだなと。

 浦和の展望とも似ているんですけど、少しボタンをかけ違えると、「敵は我にあり」みたいな状況になりかねない。新戦力と既存の選手たちをどうマッチさせるかが少し不安だったことが、ガンバをBクラスにした理由のひとつです。ちなみにジェバリに代わって1トップに入りそうな坂本一彩(←ファジアーノ岡山)は練習試合ですごく良かったので、今季ブレイクするんじゃないかと思っています。

河治 ガンバはタレント力に関してはリーグ上位に入ってもいいくらいで、チームとしての完成度はさらにアップするだろうと。中谷や山田といった、かゆいところに手が届くような補強もできている。そこは素晴らしいと思います。ただ、Jリーグって、いかに相手の強みをつぶしていけるか、というところもある。今シーズンは3クラブが降格するから、昨シーズン終盤の横浜FCのように、極端な戦い方を序盤から選択してくるチームもいる可能性があるんですよね。

 例えば、町田からすると、ガンバはおあつらえ向きの相手なんですよね。昨シーズンの浦和もガンバと対戦したとき、前半はほぼガンバペースで進んで、「ボールは持たれても最後のところでやらせない。点は取らせません」みたいな状況を続けておいて、相手に穴が出てきたら、裏返して勝ってしまった。そうした展開に対応するだけのプランニングができればいいんですけど、試合終盤の戦い方のマズさで勝点を落として苦しくなる印象が強い。戦い方のリスクを一番感じるチームだと思っています。
──そして飯尾さんだけがAクラス入りにしている名古屋グランパスです。

飯尾 Aクラスの最後は名古屋かガンバで迷ったんですよ。決め手は、ガンバは目指すスタイルのまだまだ途上であるのに対して、名古屋は可変システムでボールを握る取り組みもチャレンジしているけれど、最終的には5-3-2で守れる。前からプレスを仕掛けられるし、キャスパー・ユンカーや永井謙佑、山岸祐也(←福岡)、パトリック(←京都)の前線を活かしたカウンターも繰り出せる。名古屋は勝点を積み重ねていく戦い方ができるチームなんじゃないかと思ったんです。特に注目なのが山中亮輔(←C大阪)と中山克広(←清水)の両ワイドの推進力とクロスです。ユンカーや山岸にかなりのチャンスボールが入りそうです。

 インサイドハーフには森島司や稲垣祥、アンカーには柏から獲得した椎橋慧也や米本拓司、さらにマルチロールの和泉竜司もいる。センターバックは、藤井陽也(→コルトレイク)、丸山祐市(→川崎)、中谷の3人が移籍したことで心許ないんだけど、韓国から連れてきたセンターバックのハ・チャンレ(←浦項)も攻撃の起点になれる好タレントだし、そこまで大崩れしないんじゃないかと。就任3年目となる長谷川健太監督は地元テレビ番組で優勝宣言をするくらい気合が入っているそうで、6位以内は堅いのかなと思いました。守備面の不安という点ではマリノスと同じ課題を抱えていますけど、ハイラインを取りたいマリノスに対して名古屋はいざとなったら5バックで守れる強みもありますから。

河治 そのあたり、健太さんは開き直りがいいからね(笑)。僕も中盤から前の補強は素晴らしいと思います。椎橋の移籍は柏にとってはめちゃくちゃ痛い。柏の順位を大きく変えてしまうくらいの穴なので。ただ、守備の構築はそんなに簡単にはいかないと思うんですよね。いろいろな組み合わせを試したり、ちょっと時間が掛かるかもしれないです。健太さんはなんだかんだ“割り切りのいい男”だからうまくまとめてくると思うので、優勝の可能性だってある。でも、残留争いに巻き込まれる可能性もある。未知数の部分が多い感じですかね。ガンバもそうですけど、振れ幅が大きいと思っています。

舩木 前線に関しては、時間さえ与えれば2ケタ得点できる選手が3人もいる。まずそこは強いと思うんです。ただ、やっぱり僕も気になったのが、メンバーが大きく変わるディフェンスライン。新しい戦い方が序盤戦でうまくいかなくて、割り切って最終ラインを5枚にするサッカーへシフトしてしまうタイミングが意外と早めに来てしまう可能性があるかなと。名古屋は後ろがハマらないことには優勝争いはできないと感じていて、そこが未知数なのでBクラスにしました。

※後編に続く

(企画・編集/YOJI-GEN)

河治良幸(かわじ・よしゆき)

セガ『WCCF』の開発に携わり、手がけた選手カード は1万枚を超える。創刊にも関わったサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で現在は日本代表を担当。チーム戦術やプレー分析を得意としており、その対象は海外サッカーから日本の育成年代まで幅広い。「タグマ!」にてWEBマガジン『サッカーの羅針盤』を展開中。

飯尾篤史(いいお・あつし)

明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、『週刊サッカーダイジェスト』編集部に配属。2012年からフリーランスに転身。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

舩木渉(ふなき・わたる)

大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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著者プロフィール

2001年からJリーグやJクラブの各種オフィシャル案件で編集やライターを歴任。月刊誌『Jリーグサッカーキング』で編集長も務めた。関係各所に太いパイプを持ち、2017年から2023年までDAZNで各種コンテンツ制作に従事。現在はフリーランスとしてJリーグ、日本代表を継続取材している。

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