24年J1・J2「補強・戦力」を徹底分析!

浦和、川崎、神戸、広島の4チームが抜けている!? キャンプ密着の識者3人によるJ1展望座談会【前編】

青山知雄

広島は“Jリーグあるある”を覆せるか?

スキッベ監督就任3年目で成熟の一途を辿る広島。新スタジアムができてモチベーションも高いが、だからこその懸念も 【(C)J.LEAGUE】

──皆さんが共通してAクラスにピックアップした最後のチームは、待望の新スタジアムが完成したサンフレッチェ広島です。

舩木 広島は宮崎でキャンプをしていて、マリノスの隣で練習していたので、トレーニングマッチも取材しました。ミヒャエル・スキッベ監督の就任3年目ということもあって、チームとしてものすごく安定感がある。やるべきことも決まっているし、「これが広島だよね」っていうサッカーをプレシーズンからしていました。

 新チームのメンバーを見ても、在籍の長いベテラン選手だったり、ルーキーでもアカデミー育ちで大学を経由した選手だったり、広島に縁のある選手の比率が高い。気持ちをプレーに乗せやすいチームだと思いますし、何より念願だった新スタジアムという“自分たちの場所”ができて、何としても結果を出したいというモチベーションもある。それらがここまで積み上げてきたサッカーと掛け合わさって、手堅くいいチームを作ってくる気はしています。

飯尾 ポジティブな部分は舩木くんが言ったとおりですよね。それに近年のチーム編成を見ても、選手のイン・アウトを最小限にとどめながら、しっかりプラスになっているイメージがあります。今回もいわゆる“即戦力”の補強は大橋祐紀(←湘南ベルマーレ)だけなんですけど、昨季13得点をマークした選手を獲得して上積みした。そういったノウハウは強化部がこれまでしっかりと積み上げていて、素晴らしいと思います。

 ただ、広島で懸念する点を挙げるなら、スキッベ監督の就任以降、3位、3位と来ているんですけど、ホップ・ステップ・ジャンプのジャンプでつまずくことって、“Jリーグあるある”というか。3年目になるとマンネリ感も出てくるし、相手からも分析されるので、3年目で鮮やかに結果を残すのは難しいと思うんですよね、あと、新スタジアムに関しても、かつてガンバは新スタジアムができた年に思うような結果を残せなかったですよね。相手チームも相手サポーターもモチベーションが高いし、逆にホームチームは絶対に勝たなきゃいけないっていうプレッシャーが強い。“新スタジアムあるある”も気になります。

河治 僕も新スタジアムについて話したいと思っていたところで飯尾さんに言われてしまったんですけど(笑)、モチベーションの問題だけじゃなくて、チームとしても新スタジアムに慣れてないんですよね。キックオフカンファレンスで満田誠が話してくれたんですけど、まだ練習も含めて2回くらいしか使っていないと。サポーターの盛り上がりやスタジアムの雰囲気はさておき、ピッチの慣れ具合としてはセントラル開催に近いんじゃないかな。

 今シーズンは新スタジアムの雰囲気が後押ししてくれる一方で、セントラル+アウェイみたいな環境での戦いを強いられる可能性もある。“我がホーム”という感覚になるまでには時間が必要なんじゃないかなと思います。最初は広島を1位にしようかなと考えていたんですけど、それほど簡単にはいかないかなと……。それにスキッベ監督のスタイルが対戦相手に分析されるんじゃないかなとも思うんです。そんなにやることは変わらないはずなので、あとは1試合1試合のディティールになる。若手でブレイクする選手が出てくるかどうかもポイントになりそうですね。

舩木 僕が広島に関して少し懸念しているのは、後ろの選手層がちょっと薄めなことですね。宮崎キャンプで取材した練習試合では、ケガ人が多くて東俊希が左センターバックに入っていました。最終ラインはベテランが多いセクションで、困ったときに複数ポジションをこなす選手はたくさんいるんですけど、少しバランスが取れなくなったときにガタガタと崩れてしまう可能性があるんじゃないかという心配もあります。

 逆に昨シーズン、ケガが多くてほとんど起用できなかったピエロス・ソティリウがフル稼働したら前線の起爆剤になるでしょうけど、まだまだ計算できないところもあると思っています。彼はケガが多くて、昨シーズンは5回くらい離脱したそうなんですよ。もともと2ケタゴールは計算できる選手なので、彼が実力どおりに活躍してくれたら、広島は優勝争いに絡んでくるかもしれません。
──昨シーズン、最後まで優勝を争った横浜F・マリノスですが、河治さんと舩木くんがAクラス予想をしている一方、飯尾さんはBクラスに入れています。まず最も現地で取材している舩木くんから伺いますが、やはり今シーズンの優勝予想はマリノスですか?

●Bクラス予想(※並び順は北から)

河治:札幌、FC東京、町田、新潟、名古屋、C大阪、福岡、鳥栖

飯尾:鹿島、FC東京、町田、横浜FM、磐田、G大阪、福岡、鳥栖

舩木:鹿島、FC東京、町田、新潟、名古屋、C大阪、福岡、鳥栖


舩木 立場上、すごく難しいですけど、現時点では浦和かなと思っていました(苦笑)。もちろん、心情的にはマリノスって言いたいところなんですけど、現時点でこういうシーズンになるかなと想像する範囲では、優勝はちょっと難しいかもしれないなと感じています。まず監督が替わったんですけど、ハリー・キューウェル新監督にトップリーグでの監督経験がないことが最初の懸念点です。キャンプではすごく丁寧に、いろいろなことを落とし込んでいたんですけど、細かく指導する一方で、チームの出来上がり自体はそこまで早くない。これまでとはシステムを変え、立ち位置を細かく教えながら徐々にチームを作っていて、ACLの試合を見ると分かるように、はっきりとした穴が見えるチームになっています。

 負傷で長期離脱している選手も多いですし、攻守の安定感という意味では、ちょっと疑問符がつくかなというのが、今のところの僕の見立てです。もちろん、前線のメンバーは変わっていないので攻撃力は維持されていて、点は取れるし、チャンスも作れるはず。それがトップ6に入れた理由で、ある程度は点を取られても、勝ち点を積める可能性は高いだろうと踏んでいます。ただ、チームとしては上振れも下振れも可能性がある印象です。

横浜FMが抱えるはっきりとした穴とは?

キャンプで戦術の落とし込みを丁寧に行った横浜FMのキューウェル監督。4-3-3へのシステム変更は吉と出るか凶と出るか 【写真:松尾/アフロスポーツ】

──マリノスが抱える“はっきりとした穴”が気になります。

飯尾 鋭い!(笑)

河治 みんな思ったよね(笑)。

舩木 かなり前掛かりなサッカーをするのは変わらないんですけど、システムが4-3-3になったことで、アンカーが1枚になる。相手陣内に押し込んだときにサイドバックも高い位置を取るので、センターバックがかなりサイドに開くんですね。そうしたときにボールを奪われて、前に長いボールを蹴られて潰し切れないと、サイドバックの真横や背後がガラ空きになって、そこを簡単に使われてチャンスを作られてしまう。そういうシーンが練習試合でも多かったんです。サイドチェンジやロングボールを入れられると、センターバックとアンカーのカバー範囲が広くなってしまい、彼らの負担が大きすぎる現状があります。そのバランスをどう取っていくかは、試合をしながら見ていかなければいけないですね。

河治 マリノスはAクラスの上位に推しにくい状況ではありますね。チームを作る段階を考えたときに、例えば、浦和のヘグモ監督なんかは最初に大枠をドンって提示して、ディティールはあとから、みたいな感じで選手たちは分かりやすいんですけど、キューウェル監督は徐々に積みあげていくタイプなのかなと。マリノスって、強みが弱みでもあるんですよね。ただ、今後チームが成熟していったときに弱みを消していくやり方をすると、強みが研ぎ澄まされなくなっていくんですよ。

 これはアンジェ・ポステコグルー監督のときも同じ。前任のケヴィン・マスカット監督はちょっとバランスを取っていましたけど、ボス(ポステコグルー)は強みを押し出して、弱みを恐れないようなチームを作っていましたから。それをカバーしていたのが、チアゴ・マルチンスのように守備におけるスーパーなタレントですよね。現在はスピードがあって無理も効く、カバーができるリソースがない。そこは不安ですよね。守備の成熟度だけじゃなく、夏の補強が必要になるかもしれないなと感じているところです。

──唯一のBクラス予想をしている飯尾さんの見方もお伺いしていきましょう。

飯尾 僕は河治さんみたいに「Aの下位」みたいな言い訳はせず(笑)、Bクラスに入れてみました。おふたりも話されていましたけど、僕が一番感じているのは、編成のサイクルの問題。例えば、川崎もそうだったんですけど、主力選手が次々とヨーロッパに飛び出していった。それでも揺るぎないスタイルがあったし、選手層も充実していたから強かったんですけど、海外移籍していくほどの選手の穴を埋めるって簡単ではないから、補強じゃなくて補充という意味合いでの穴埋めしかできなくなって、だんだん戦力が削がれていった。それで昨シーズンは8位に沈んでしまった。

 マリノスにも同じようなことが起こっていると思うんです。近年だと、前田大然、岩田智輝、チアゴ・マルチンス、高丘陽平、藤田譲瑠チマが移籍して、このオフにも西村拓真(→セルヴェット)と角田涼太朗(→コルトレイク)が抜けた。角田の代わりとしてアルビレックス新潟から渡邉泰基を獲りましたけど、西村のところは移籍決定のタイミングが遅くて埋め切れていない。レンタルバックの天野純(←全北現代)が穴を埋めて余りある活躍をするかもしれないですけど、全体的に考えたら、踏ん張りが効かないシーズンになりかねないかなと。それに、シーズンの前半も後半もACLに出場することが決まっているから、相当な試合数が見込まれる点も不安ですよね。

 あと、この1、2年のマリノスの屋台骨は、喜田拓也と渡辺皓太のダブルボランチだと思っていて。大好きなコンビなんですけど、さっき舩木くんが話したように今季は4-3-3へシステムが変更されたので、このダブルボランチが解体されてしまった。渡辺皓太は今、インサイドハーフもやっていますけど、ダブルボランチで彼らが見せる“あうんの呼吸”やバランスの取り方、ボールの運び方がなくなってしまうのは不安材料。こうしたことを総合的に考えて、今季に関してはいったんAクラスから外れてしまうかもしれないという気がしています。

──続いて、河治さんだけがAクラスに選んでいる鹿島アントラーズについても見ていきましょう。

河治 そんなに補強はしてなくて、何なら抜けた選手もいるんですけど、ランコ・ポポヴィッチ監督が目指すサッカーに対して、戦っていく上での設計バランスは悪くないんですよね。今回僕が挙げた6チームの中で、最も効率良く力を発揮しやすいサッカーを早い段階からできている印象がある。もちろん、センターバックの植田直通と関川郁万は絶対にケガをしてはいけない、といった懸念点もあるんですけど、岩政大樹前監督が志向したサッカーが良くも悪くも数年先を見据えたようなハイスペックなスタイルだったので、ポポさんになってシンプルに整理されて、選手たちは頭の中がリフレッシュされて分かりやすくなったんじゃないかと。この転換が実はプラスに働くんじゃないかと思います。

 サッカースタイルとしては、とにかく速い。考える余裕もないほど速いです。だから、失敗すると引っかかってしまったりするんですけど、そこは柴崎岳がしっかりハンドルを握っていけば大丈夫なはず。ポポさんの前向きさと選手たちの自己判断がミックスされたら面白い。それをポポさんが許容できればいいなと思っています。

 あと、強化部長の吉岡宗重さんや新たに強化に入った中田浩二さんがポポさんをうまくサポートして、ワンマン体制になりがちな監督をうまくコントロールしてほしい。そういう体制を鹿島が作っていければ、すごくいいソリューションを生んでいきそうだという期待値を込めています。もっと上位争いをする可能性も、Bクラス以下に落ちちゃう危険性もあると思っています。

舩木 僕は宮崎で練習試合を見たんですけど、河治さんがおっしゃる通り、「このチーム、めっちゃ速いな」っていう印象を受けました。このサッカーだと1試合ごとの消耗度がすごそうだなとも。とにかく縦にすごく速く攻めるし、一気に押し上げて、一気にゴールに襲いかかって、戻るときも素早く戻らなきゃいけない。縦にずっと動き続けるイメージですね。求められる運動強度は本当に高いと思います。これはプレッシングなども含めてなので、キャンプの時点ではそれがある程度できる選手と、馴染めていない選手がはっきり見えた気がしました。

 あと、欠かしてはならない重要な選手が複数ポジションにいて、そういう選手が欠場したときのリスクはかなり大きいんじゃないかなという気がしたので、Bクラスに入れました。ただ、噛み合えば優勝争いに絡んできてもおかしくないとも思っています。

飯尾 僕は鹿島が正念場を迎えていると思っているんですよね。鹿島は2016年の優勝を最後にリーグタイトルから遠ざかっているけれど、その後も5位以内にずっと入っているんですね。なんだかんだでしっかり踏みとどまっている。この粘り強さは、積み上げてきたクラブ力の賜物で、さすがだなって感じます。でも、クラブとしては、このままでは置いていかれるという危機感があって、石井正忠さん、大岩剛さん、相馬直樹さん、岩政大樹さんらOBを監督に指名しては次々と首をすげ替えてきて、ザーゴさん、レネ・ヴァイラーさんを招聘して大きなチャレンジをしたものの、こちらも早めに見限ってしまった。それで今回白羽の矢を立てたのがポポヴィッチ監督。

 古い話で恐縮なんですけど、僕はポポさんがFC東京の監督をしていた2012〜13年頃によく取材をしていて、ポポさんにもお世話になったんですね。そのときに感じたのは、すごくオープンな性格で人間的に魅力的な方だし、チームにポゼッションのノウハウを植え付けるなどベースを築くのには長けているんですけど、勝たせられる監督ではないかなと。その後、FC町田ゼルビアではまた違うサッカーをしていたし、水戸ホーリーホックとのプレシーズンマッチでは素早くサイドを攻略するなど、スピーディなサッカーをしていたので、吉岡さんがおっしゃっていたように、そこは「成長した」部分かもしれないですけど、勝負師という感じはしないんですね。

 あと、岩政さんを1年ちょっとで解任して、“常勝軍団”復活に向けて勝負に出たなら、このオフの補強でもっと覚悟を見せてほしかった。水戸戦を見る限り、1トップのアレクサンダル・チャヴリッチ(←スロヴァン・ブラチスラヴァ)はかなりやりそうですけど、センターバックで獲得するはずだったヨシプ・チャルシッチはメディカルチェックで引っかかって契約できなかった。でも、その代わりの選手を獲得していない。それに、退団したディエゴ・ピトゥカ(→サントス)の代わりも獲っていません。知念慶を本当にシーズン通してボランチで使うのかという疑問もあるし、柴崎は負傷を抱えているのでシーズンをフルで戦い抜ける保証もない。佐野海舟だって夏に海外移籍してしまうかもしれない。そういうことを踏まえると、絶対に覇権を奪還するんだという覚悟があまり感じられなかった。もし本当にBクラス以下に沈んだら、そのままガタガタと崩れてしまいかねない心配があります。

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著者プロフィール

2001年からJリーグやJクラブの各種オフィシャル案件で編集やライターを歴任。月刊誌『Jリーグサッカーキング』で編集長も務めた。関係各所に太いパイプを持ち、2017年から2023年までDAZNで各種コンテンツ制作に従事。現在はフリーランスとしてJリーグ、日本代表を継続取材している。

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