センバツを逃した秋の号泣から2カ月 慶應義塾・加藤右悟主将が今思うこと

大利実

前主将の大村に憧れ、早くからキャプテンを志望していた加藤。声と行動で手本を示し、率先垂範でチームを引っ張る。 【筆者撮影】

 今夏の甲子園で107年ぶりに日本一を果たした、神奈川・慶應義塾。2年生ながら主軸を任され、準々決勝の沖縄尚学戦で値千金の逆転二塁打を放つなど勝負強さを発揮したのが外野手の加藤右悟だった。

 新チームからは、選手間投票でキャプテンに選ばれ、ポジションも本職のキャッチャーに回った。夏の王者として大きな注目を集めた秋は、準々決勝で桐光学園に0対4で敗れ、来春のセンバツ出場は絶望的になった。取材の場に現れた加藤は、記者からの質問にうまく答えられないほど泣き崩れ、ショックの大きさを表していた。

 あの日から2カ月--。加藤と慶應義塾の今に迫った。

敗戦後の取材で頭に浮かんだ「清原勝児の姿」

――夏の甲子園優勝から休む間もなく迎えた秋の神奈川大会では、準々決勝で桐光学園に0対4で敗戦。キャプテン・三番・キャッチャーの大役を担っていましたが、試合後に大粒の涙を流していました。さまざまな記事で報じられたのを見たと思いますが、どんなふうに受け止めていましたか。

加藤 試合後の取材で、勝った桐光学園よりも自分たちのほうにたくさんの記者の方が来ていて、「日本一のチームのキャプテンを受け継いだんだな。もっと頑張らなきゃダメだ」と改めて自覚しました。最初はあそこまで泣いていなかったんですけど、森林さん(森林貴彦監督)がぼくに明らかに気を遣って話してくれているのを聞いて、あんな感じになってしまいました。

――泣きすぎたことで取材の対応が難しくなり、一旦ロッカールームに戻りましたね。数分後にまた取材の場に戻ってきましたが、赤松衡樹部長から「辛いのはわかるよ。でも、どんなに辛いときでも、インタビューに嫌な顔せずに答えていた勝児(清原勝児)を見ていただろう。時間がかかってもいいから、準備ができたらインタビューに行ってこい。これまでウチが勝った裏では、負けた学校もみんな同じ想いをしていたんだぞ」と声をかけられたと聞きました。

加藤 はい。勝児くんはお父さんのこともあって、取材が多かったんですけど、どんなときでもしっかりと対応していました。その姿をぼくも見ていたので、赤松さんの話を聞いたときに、「チームを代表するキャプテンとして、ちゃんと答えていかないといけない」と思いました。

――桐光戦を振り返る中で、「もっとこうしておけば良かった」と思うことはありますか。

加藤 守備面で言うと、小宅(雅己)のインコースを試合の序盤からもっと見せておけば、中盤のピンチの場面で投げやすくなっていたかなと。キャッチャーコーチの方と映像を見ながら配球を確認する中で、気づいたことです。バッティングは、法橋(暎良)の球をなかなかうまく捉えきれず、ずっと崩されている感じはありました。あと、キャッチャーの中村(優太)がずっと話しかけてきて、東海大相模の木村(海達)もやってくるんですけど、うまく心を揺さぶってきます。

――外から見ているだけではわからない駆け引きですね。センバツ出場が絶望的になってしまったわけですが、そこからどうやって気持ちを立て直していきましたか。

加藤 負けた翌日に選手ミーティングを開いて、「ここからどういうチームを作っていきたいか」を改めて話し合いました。特に力を入れたのは、チームの目標、目的、スローガンをもう一度確認すること。昨年は目標が『KEIO日本一』、目的が『恩返し、常識を覆す』、スローガンが『他喜昇り』だったんですけど、自分たちの代は目標、目的はそのまま継続で、スローガンは新たに『一喜挑戦』(いっきとうせん)に決めました。「ひとりひとりの喜びや頑張りが、チームの力につながる」という意味です。

――毎年、かっこいいスローガンを考えますよね。

加藤 あとは、『日本一』だと目標があまりに遠いので、今年は月間目標をしっかりと決めて、小さな目標を確実にクリアすることが、日本一につながっていく。新チームが始まるときにも話していたことを、桐光戦後にまた確認し合った感じです。

全国の基準を知るために、神宮大会の決勝を観戦

――具体的に、月間目標はどんな言葉があるのですか。

加藤 10月が『返事・挨拶』、11月が『1にこだわる』でした。

――結構、シンプルですね。こうした取り組みは、言葉を掲げるだけで終わってしまうことも多々あると感じますが、チームに本当の意味で浸透させるためにやっていることはありますか。

加藤 本当にそのとおりで、10月に決めた『返事・挨拶』がなかなかできなくて、学生コーチにも指摘されました。副キャプテンの足立(然)や高津(優)と話し合っていく中で出た結論は、周りに声をかけて、言い続けていくしかないと。メジャー(Aチーム)だけができても仕方がないですし、全員ができるようにしていく。何よりも、キャプテンである自分が率先垂範しないといけないと、改めて思いました。

――今になって夏の甲子園はどのように振り返っていますか。

加藤 いやもう、遠い記憶ですね(笑)。いろんな雑誌に載せてもらっていますけど、本当に遠い感じがします。改めて思うのは、先輩たちはすごい方たちばっかりだったなって。キャプテンの大村(昊澄)さんはずっと憧れですし、丸田(湊斗)さんはジャパンにも選ばれるすごい先輩。技術面だけでなく、思考面や精神面でも優れた先輩がたくさんいました。

――先輩と比べられるプレッシャーみたいのはありますか。

加藤 そこはありません。先輩たちと同じようにやる必要はないとも思っています。

――今年の代の強みはどう考えていますか。

加藤 野球の面では、小宅、鈴木(佳門)を中心にした投手力が安定していて、失点を計算できるところです。その分、打力が課題で、冬の大きなテーマになります。チームバッティングの細かいところは、来年のシーズンに入ってからで構わないので、冬は遠くに強く飛ばすことに取り組みたいと思っています。バットの基準も変わるので。個人的には、芯で捉えたときの打球はさほど変わらない気がするんですけど、芯を外れるとやっぱり飛ばないですね。

――今日も新しいメーカーの新基準バットを試していましたね。「キャッチャー加藤」としての課題はありますか。

加藤 キャッチングです。(渡辺)憩さんのフレーミングが本当にうまかったので、自分も追いつけるように練習します。

――外野に回って打撃に専念することで、加藤選手のバッティングが生きるのでは…という考えもありますが、自分ではどう思っていますか。

加藤 いや、キャッチャーをやりたいです。小学3年からずっとキャッチャーで、自分の思い通りに打ち取れたときが一番楽しいです。ただ、こういう技術面は練習すれば上がっていくと思うんですけど、キャプテンとして大事にしているのは、チームの軸を作っていくこと。大村さんたちは、チームとしての軸がしっかりしていました。うまく表現できないんですけど、今はまだそのあたりが中途半端というか、見えていなくて。

――先輩たちの強さは、シーズンごとに着実に成長したところだと個人的には感じています。負けるたびに強くなりましたよね。

加藤 そう思います。特にセンバツで仙台育英に負けたことで、全国で勝つための基準ができたのは大きかったです。ぼくたちは、来年のセンバツに出られないので、全国の基準がまだ見えていない。それもあって、この間の神宮大会では、森林さんにお願いして、高校の部の決勝を観戦させてもらいました。秋のトップチームを見ることが、冬の練習のモチベーションにもつながっていくと思って。

――自分たちから志願したんですね。星稜と作新学院から何か感じたことはありますか。

加藤 やっぱり、結果を出しているバッターは、星稜も作新もファーストストライクから積極的に振っていると感じました。あとは、星稜のエースのスライダーを打てるようにならないと、甲子園では勝てないなとか、いろんなことを考えながら見ていました。

――宇都宮出身の加藤選手にとっては、作新学院への思い入れもあったんじゃないですか。聞くところによると、少年野球(宝木ファイターズ)も中学校(宇都宮市立陽西中)も、作新の小針崇宏監督の後輩だそうですね。

加藤 はい、作新学院には仲がいい選手がたくさんいて、キャプテンの小森(一誠)には、神宮大会のあとに「センバツ、おめでとう」とLINEも入れました。

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著者プロフィール

1977年生まれ、横浜市出身。大学卒業後、スポーツライター事務所を経て独立。中学軟式野球、高校野球を中心に取材・執筆。著書に『高校野球界の監督がここまで明かす! 走塁技術の極意』『中学野球部の教科書』(カンゼン)、構成本に『仙台育英 日本一からの招待』(須江航著/カンゼン)などがある。現在ベースボール専門メディアFull-Count(https://full-count.jp/)で、神奈川の高校野球にまつわるコラムを随時執筆中。

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