高橋大輔、ジェットコースターのような競技人生 ハッピーエンドで締めくくった、二度目の現役生活

沢田聡子

「これから何があっても大丈夫」

高橋はアイスダンスに誘った村元に感謝した 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 一度目の引退同様、今回の引退も怪我が大きな理由になっている。古傷を抱える右膝はアイスダンスでは酷使する部位でもあり、限界を迎えていたという。

「レベルをとるうえでの技術的なところで、僕自身の努力ではどうしようもできないところに来てしまって。それ以上を求めてやっていきたいのですけれども、そこに体がついていかない」

「朝起きた時から、足が動かせない。『リフトの練習をしたいけど、ちょっと無理だな』とか、プラン通りの練習が僕の膝によってできないことが結構あった」

「右膝の問題がなければ、『もうちょっと競技続けたいな』という気持ちは正直ある」と吐露した高橋だが、一度目の引退と違うのは大きな充実感があることだ。

「アイスダンスをやってなかったら、こんなにすっきりした気持ちで引退できてなかったんだろうなって。あのまま引退して現役復帰をしなければこの感情になることはなかったし、哉中ちゃんがアイスダンスに誘ってくれたからこそ今こういう気持ちになれているので、そこは本当にすごく感謝していて」

「現役引退から競技復帰してからの自分が、本当に好き」と高橋は語る。

「それまでの自分は自信が持てず、現役をやっていた時も『僕はまだまだ全然できない』と、自分をほめることもできなくて。だけど競技復帰してから、ちょっとでもできることがあれば『良くできたな』ってほめてあげられるようになったし。アイスダンスを始めて、より一層できない自分を受け入れられるようになりました」

 世界トップクラスのシングルスケーターとしてプライドを持って戦ってきた高橋だが、それゆえになかなか自分を認めることができなかった。しかしアイスダンスという新しい分野に挑戦する自分については、上手くいかないことも含めて認めることができたのかもしれない。

 穏やかな表情の高橋は「前向きになっていく自分が出てきた」とも口にした。

「この現役復帰を決断して大変なこともたくさんあったのですが、『毎日大変なことも、絶対自分にプラスになるな』と。『これから生きていく上で、何があっても大丈夫』みたいな気持ちになれたかな、と思っているので。『何かができるようになった』というよりは、自分をほめてあげてどれだけ豊かに過ごしていくか、ということをちゃんとできるようになった、と感じる」

 自身が次の目標を見つけられていなかった一度目の引退の時には、見守るファンにも「『今後どうしていくんだろう』という不安が結構あったと思う」と高橋は振り返る。

「ただこの二度目の引退では、僕自身も本当にすっきりしていますし。今までいろいろなことがあった中でも長くずっと応援し続けて下さって、すごくありがたいなと。僕自身も『何やってるんだろう?』と思うような突拍子もないことをやったりする時も温かく見守ってくれたり、それを逆に楽しんでもらったり、本当に心が大きいファンの方がたくさんいらっしゃるので。これから新しい世界に行きますけど、またびっくりさせられるようなことができればいいなと思っているので。何が起こるか、分からないですけど」

 栄光と苦難に満ちた競技生活を送ってきた高橋は、「“ジェットコースター”って、結構言われるんですけど」と口にしている。
「ジェットコースター、まだまだ乗っていただいたら嬉しいなと思っております。本当に長い間、競技生活を応援してくれてありがとうございます」

 アイスダンサーとして東京体育館で『オペラ座の怪人』を再演した高橋は、最高のハッピーエンドで長い競技人生を締めくくった。高橋大輔というジェットコースターは、これからも驚きと喜びを振りまきながら進んでいく。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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