国別対抗戦の1週間前に出場が決まった佐藤駿 4回転ルッツへの挑戦は「気持ちの大きな変化」

沢田聡子

国別対抗戦に代替出場した佐藤駿 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

「ご飯が喉を通らない」驚きの出場決定

 佐藤駿が世界国別対抗戦への代替出場を知ったのは、大会まであと1週間という時期だった。世界選手権の補欠として備えていた佐藤だが、世界選手権終了後はシーズンオフに入ったという意識で過ごしていた。スケート靴を替え、来季のショートプログラムの振付にも着手した一方で、ジャンプの練習はしていなかった。

 開幕前日の公式練習後に取材に応じた佐藤は、その際の心情を振り返っている。

「(国別対抗戦への出場を)聞いた時は、『マジか』ってなって…その日のご飯は、ちょっと喉を通らなかった」

 とはいえ、今季は佐藤にとり競技人生で最良のシーズンだった。その締めくくりとなる試合に臨むにあたり、佐藤には課題があった。

「『やるしかないな』と。ここで安定の構成をやっていても駄目かなと。今回は、攻めていこうかなと思っています」

 佐藤は、全日本選手権と四大陸選手権で悔いを残している。

 4回転ルッツは、全日本ノービス選手権を4連覇し幼い頃からジャンプの天才として知られてきた佐藤の最大の武器だ。優勝した2019年ジュニアグランプリファイナルでも、フリーの冒頭で4回転ルッツを成功させて勢いに乗っている。

 その翌シーズンにシニアに上がってから佐藤は怪我に悩まされ、本来の力が発揮できずにいた。昨年2月に左肩の手術をして迎えた今季もスローなスタートとなっていたものの、徐々に調子を上げていく。グランプリファイナル初出場を果たし4位、四大陸選手権では銅メダルを獲得した。

 しかし、全日本選手権(4位)と四大陸選手権で、佐藤はショートで4回転ルッツを回避している。さらに安全策をとったにもかかわらず両大会のショートで転倒しており、余計に悔やまれるのだろう。急遽出場が決まった国別対抗戦に、佐藤は攻める姿勢で臨もうとしていた。

 佐藤は国別対抗戦のショート冒頭で宣言通り4回転ルッツに挑んだものの、転倒した。試合出場が決まってからわずか一週間でジャンプを戻さなくてはならなかったため、4回転ルッツはホームリンクではまだ状態がよくなかったという。試合会場である東京体育館に移動してからの練習では4回転ルッツもかなり戻せたものの「やはり本番だと、まだ調整し切れていない部分が出てしまったのかな」と佐藤は分析している。

 他にも3回転が2回転になるミスやスピン・ステップのレベルの取りこぼしなどが重なり、ショートの得点は76.45で11位となった。しかし、覚悟を決めて4回転ルッツに挑んだ佐藤は潔かった。

「調子がいいとは言い切れなかったのですが、(4回転)ルッツは入れたいなという思いがあったので、入れることにして。結果ミスになってしまったのですが、フリーはしっかりと頑張ればいいかなと思います」

1/2ページ

著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント