不調と怪我を乗り越えて果たした、宇野昌磨の連覇 再び立った頂点で見えてきた「スケーターとしての道」

沢田聡子

今季無敗の宇野だが、連覇への道程は険しかった 【写真:ロイター/アフロ】

世界選手権、表彰式での宇野昌磨

 25日に行われたフリーの終盤、『Mea tormenta, properate!』の荘厳な歌声に乗って氷に吸い付くようなステップを踏み、美しいスピンを二つ回ってフィニッシュポーズをとると、宇野昌磨は氷上で寝転がり、大の字になった。今季は頭一つ抜けた強さをみせてきた宇野だが、この世界選手権ではいくつもの試練を乗り越えて戦ったことを、脱力したようなその姿がなによりも雄弁に物語っていた。

 ディフェンディングチャンピオンとして世界選手権に臨んだ宇野がまず直面したのが、ジャンプの不調だった。大会開幕前日の公式練習後に取材に応じた宇野は、淡々と自らの不調について語っている。昨年11月のNHK杯前にもジャンプの不調に陥っていた宇野だが、開口一番「NHK杯前に匹敵するほどひどいです」と口にした。しかし同時に「決して落ち込んだり焦ったりはしていなくて」と冷静な様子もみせている。

「できるという自信があるわけではないのですが、焦っても仕方ないので」

「本当にひどい状態ではありますけれども、『どうなるんだろう』というのは楽しみというか、自分がどうするのか興味深いものがあるかなと思います」

 さらに、宇野はショートプログラム前日の公式練習で4回転サルコウを跳んだ際に転倒し、右足首をひねってしまう。フリー後にステファン・ランビエールコーチが明かしたところによれば、前の週にも同じところをひねっていたという。しかしショート当日朝の公式練習には参加し、曲かけ練習ではジャンプをすべて着氷して23日の本番を迎えた。

 ショートの使用曲『Gravity』が流れ、会場全体が息を詰めて見守る中で宇野は4回転フリップに挑み、きれいに決めた。続いて4回転トウループ―2回転トウループ、トリプルアクセルも成功させ、すべてのジャンプで2点以上の加点を得ている。ステップシークエンスはレベル3と判定されたもののスピンは二つともレベル4を獲得し、104.63というハイスコアをたたき出して首位に立った。演技を終えた宇野は、久しぶりにガッツポーズを繰り出している。

 ショート後のミックスゾーンで、宇野は「本当に出し切れたのかなと思います」と晴れやかな表情で語った。

「久々に、調子が悪いのもあって感情を試合にぶつけるような、ちょっといつもより『さあ頑張るぞ』という気持ちで臨んだので、その分嬉しさはこみ上げていたのかなと思います」

 右足の怪我については、サポートや事前の予防により「想像よりはるかに少ない支障」だったと振り返っている。

「こういう経験も過去にはたくさんしてきましたし」

「痛い時に練習したらどういうジャンプになるのかというのは、なんとなく予想できています」

 また、不調についても豊富な経験を生かして対処したという。

「こういう調子の悪さというのも絶対に理由がある、とは思っているので。いろいろ過去を振り返りながら、でも過去にとらわれ過ぎず、どうするのが最善かというのを、なるべく頭で考えるだけじゃなくて、そういう精神状態に持っていけるように」

 既にベテランの域に入っている25歳の宇野が、長い競技生活で得てきたものを最大限に活用して乗り越えた危機だった。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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