大会史上初となった英国4協会の対戦 短期連載「異例づくめのW杯をゆく」

宇都宮徹壱

試合まで時間があったのでドーハの夜景を撮影。W杯期間中はサッカー関連のビジュアルが多い 【宇都宮徹壱】

史上まれに見る混戦模様のグループステージ

 11月29日、FIFAワールドカップ(W杯)カタール大会10日目。早いもので、昨日で大会の全64試合中、半分の32試合を消化したことになる。全チームが2試合を終えた時点で、トーナメント進出を決めたのはフランス、ブラジル、ポルトガルの3カ国。逆に、敗退が決まったのは、カタールとカナダの2カ国のみである。

 これほどグループステージが混戦だった大会は、近年でも記憶にない。その大きな要因は、今大会のアジア勢が「やられ役ではない」ことに尽きるだろう。一方で、前回大会はグループステージで全滅となったアフリカ勢も、セネガルやモロッコ、そしてガーナが勝利。結果として、メキシコ、ドイツ、ウルグアイといった強豪国が、いずれもグループ最下位に沈む事態となっている。

 グループステージは今日から3巡目だ。この4日間は、2グループずつが同時刻にキックオフを迎え、終了と同時に歓喜と絶望が交錯する日々になる。この日はグループBから、22時にアフメド・ビン=アリー・スタジアムで開催される、ウェールズvsイングランドをチョイス。実は大会が始まる前から、個人的に楽しみにしていたカードだった。なぜなら、W杯における英国4協会(イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)同士の顔合わせは、これが史上初となるからだ。

 思えばイングランド以外の3カ国が、本大会に出場すること自体が久しぶりのこと。スコットランドは1998年のフランス大会、北アイルランドは86年のメキシコ大会が最後である。ならばウェールズはというと、1958年のスウェーデン大会以来、実に64年ぶり2回目の出場。前回は準々決勝に進出して、ブラジルに0-1で敗れている。ちなみに決勝点を決めたのは、当時17歳のペレ。「サッカーの神様」がW杯で初めて記録したゴールであった。

 22回目のW杯で初めて実現した、英国4協会同士の対戦。2試合を終えて、イングランドは1勝1分けの1位、ウェールズは1分け1敗の4位となっている。ここでウェールズが勝利すれば、裏の試合(勝ち点3のイランと同2の米国の対戦)の結果次第でグループ突破となるだけに、極めてテンションの高い試合となることが予想された。

ラッシュフォードの2ゴールでイングランドが1位抜け

ラッシュフォードが2得点を挙げて勝利の立役者に 【GettyImages】

 試合は、攻めるイングランドと守るウェールズという構図。個々の力では上回るものの、イングランドはコンパクトな赤い壁を打ち崩せず、前半は両者無得点で終了する。均衡が崩れたのは後半5分。マーカス・ラッシュフォードがFKを直接決めて、イングランドが一歩先んじた。その1分後には、ハリー・ケインの右からの折返しに、ファーサイドからフィル・フォーデンが蹴り込んでネットを揺らした。

 2点をリードとしたイングランドは、トーナメントの戦いを見据えて、後半12分にケインをはじめ3人の主力を交代。余裕を見せる相手に対し、ウェールズは何とか一矢報いようと前掛かりになる。しかし後半23分、イングランドはロングボールを受けたラッシュフォードが抜け出し、相手DFを揺さぶってから左足でシュート。低い弾道はGKダニー・ウォードの股間を抜いてダメ押しの3点目となった。 

 やはり、力の差は明らかだった。イングランドは無敗のまま1位通過。ウェールズは1分け2敗の4位で、64年ぶりのW杯を去ることとなった。この試合で印象的だったのは、代表最多キャップ数とゴール数を誇るガレス・ベイルが、ハーフタイムでベンチに下がったこと。交代の理由は定かではないが、ひとつの時代の終わりを予感させるものであった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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