“見慣れた敗戦”となったコスタリカ戦 短期連載「異例づくめのW杯をゆく」

宇都宮徹壱

試合会場で出会った、コスタリカのサポーター。初戦の大敗を引きずっていない様子だった 【宇都宮徹壱】

ドイツに勝ったんだからコスタリカにも勝てる?

 11月27日、FIFAワールドカップ(W杯)カタール大会8日目。日本代表のグループステージ第2戦、コスタリカとの試合は13時から、アフメド・ビン=アリー・スタジアムで開催される。今大会の8会場のうち、開幕から8日にして最後に訪れることになったスタジアムだ。

 ここは日本が優勝した、2011年のアジアカップでも会場となっており、日本がサウジアラビアに5-0の大勝利を収めた舞台でもある。それから11年後に訪れてみると、2万人から5万人収容に増築されて、外装もすっかりモダンなものとなっていた。何より、メトロから徒歩でアクセスできてしまうことに、急激な時代の移ろいを感じずにはいられない。

 時代の移ろいという意味では、日本代表を取り巻く状況も大きく変化した。何しろW杯という大舞台で、あのドイツ代表に2-1で逆転勝利したのだから。アルベルト・ザッケローニ監督率いる、当時の日本代表も上昇傾向にあったが、さすがにこのような快挙は想像できなかった。

 久しく人気低迷が続いていた日本代表にとっては、夢のような快挙。普段はサッカーになど見向きもしないメディアも、一斉に「森保ジャパン」を取り上げるようになった。そのこと自体、業界で禄を食む者としては、大いに歓迎すべきことではある。が、その副産物として「ドイツに勝ったんだからコスタリカにも勝てる」という空気が、仮に日本国内で充満していたならば、敗れた時の反動が非常に心配だ。

 FIFA(国際サッカー連盟)ランキングでは、日本の24位に対してコスタリカは31位。今大会の北中米カリブ海予選では、カナダ、メキシコ、米国に次ぐ4位に終わり、ニュージーランドとの大陸間プレーオフを制して、今大会の出場権を得ている(余談ながら、彼らが本大会最後の切符を手にしたのも、ここアフメド・ビン=アリー・スタジアムであった)。

 今大会の初戦では、スペインに0-7と大敗を喫したコスタリカだが、決して彼らは弱小国ではない。過去5大会に出場し、ベスト16(1990年)とベスト8(2014年)が1回ずつ。しかも2014年のブラジル大会では、イングランド、イタリア、ウルグアイというW杯優勝経験国と同組となり、何と1位通過している。日本にとっては、決して「楽に勝てる相手」ではなかった。

ターンオーバー以前に考えるべき3つの問題点とは?

コスタリカの枠内シュートはわずか1本だったが…… 【 Getty Images】

 この日の日本代表のスターティングイレブンは、以下のとおり。GK権田修一。DFは右から山根視来、板倉滉、吉田麻也、長友佑都。MFはボランチに遠藤航と守田英正。右に堂安律、左に相馬勇紀、トップ下に鎌田大地。そしてワントップに上田綺世。ドイツ戦から5人が入れ替わった。

 今回のメンバー構成について「ターンオーバー」という表現をよく耳にする。しかし、コンディションに問題があった酒井宏樹と冨安健洋の欠場、そして守田の復帰は既定路線。もしかしたら、さらに多くのフレッシュな選手の起用を考えていたかもしれないし、もう少し日程に余裕があれば2枚替えで済ませていたかもしれない。迷いに迷った末、戦術的な入れ替えを最小限にとどめる判断を、森保一監督は下したのであろう。

 結果はご存じのとおり、日本は0−1でコスタリカに敗れてしまった。決勝点が決まったのは後半36分。後半から出場した伊藤洋輝が、相手が縦に入れたボールをヘディングで弾き返し、中央で受けた吉田はクリアでなく、浮き球でのパスを選択する。しかし守田はこれを収められず、逆にイェルツィン・テヘダに拾われてしまう。最後はケイセル・フレールが左足で一閃。弾道は権田のグローブをすり抜け、ゴールネットを揺さぶった。

 コスタリカが放ったシュートは、わずかに4本。そのうち唯一の枠内シュートが、日本を奈落の底に突き落とす一押しとなった。対する日本は14本のシュートを放ったものの、コスタリカの守護神、ケイロル・ナバスの牙城を突き崩すことはできず。確かに、不運な面もあった。けれども、この日の日本にはターンオーバー以前に、3つの問題点があったように思う。

(1)この日の日本は「選択肢」が多すぎたこと。 (2)ボールを支配しながらゲームを支配できなかったこと。 (3)特定の選手を不必要に引っ張ったこと。この3つの問題点から、あらためてコスタリカ戦の敗因を考えてみたい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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