“見慣れた敗戦”となったコスタリカ戦 短期連載「異例づくめのW杯をゆく」

宇都宮徹壱

ビギナーにはショッキングだったコスタリカ戦

試合終了後の作業を終えて振り返ると、スタジアムの外壁は美しい光の彩りが施されていた 【宇都宮徹壱】

 まず、「選択肢」が多すぎたことについて。初戦でドイツに勝利して勝ち点3。このコスタリカ戦は、できれば勝利、引き分けでもOKという状況だった。2戦目のコスタリカ戦での勝利に注力するのか、それとも最悪のケースを考えてスペイン戦に余力を残すのか。この「選択肢」の多さが、逆に試合のテーマ設定を曖昧なものとしてしまった感は否めない。

 次に、ボールを支配しながらゲームを支配できなかったこと。前半20分の時点で、日本のポゼッションは50%を超えていた。ドイツ戦とはまったく逆の立場になっただけに、ゲームコントロールには工夫が必要だったが、のらりくらりとしたコスタリカのペースに巻き込まれてしまう。日本はボールを支配していたものの、前半はゲームの主導権を握ることなく、無得点のままハーフタイムを迎えることとなった。

 もちろん森保監督も、ただ傍観していたわけではない。前半の間にシステムを3バックに変更し、ハーフタイムで長友と上田に代えて、伊藤と浅野拓磨をピッチに送り出す。さらに、三笘薫と伊東純也を投入したことで、両ワイドのチャンスメークからシュートにつなげる場面も格段に増えていった。すべてのベンチワークが悪かったわけではない。けれども、特定の選手を不必要に引っ張ってしまう指揮官の悪癖は、この試合でも出てしまった。

 まず、デュエルでは無類の強さを誇る遠藤。それほどハードな対応が求められる相手ではないので、むしろ三笘へのパスの供給源として柴崎岳を起用するという判断はできなかったか。それから、機能不全となっていた鎌田。本来の働きが期待できないのであれば、久保建英と入れ替えてもよかったのではないか。結果として、遠藤と鎌田は2試合フル出場して消耗。中3日で迎えるスペイン戦に、大きな不安を残すこととなった。

 選択肢が多いことで決断が鈍り、ボゼッションできても得点に結び付けられず、ベンチワークも後手に回ってしまう。これまで何度も繰り返されてきた、森保監督率いる日本代表の負けパターンであり、いわば「見慣れた敗戦」でもあった。けれども、ドイツ戦勝利から入ってきたビギナーには、いささかショッキングなものに映ったことだろう。

 すでにSNS上では、日本代表に対するネガティブな書き込みが目立つようになっている。果たして日本代表は、極めて絶望的な状況に立たされているのだろうか? この件については、スペインvs.ドイツの結果も含めて、明日のコラムでも言及することにしたい。

<11月29日につづく>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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