ドイツ戦勝利を後押ししたものは? 2つのイレギュラー要因が影響 短期連載「異例づくめのW杯をゆく」

宇都宮徹壱

サウジアラビアに続くアジア勢のアップセット! 日本はドイツに2-1で見事に逆転勝利を収めた 【宇都宮徹壱】

日本代表の美しい思い出が詰まったスタジアム

 11月23日、FIFAワールドカップ(W杯)カタール大会4日目。待ちに待った、日本代表の初戦の日である。ドイツ戦のキックオフは16時、試合会場はハリーファ国際スタジアムである。

 今回のカタール大会の会場数は8。きらびやかな新設のスタジアムが建ち並ぶ中、1976年に建設されたハリーファは異彩を放っている。2020年に改修されたそうだが、スタンドも記者席も螺旋状のスロープも、いずれも2011年のアジアカップのまま。ただそれだけのことが、とてつもなくうれしく感じられる。

 そして日本代表にとってのハリーファは、11年前にアジアカップのトロフィーを掲げた、美しい思い出がつまったスタジアムである。あれから代表の顔ぶれは変わったが、今大会のメンバー26人中、最年長の川島永嗣を含む4人が残っている。当然、若い選手にも当時の話は伝わっているだろうから、日本代表の面々はリラックスしてピッチに立ってほしいところだ。

 この日の日本代表のスターティングイレブンは、以下の通り。GK権田修一。DFは右から、酒井宏樹、板倉滉、吉田麻也、長友佑都。中盤は、ボランチに遠藤航と田中碧、右に伊東純也、左に久保建英、トップ下に鎌田大地。そしてワントップは前田大然。ベテランが重用される一方で、W杯初出場が7人もいることが目を引く。

 一方のドイツは、マヌエル・ノイアー、ダビド・ラウム、ヨシュア・キミッヒ、トーマス・ミュラー、イルカイ・ギュンドアンといったお馴染みの顔ぶれ。久しく途絶えていた、欧州のビッグネームとの対戦。それがW杯本番の初戦で、ようやく実現するのだ。われわれ観る者もまた、奇妙な高揚感を覚えながらキックオフのホイッスルを待った。

ドイツが見過ごしてしまった、前半8分のシリアスな警告

堂安律の同点ゴール(後半30分) 【Getty Images】

 おそらく今後30年は語り継がれるであろう、W杯でのドイツ戦勝利について、もはや試合経過をなぞるレポートの需要はないはずだ。以下、ポイントを絞って振り返ることにしたい。

 前半はドイツに徹底的に押し込まれながらも、前半33分のPKによる1失点(決めたのはギュンドアン)に抑えた日本。後半からは久保に代えて冨安健洋を起用して3バックとし、幅のスペースをしっかりカバーしながら虎視眈々と縦方向への一撃を狙い続ける。その間、三笘薫、浅野拓磨、堂安律、南野拓実といった攻撃陣を相次いで投入。ゴールを決めたのは堂安と浅野だが、三笘と南野も同点ゴールに関与しており、森保一監督の采配は水際立っていた。

「選手たちが賢く、相手の意図を読み取って(前半は)我慢強く戦ってくれました。スタートの段階では、われわれにもチャンスはあったし、狙いもありました」

 試合後の会見で森保監督が言及した「チャンスはあったし、狙いもありました」というのは、前半8分に前田がネットを揺らしたシーンを指しているのだろう。鎌田がギュンドアンからボールを奪い、右サイドを駆け抜ける伊東がパスを受け取り、グラインダー気味の折返しに前田がファーサイドから飛び込む──。結果はオフサイドだったが、森保監督がずっと目指していたゴールへのアプローチが、見事に凝縮されたシーンであった。

 日本には、ドイツからボールを奪えるだけの技術を持った選手も、驚異的なスピードでサイドを切り裂く選手も、確実に仕留めることができる選手も揃っている。攻撃の機会は限られるものの、歯車ががっちり噛み合えば脅威となる。前半8分のシーンを、シリアスな警告としてドイツが受け止めていたならば、結果はもっと違っていたものになっていただろう。

「非常に残念な結果だ。われわれは78%のボールを支配していたのに、後半の得点チャンスもミスで逃してしまった」

 こちらはドイツのハンジ・フリック監督のコメント。ドイツといえば「結果がすべて」というイメージを抱きがちだが、ここまでポゼッションに腐心していたことに驚かされる。この試合では多くの時間を支配していたが、日本以上にチャンスを潰していたのもドイツ。とりわけ、ジャマル・ムシアラの決定力不足は、日本に望外の幸運をもたらすこととなった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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