ドイツ戦勝利を後押ししたものは? 2つのイレギュラー要因が影響 短期連載「異例づくめのW杯をゆく」
サウジアラビアに続くアジア勢のアップセット! 日本はドイツに2-1で見事に逆転勝利を収めた 【宇都宮徹壱】
日本代表の美しい思い出が詰まったスタジアム
今回のカタール大会の会場数は8。きらびやかな新設のスタジアムが建ち並ぶ中、1976年に建設されたハリーファは異彩を放っている。2020年に改修されたそうだが、スタンドも記者席も螺旋状のスロープも、いずれも2011年のアジアカップのまま。ただそれだけのことが、とてつもなくうれしく感じられる。
そして日本代表にとってのハリーファは、11年前にアジアカップのトロフィーを掲げた、美しい思い出がつまったスタジアムである。あれから代表の顔ぶれは変わったが、今大会のメンバー26人中、最年長の川島永嗣を含む4人が残っている。当然、若い選手にも当時の話は伝わっているだろうから、日本代表の面々はリラックスしてピッチに立ってほしいところだ。
この日の日本代表のスターティングイレブンは、以下の通り。GK権田修一。DFは右から、酒井宏樹、板倉滉、吉田麻也、長友佑都。中盤は、ボランチに遠藤航と田中碧、右に伊東純也、左に久保建英、トップ下に鎌田大地。そしてワントップは前田大然。ベテランが重用される一方で、W杯初出場が7人もいることが目を引く。
一方のドイツは、マヌエル・ノイアー、ダビド・ラウム、ヨシュア・キミッヒ、トーマス・ミュラー、イルカイ・ギュンドアンといったお馴染みの顔ぶれ。久しく途絶えていた、欧州のビッグネームとの対戦。それがW杯本番の初戦で、ようやく実現するのだ。われわれ観る者もまた、奇妙な高揚感を覚えながらキックオフのホイッスルを待った。
ドイツが見過ごしてしまった、前半8分のシリアスな警告
堂安律の同点ゴール(後半30分) 【Getty Images】
前半はドイツに徹底的に押し込まれながらも、前半33分のPKによる1失点(決めたのはギュンドアン)に抑えた日本。後半からは久保に代えて冨安健洋を起用して3バックとし、幅のスペースをしっかりカバーしながら虎視眈々と縦方向への一撃を狙い続ける。その間、三笘薫、浅野拓磨、堂安律、南野拓実といった攻撃陣を相次いで投入。ゴールを決めたのは堂安と浅野だが、三笘と南野も同点ゴールに関与しており、森保一監督の采配は水際立っていた。
「選手たちが賢く、相手の意図を読み取って(前半は)我慢強く戦ってくれました。スタートの段階では、われわれにもチャンスはあったし、狙いもありました」
試合後の会見で森保監督が言及した「チャンスはあったし、狙いもありました」というのは、前半8分に前田がネットを揺らしたシーンを指しているのだろう。鎌田がギュンドアンからボールを奪い、右サイドを駆け抜ける伊東がパスを受け取り、グラインダー気味の折返しに前田がファーサイドから飛び込む──。結果はオフサイドだったが、森保監督がずっと目指していたゴールへのアプローチが、見事に凝縮されたシーンであった。
日本には、ドイツからボールを奪えるだけの技術を持った選手も、驚異的なスピードでサイドを切り裂く選手も、確実に仕留めることができる選手も揃っている。攻撃の機会は限られるものの、歯車ががっちり噛み合えば脅威となる。前半8分のシーンを、シリアスな警告としてドイツが受け止めていたならば、結果はもっと違っていたものになっていただろう。
「非常に残念な結果だ。われわれは78%のボールを支配していたのに、後半の得点チャンスもミスで逃してしまった」
こちらはドイツのハンジ・フリック監督のコメント。ドイツといえば「結果がすべて」というイメージを抱きがちだが、ここまでポゼッションに腐心していたことに驚かされる。この試合では多くの時間を支配していたが、日本以上にチャンスを潰していたのもドイツ。とりわけ、ジャマル・ムシアラの決定力不足は、日本に望外の幸運をもたらすこととなった。