W杯の「ハシゴ観戦」をやってみた! サウジ歴史的勝利の余韻には浸れずも… 短期連載「異例づくめのW杯をゆく」

宇都宮徹壱

アルゼンチンとの初戦で劇的なアップセットを演じ、喜びに沸くサウジアラビアのサポーター 【宇都宮徹壱】

今大会での「ハシゴ観戦」は本当に可能なのか?

 11月22日、FIFAワールドカップ(W杯)カタール大会3日目。

 グループAとBの第1戦が終わり、ここからグループステージ終了まで、毎日4試合が行われることになる。この日は13時からアルゼンチンvs.サウジアラビア、16時からデンマークvs.チュニジア、19時からメキシコvs.ポーランド、そして22時からフランスvs.オーストラリア。13時と19時の試合がグループC、16時と22時がグループDのゲームである。

 W杯といえば、32カ国による64試合のフォーマットになって以降、ちょうど1カ月にわたるスケジュールが定着していた。ところが今大会は(おそらく欧州のカレンダーに配慮したためだろう)、29日間に無理やり64試合が詰め込まれることに。結果として1日4試合行われる日が11日間も続き、開幕戦を戦ったカタールとエクアドルを除く30チームは、グループステージを中3日で戦うこととなった。

 大会史上、最も小さな開催地で、3時間おきにW杯のゲームが行われる。ということは、1日2試合の「ハシゴ観戦」という、過去の大会ではほぼ不可能だったトライが可能となるのではないか? 今大会は総じてアディショナルタイムが長いこともあり、さすがに試合終了から1時間後のキックオフは難しい。が、それでも3時間後なら、何とか間に合いそうだ。

 そんなわけでこの日は、13時のアルゼンチンvs.メキシコ、そして19時のメキシコvs.ポーランドをハシゴすることにした。今回、対戦カード以上に重視したのが、時間帯。13時キックオフの試合が、どれくらい暑くなるのかについても、この機会に体感しておきたかった。なぜなら日本vs.コスタリカ戦が、まさにこの時間にキックオフを迎えるからだ。

 結論から言えば、この日のアルゼンチンvs.メキシコに関しては、猛暑を感じることはなかった。試合会場のルサイル・スタジアムは屋根の面積が広く、ピッチ上はほとんど日陰になっていたからだ。コスタリカ戦が行われる、アフメド・ビン=アリー・スタジアムもまた、屋根でしっかり覆われたデザイン。よって、それほど日差しの影響を心配する必要はないのかもしれない。

今大会でのハシゴ観戦は可能だが、もったいないかも?

後半2ゴールで逆転したサウジアラビア 【Getty Images】

 ルサイル・スタジアムは、今大会で最大規模を誇り、収容人員は8万人。国境を接するサウジアラビアからは、大勢のファンが詰めかけて、スタンドを緑色に染め上げている。アルゼンチンにとっては、文字通り完全アウェーの状態だ。

 それでも先制したのはアルゼンチン。前半10分にVAR判定で得たPKをリオネル・メッシが余裕で決めてみせる。しかしその後、アルゼンチンがネットを揺らすたびにオフサイドの判定。サウジアラビアの緻密かつ勇気あるハイラインが奏功し、前半だけで3回のゴールシーンがオフサイドで取り消されることとなった。

 そして後半開始早々、サウジはサレハ・アルシェハリとサレム・アルダウサリの連続ゴールで逆転に成功。サウジのシュート数は、わずか3本だった。その後はアルゼンチンの猛攻を受けるも、サウジの選手たちは最後まで集中を切らすことなく、身体を張って相手の攻撃を削いでゆく。そして14分ものアディショナルタイムもしのぎきり、ついに歴史的なアップセットを達成。いやはや、ものすごいものを見せてもらった。

W杯の常連といえば、やはりメキシコのサポーター。ポーランドとの初戦に向けて気合は十分 【宇都宮徹壱】

 試合終了は15時8分。次の試合会場に向かうべく、興奮冷めやらぬ人々の波をかき分けながらメディアバスの乗り場を目指す。厳重な警備が敷かれていたため、かなりの迂回を強いられてようやくバスに乗り込んだのが、撤収から40分後のこと。いったんメインメディアセンターに戻り、そこから別のバスでメキシコvs.ポーランドが行われる、スタジアム974へ移動する。夕刻のドーハは渋滞に見舞われるが、何とかキックオフ1時間前には到着することができた。

 メキシコとポーランドによる一戦は、ゴールこそ決まらないものの、高いテンションが途切れない展開。夜中に見ていた日本のサッカーファンは、目が冴えて眠れなくなったことだろう。後半13分にはポーランドにPKが与えられるも、ロベルト・レバンドフスキのキックは、ギジェルモ・オチョアの好セーブに阻まれてしまう。試合はそのままスコアレスドローで終了。

 かくしてW杯では初めてとなる、ハシゴ観戦を無事に終えることができた。今回はメディアバスをフル活用したが、一般の観客でもメトロとタクシーを使いこなせば、1日2試合の観戦は十分に可能だろう。お得感があるだけでなく、同じグループの4チームをまとめて見られるという点でも、いろいろと発見があるのかもしれない。

 もっとも、サウジの歴史的な勝利の余韻に浸る間もなく、次の試合に向かったのは少しもったいなかったようにも感じている。W杯はそれぞれの試合に重みがあるわけで、90分のゲームが終わったあとに、じっくり反芻するのも楽しみ方のひとつ。その意味で11月23日の日本vs.ドイツの試合が、うれしい余韻が感じられるものとなることを期待したい。 

<明日につづく>
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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