早くも雲行きが怪しくなったカタール大会 ホスト国早期敗退の可能性も 短期連載「異例づくめのW杯をゆく」

宇都宮徹壱

「ファンビレッジ」と呼ばれるコンテナ場の簡易宿泊施設。宿泊者からは不評しか聞こえてこない 【宇都宮徹壱】

コンパクトで犯罪も少ないカタール特有のリスクとは?

 FIFAワールドカップ(W杯)カタール大会の開幕から一夜が開けた。

 開幕直前になって、さまざまな問題が指摘されていた今大会。そもそも開幕日も、開催国側の不可思議なゴリ押しで1日早まるという経緯があった。ところが開幕戦は、直前のセレモニーを含めて非常にスムーズ。私自身は2002年大会以降、すべての開幕戦を取材してきたが、過去のいずれの大会と比べても、まったく遜色のないオープニングだったと言える。

 もともとアジアカップやFIFAクラブW杯など、国際大会の開催では実績のあったカタール。それゆえ、開幕戦がつつがなく終えたこと自体、何ら驚きではない。ついでにいえば、W杯開催国が大会史上初めて初戦で敗れたことについても、さしたる驚きはない。ただし、大会の行方に関わる重要な話なので、またのちほど触れることにしよう。

 先のコラムで語ったとおり、今大会は長距離移動の必要がほとんどない。14年のブラジル大会や18年のロシア大会のように、移動で疲弊するリスクはほぼ皆無。なるべく多くの試合を観たい人にとっては、実にありがたい話であろう。一方で、10年の南アフリカ大会や4年後のブラジル大会のように、犯罪に巻き込まれるリスクも極めて低い。カタールはもともと治安が良い上、今大会はファン・サポーターの導線には、必ずボランティアスタッフがいるからだ。

 その代わり、カタールには「宿問題」という深刻なリスクがある。国土も人口規模も小さく、もともと観光立国でもなかったため、アコモデーション(宿泊施設)の数がとにかく限られているのだ。大会期間中は、普通のビジネスホテルでも軒並み宿泊料の桁が1つ多く提示されていて、庶民は目を剥くばかり。「ファンビレッジ」と称するコンテナの簡易宿泊施設も、利用者からは「監獄並み」と酷評されているのに、1泊2万円から3万円はするそうだ。

 われわれ取材者にとっても、非常に頭の痛い宿問題。幸い今回は、友人の紹介で6人部屋のアパートメントを借りることができた。費用についても、人数で割れば実にリーズナブル。大会2日目の午後に入居したが、ここなら自炊をしながら快適な日々を送ることができそうだ。逆に、こうした縁がなければ、かなり苦しい取材の日々となっていただろう。

オランダに善戦したセネガルを見て感じた不安

後半39分、ガクポがピンポイントのクロスを頭で決めてオランダが先制した 【Photo by Mark Metcalfe - FIFA/FIFA via Getty Images】

 11月21日はグループAのもう1試合、アル・トゥママ・スタジアムでのセネガルvs.オランダを取材した。セネガルといえば、4年前のロシア大会で日本がグループステージ第2戦で対戦したことを思い出す(結果は2-2で引き分け)。サポーター席から繰り出される、途切れることのないパーカッションのリズムに、エカテリンブルクでの熱戦の記憶が蘇える。

 そのロシア大会に出場していないオランダは、日本でもお馴染みのルイス・ファン・ハールが3度目の監督就任。8年ぶりのW杯ということで、メンバーの顔ぶれも随分と変わっていた。とりわけ2メートルを超える長身GK、アンドリース・ノペルトについては、まったくの未見。何と、この試合が代表初出場だった。理論派のようで直感も重視する、ファン・ファールの性格が反映された起用といえよう。

 セネガルとオランダの試合は、シュート以外は互いにほとんどミスのない、実に引き締まったゲームとなった。セネガルは後半28分にイドリサ・ガナ・ゲイエが、41分にパペ・ゲイエが、いずれも決定的なシュートを放つも、いずれもノペルトの好セーブに阻まれる。対するオランダは後半39分、コーディ・ガクポがピンポイントのクロスを頭で決めて先制。さらに終了間際には、デイヴィ・クラーセンが追加点を挙げて、難敵を2-0で下した。

試合後のアル・トゥママ・スタジアム。オランダに敗れたセネガルが開催国カタールの次の相手だ 【宇都宮徹壱】

 この結果、エクアドルとオランダが勝ち点3で並び、カタールとセネガルは2戦目の直接対決で、どちらかがグループステージ敗退となることが濃厚となった。とはいえセネガルはオランダ相手に、後半39分まではほぼ互角の試合運びを見せている。この試合で私が感じたのは、グループAの厳しさよりも、開催国の敗退が早々に決まってしまうことへの強い不安であった。

 開催国がグループステージで敗退したのは、過去に一度だけ、10年の南アフリカの例がある。ただしバファナ・バファナ(南ア代表の愛称)は、メキシコ、ウルグアイ、フランスと同組となりながら、グループ突破の可能性を最後まで残していた。また、開催国が敗れて以降も、ガーナがベスト8に進出したことで、結果的に「アフリカ初のW杯」としての盛り上がりを見せている。

 W杯の開催国に求められるのは、大会の運営能力はもちろんだが、自国のナショナルチームが勝ち上がることも極めて重要。グループステージ2戦目で敗退が決まれば、大会そのものの熱量が急速に失われる可能性は十分に考えられる。運命のセネガル戦が行われるのは、11月25日。今大会の行方は、この一戦に懸かっていると言っても過言ではない。

<明日につづく>
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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