ドイツ戦勝利を後押ししたものは? 2つのイレギュラー要因が影響 短期連載「異例づくめのW杯をゆく」

宇都宮徹壱

日本の勝利を後押しした(?)2つのイレギュラー要因

スタジアムに隣接するアスパイアタワーでは、日本の勝利を祝福するメッセージが浮かび上がる 【宇都宮徹壱】

 かくして日本は、W杯の舞台でドイツに勝利した。もちろん、グループ突破のための重要な勝ち点3であるが、歴史的な意義についても考えてみたい。日本はカタール大会に至るまで過去に6回、W杯に出場しているが、勝利したのは5カ国のみ。すなわち、2002年のロシアとチュニジア、10年のカメルーンとデンマーク、そして18年のコロンビアである。

 意外に少ないと思われるかもしれないが、そもそもアジアの国がW杯で勝利すること自体、決して容易ではない(11度目の出場となる韓国でさえ、前回大会までに獲得した勝利数は6回)。ここに6カ国目として、新たにドイツが加わった。ただ格上なだけではない。過去4回の世界制覇を達成している、ヨーロッパを代表する強豪にW杯で勝利した重みと晴れがましさは格別だ。

 もっとも、だからといって日本サッカーの総体が、ドイツのそれを上回ったわけではない。ピッチ上での現象とは別に「何が日本の勝利を後押ししたか」について、感動が鮮明なうちに整理しておく必要があるだろう。私が考えるのは、開催時期(11月)と開催地(アジア)という、2つのイレギュラー要因による影響である。

 このうち開催時期については、すでにあちこちで語られていることなので、多くを説明するまでもないだろう。シーズン途中の本大会突入によって、ドイツ代表の強化スケジュールが後手後手に回った感は否めない。メンバー発表は11月10日(日本の9日後)、オマーンとの親善試合を終えてカタール入りしたのは17日だった(日本の第一陣が到着した10日後)。入念な準備をしていた日本と比べて、ほとんどぶっつけ本番の状態だったことは想像に難くない。

 では、開催地についてはどうか。カタール大会は、これまで「中東初」と表現されることが多かったが、同時に20年ぶりにアジアで開催された大会でもある。カタールと国境を接するサウジアラビア、そしてドーハでの試合経験が豊富な日本が、いずれもW杯優勝国に逆転勝利を収めたのは、もしかしたら偶然ではないのかもしれない。

 思えば2002年の日韓大会では、優勝候補と目された強豪国が相次いで脱落。前回優勝のフランスやアルゼンチンは、グループステージ3試合で大会に別れを告げている。もしかしたらアジアには、説明不可能な磁場のようなものが働いているのだろうか。だとしたら、日本代表はもう一波乱、起こしてくれるかもしれない。

 ちなみに、スペインとの第3戦が行われるのは、ドイツ戦と同じハリーファ国際スタジアムだ。

<11月27日に続く>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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