無名選手たちが成し遂げた最短J2昇格 いわきFCの「筋肉」「施設」だけでは片付けられない強さ
昇格1季目ながらJ3制覇、J2昇格を決めたいわきFC 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】
J3を1年で通過
J3は11月20日に最終節を迎えるが、いわきFCは1試合を残して23勝6分4敗と首位に立っている。今季のJ3は18チームで構成されていて、そのうち9チームにJ2経験がある。J1経験のある松本山雅FCでさえ、現在4位と苦しんでいる。彼らはそんなタフなカテゴリーを、JFLからの昇格初年度にいきなり制した。
いわきFCはアンダーアーマーの日本総代理店を務める「ドーム」社の子会社で、2016シーズンから現体制で活動を続けている。いわき市は福島県の「浜通り」に位置していて、浜通りは2011年3月の東日本大震災とそれに伴う原発事故で甚大な被害を被った地域。彼らはそんな地域における、復興のシンボルでもある。
「日本のフィジカルスタンダードを変える」
いわきFCへ加入した選手は見違えるほど筋骨隆々になり、しかも走れるようになる――。それは伝説であり定説だ。筆者は優勝を決めた直後、13日に開催されたSC相模原戦を取材したが、現場で会った知人は「ウオーミングアップの強度がJ1級だ」と驚いていた。
「ただ筋肉を増やすだけ」ならば、それほど難しくはない。しかし彼らはボディビルダーやアメリカンフットボールのラインマンでなく、90分間スプリントや細かい動きを繰り返すサッカー選手だ。いわきFCの選手は相手に鋭く寄せる、ギリギリで止まる、方向を変えるといったサッカーの動きがしっかりできる。そうでなければJ2昇格という結果は出ない。
「出し切る」カルチャーが根付く
今季からいわきFCの指揮を執る村主博正監督 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
「我々は90分間、34試合、止まらず倒れずできるかが一番大事だよという話をして、送り出しました。それをみんながしっかり実行して、勝利を持ってきてくれたことに感謝しています」
先制点を決めたFW有田稜はこう口にしていた。
「やりにくさはありました。『ここで負けたら自分たちが積み上げてきたものは全てなくなるぞ』と話していて、最近の試合では一番緊張しました。『やらなきゃいけない』という思いでピッチに入ったので、勝てて本当にほっとしています」
いわきFCは38分に有田、53分に吉田知樹が得点を挙げ、終盤に1点を返されたものの2-1で逃げ切った。このクラブにはどんなときでも全力を尽くす、自分たちを追い込むカルチャーがある。それを強く感じた13日の試合だった。
集めるのでなく“育てる”クラブ
13日の試合を例に挙げると、いわきFCの先発でJ2以上の出場歴を持っている選手は二人だけ(遠藤凌、古川大悟)で、しかも通算出場は合わせて3試合だ。スタメンの平均年齢も、24.09歳だから相模原より6歳以上若い。レンタル組や移籍選手もいるが、大卒間もない選手がチームの主軸となっている。
いわきFCは人件費でなく、環境に投資をしているチームだ。彼らは人を集めるのでなく“育てる”ことで結果を出してきた。