無名選手たちが成し遂げた最短J2昇格 いわきFCの「筋肉」「施設」だけでは片付けられない強さ
いわきFCに「合う」選手の獲得方法は?
「トレーニングの部分で、彼らの最大値を伸ばすためのクラブ力があります。食事をすべて写真で送らせて、睡眠時間もこちらで管理しています。あとドクターのところで血液検査をしたり、ストレングス(著者注:神経系、筋肉系も含めた全体の能力)のトレーニングは何が合っているかを測るために遺伝子を調べたり……。まず数字がないと改善できないので、選手1人ひとりを数値化しています」
もう一つ大切となのがチームカラーに合う人材の獲得だ。モチベーションが低い選手、自己管理ができない選手に無理やりウエイトトレーニングをさせても効果は期待できない。逆に「フィジカル的な課題を克服すれば化けそう」な人材がいれば、フィットする可能性が高い。
村主監督は言う。
「選手と話をして、ビジョンにしっかり合うか、(いわきFCに合う)メンタリティなのかも含めて慎重に確認して獲っています」
いわきFCの強化部には昨シーズンまで監督を務めていた田村雄三スポーツディレクター、スカウトを担当する平松大志氏がいて、さらに大倉智社長も元Jリーガー。クラブ経営を担いつつ村主監督が「社長の中では日本一サッカー見ているのではないか」と評するほどの関心を大学サッカーに向けているという。つまり、メソッドにあった人材の“採用”にしっかりリソースを費やしている。
新人FWが後半戦にブレイク
ただそんな彼も加入直後は“J3の壁”に苦しんだ。前半戦の17試合は先発が1回のみで、ゴール数も「3」にとどまっている。しかし直近の8試合で10得点と、シーズンの山場に得点を量産中だ。
村主監督は振り返る。
「最初の頃は、チャンスは作るけどなかなか決めきれませんでした。でもそこから必死にストレングスのトレーニングをやったりして、夏過ぎからその効果が出てきました。当たり負けせず、相手DFとマッチアップしても勝てる場面が増えています。倒れないでタフにやれるようになって、あとフィニッシュワークでパワーが出るようになったことで、点が取れています。彼の成長が、後半の勢いになったのかなと思っています」
「一番成長できる環境があった」
「いわきFCは(他にも)優秀なFWが多いですし、その中で自分は腐らず、足りないところを補ってきました。それがこの結果につながっています。トレーニングの効果は、確実にあります。1年目にいわきFCへ来られたことが、今後の人生に絶対つながっていくと思います」
いわきFCの加入を決めた理由はこう説明する。
「自分がオファーをもらったときはJFLで、まだJ3昇格が決まってない時期でした。他のオファーもあったんですけど、いわきFCには一番成長できる環境があったので、(国士舘大学理事長/サッカー部テクニカルアドバイザーの)大澤先生と話して行かせていただきました」
若い選手が出し切る、成長できる環境について、加入2季目のMF宮本英治はこう口にする。
「ハードワーク、戦うといった部分は本当にサッカーのベースで、どのカテゴリーでもこれがないと勝てません。いわきFCは若い選手を獲って、そういう大事なところを磨いています」
野心と熱が呼ぶ相乗効果
「ここにいる選手には野心、ここから這い上がっていこうという気持ちがあります。他のチームより全体練習のボリュームが多いと聞きますが、それでもみんなが自主練をやって、筋トレもチームと別に自分でやって……みたいな感じです。志の高い選手が多くて、『やれよ』と言われている選手をあまり見ません。試合に出たいし活躍したいし、早くJ1、J2に上がりたい――。そういう熱量をみんなが持っていて、それがいい相乗効果を生んで、本当に良いチーム、強いチームになっています」
高レベルなトレーニングメニューと環境を用意し、そこに野心のある人材を集結させる。高い熱量を持った人間が同じ目的に向かう中で、相乗効果が生まれ、ハードワークのカルチャーが根付く。いわきFCの躍進を生んだのは、そのような人と人のケミストリーだ。