J2で過去最低成績の大宮に何が起きていたのか? 主将・富山が語る「迷い」

平野貴也

シーズン途中から主将を任された大宮アルディージャのFW富山貴光 【筆者撮影】

 苦しいシーズンを耐え抜いた。2022年のJ2リーグを戦った大宮アルディージャは、序盤から苦しみ続け、残り2試合となる段階でJ2残留を決めた。シーズン途中で監督が変わり、主将が移籍するなど変化も多かった1年。選手たちは何を感じ、考えていたのか。プロ10年目で愛着のあるクラブに戻り、チーム内最多で自身のキャリアハイとなる8得点を挙げ、シーズン途中から主将を務めたFW富山貴光に話を聞いた。

「何を継続して、何を新たに加えるのか、一貫性がなかった」

大宮はシーズン序盤から苦しみ、残留争いでもがき続けた 【(C)1998 N.O.ARDIJA】

――今季は、J2で勝点43の19位(21位以下は、J3へ自動降格)。過去最低の順位となりましたが、どう受け止めていますか?

 応援してくれた方々には申し訳ない気持ちでいっぱいですが、チーム全体で見ると、自分たちが蒔いた種によって、なるべくしてなった結果だとも感じています。チームとして(J1昇格プレーオフ出場権を得る)6位以上でJ1昇格を目指すという目標は設定しましたが、クラブとして何を大事にするのかが明確になっていませんでした。昨季の選手や戦術をベースに積み上げるのか、いろいろな形にトライするのか、若手の育成に注力するのか――。途中で監督が代わって大きくスタイルが変わった部分も含めて、何を継続して、何を新たに加えるのかも一貫性がなく、もっと軸がしっかりとなければいけなかったのではないかと思います。もちろん、僕自身もピッチの中で方向性をもっと明確に示せなければいけなかったと感じていますが、1年毎に軸が変わるようでは、特に若い選手は迷いが出ます。

――最終節後のあいさつで「今後は、アルディージャとしてしっかりとしたビジョンを掲げ……」と話した部分ですね。シーズンを振り返って下さい。初勝利を挙げた第10節までの2カ月は、6試合で先制しながら終盤の失点が多く1勝3分6敗。どう感じていましたか?

 相当、歯がゆかったですね。攻撃では、いい流れでチャンスが多いときに確実に1点取らなければいけないのに、勢い任せでシュートを打って、結局得点できない。守備だと、リードしているこっちが優位で相手が焦るはずの場面で、こっちが焦って無理に足を伸ばして股下が空いて抜かれる。そんなことがありました。僕は先発の機会が少なかったですが、外から見ていて、どの時間帯に力を使って勝負に出るのかという部分がチームとして下手だと感じました。結果が出なかったことも影響したと思いますが、サッカーを楽しめていない、(結果に)怯えながらやっているようにも見えました。

監督交代による「真逆と言ってもいいくらい」の変化で迷いが

シーズン中盤から出場数が増えた富山は、キャリアハイの8得点を挙げたが、心から喜べることは少なかったという 【(C)1998 N.O.ARDIJA】

――第18節を終えて勝点17の20位と残留争いから抜け出せず、昨季途中から指揮を執っていた霜田正浩監督が解任され、相馬直樹監督が就任。ボールを保持して広がってスペースを作るスタイルから、密集してボールを奪って素早く攻めるスタイルに変わりました。監督交代はどのように受け止めましたか?

 今まで何度も経験して慣れてはいますが、シーズン途中でここまで大きくスタイルが変わることは、あまりないと思います。真逆と言ってもいいくらいですから。チームとしてすごく迷いが生じました。特に、今の若い選手は真面目な選手が多く、自分の特長を消してまで監督の指示を聞き入れるか、ある程度は指示通りに動きながら得意なプレーに関しては仕掛けていくのかという境界線を、選手がうまく作れなかったと思います。言われたプレーだけでも、自分のやりたいプレーだけでもダメなので難しいところではありますけど。うまくいかないことが多く、いいモチベーションを保つのが難しくなった部分もあると思います。

――強いチームは、目指すサッカーができなくてもセットプレーやカウンターで1点を取って、勝ちながら反省をして、少しずつスタイルを作り上げていく印象があります。その点、大宮は試合の流れに合わせず、目指すサッカーの遂行にこだわり過ぎる傾向を感じます。

 チームの中で引き継がれていく、勝負所への力のかけ方だと思います。試合の中でチームを引っ張って来た選手の姿を見て、若手が学んで成長していくものではないでしょうか。それが、クラブやチームの軸となって明確になっていくのだと思います。そういう基準を示せる選手がいないことも課題と言えるかもしれません。大宮の場合は「求められているプレーをまずやらないと試合に出られない」という思いの強い選手が多いです。そのプレーより、自分の特長を出した方が輝けるのではないか、試合に出たい気持ちは分かるけど、本当にそのプレーでいいのかと思う場面がよくあります。得意なプレーを仕掛けて成功すれば認められると思いますが、成功しなかったときのことを考えてしまうのでしょう。監督が言っているから……ではなくて、それを聞きながらも自分の意思でプレーを決めなければいけません。そのバランスが難しくて、うまく行っていない部分はあると思います。

――相馬監督体制になってからも24試合で勝点26と大きな改善はできず、課題が多いシーズンではありますが、良かった点は?

 勝っても少しホッとするだけで、ずっと苦しかったですね。良かったのは、セットプレーの得点が多かったことで、今後のベースにするべき部分だと思います。担当した北嶋秀朗ヘッドコーチが、上手く選手の特性を引き出してくれました。いくつかパターンはありますけど、そこからの変化で、特長を生かす判断の部分が分かりやすく、選手にうまく伝わっていたと思います。

――個人としては、チーム内得点王となる8得点を挙げました。

 決めた試合で2回しか勝っていないので、毎回、素直には喜べませんでした。チームを勝たせるゴールが、僕がこのチームに来て引っ張っていかなければいけない部分。それが少なかったので、満足はしていません。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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