「ソナエルJapan杯」の開催意義とは? 防災のためにJリーグが果たす社会的責任

吉田誠一

「ソナエルJapan杯」を共同で開催したJリーグの高田春奈理事(左)とヤフーの西田修一執行役員が、同イベントの成果と課題を語り合った 【YOJI-GEN】

 防災意識を高め、災害時に1人でも多くの命を救うため、Jリーグとヤフー株式会社が共同で開催した「ヤフー防災模試 ソナエルJapan杯」が、V・ファーレン長崎の2連覇という結果で終了した。Jリーグ全58クラブのファン・サポーターが、災害時に不可欠な知識、情報、能力を問う模試を受験し、その点数を競ったイベントを終え、Jリーグの高田春奈理事とヤフーの西田修一執行役員が、あらためて「ソナエルJapan杯」の成果、意義、課題などについて語り合った。

防災の大切さを伝えたジュビロ磐田のSNS

――J2のV・ファーレン長崎が2連覇を果たし、J1の清水エスパルス、浦和レッズ、名古屋グランパスが続いた今回の「ヤフー防災模試」の結果を、どのように捉えていますか?

高田春奈(以下、高田) 私自身が長崎の社長を務めていた前回(2021年)は、クラブを挙げて取り組み、優勝できました。昨年より積極的にイベントに参加するクラブが増えた中での2連覇は、やはりうれしいことです。日ごろから熱心に「シャレン!(Jリーグ社会連携活動)」に取り組んでいるクラブが上位に入った印象です。

西田修一(以下、西田) 長崎の2連覇は本当にすごいことです。Jリーグの強みはクラブ、選手、サポーター、地域によって形成される強いコミュニティにあると思っています。このイベントを通じ、今回も長崎のコミュニティの強さが示されました。J3の藤枝MYFCも上位にきています。東海地方のクラブは南海トラフ地震を想定し、地域と連携してさまざまな防災の取り組みをしていますが、その表れだと思います。

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――上位に入ったクラブは、どのようにしてサポーターや地域住民にイベントへの参加を呼び掛けていたのでしょうか?

高田 SNSでの「防災について発信してください」という呼び掛けが中心です。サポーターがクラブの一員として熱心に呼び掛けたことが、結果につながったのでしょう。長崎を訪れた時、地上波のクラブの応援番組が「ソナエルJapan杯」への参加方法を説明していました。それも、クラブがこのイベントを活動の中心に置いていることの表れであり、サポーター、地域住民も社会的に意義のある活動だと捉えていたんだと思います。また、清水はホームゲームで受験促進のブースを出していたのが効果的だったのではないでしょうか。

――印象に残る取り組みはありましたか?

高田 ジュビロ磐田の公式SNSが、豪雨でヤマハスタジアムが浸水した映像とともに、「突然やってくる災害の恐ろしさ、普段からの備えの大切さをあらためて実感しました」と、メッセージと併せてヤフー防災模試が役に立ったことを発信していました。普段試合をしているスタジアムが浸水した映像は衝撃的でしたね。防災の大切さが伝わる発信で、他のクラブのサポーターにも響いたはずです。
西田 上位のクラブはSNSの使い方が非常にうまいと感じました。選手がSNSでメッセージを発信している例も目に付きましたが、サポーター、特に子どもたちにとって選手はヒーローですからね。メッセージが届いたら、このイベントに参加しよう、災害に備えようと思うはずです。それが災害時に身を守ることにつながる可能性があります。

地域性のあるJリーグが果たす大きな役割

「ソナエルJapan杯」開催中の9月2日には、浜松市と磐田市で局地的大雨が。ジュビロ磐田がSNSで発信したスタジアム浸水被害の映像が、防災の大切さを伝えていた 【写真は共同】

――第2回の「ソナエルJapan杯」を終えたいま、このイベントの意義、重要性について、あらためてどう考えていますか?

高田 みんなで楽しめるイベントですが、それが社会を守る、自分にとって大事な人を守ることにつながるかもしれないところに意義があります。防災は誰にとっても身近な問題です。このイベントが実際に役立った時、実施して良かったと、より強く実感するものだと思います。

西田 ヤフーは被災地支援、減災の取り組みもしていますが、それと比べると防災は非常に難しいと感じています。平時に「備えて」と訴えても、伝わりにくい。しかし、日本では地震や水害が頻発していて、いつ自分が被災者になってもおかしくありません。そうなった時、防災の知識を持っているかどうかで運命が変わるかもしれない。ですから「防災って難しい」で済ませるわけにはいかないのです。

 Jリーグは強いコミュニティを持っています。そこに防災の知識を問うテスト形式のコンテンツを掛け合わせました。ある程度、楽しみながら知識が備わっていきます。そういう状態をつくるうえで非常にいい取り組みだと思います。

――この試みを、さらに発展させるためのアイデアはありますか?

西田 まだ具体的なものはありませんが、Jリーグのポテンシャルはもっと高いと思うので、より多くの人に参加してもらうための仕掛けづくりをしていかなければなりません。来年以降も試行錯誤をしながら取り組んでいきたいと考えています。

高田 私は日ごろ、「Yahoo!防災速報」を活用しています。「今日は熱中症に気をつけましょう」といった具合に注意喚起してくれますし、いま自分がいる所はこういう状況ですという投稿もできます。

 サッカーファンはそういう情報を積極的に発信しようと思うのではないでしょうか。Jリーグのサポーターはアウェーの試合にも遠征しますから、対戦相手のホームタウンも身近に感じているはずです。九州に住んでいながら、東北の水害を気にします。防災模試とはまた別の形で、防災アプリをサッカーのコミュニティに掛け合わせると、活動に広がりが出るかもしれません。学校での防災教育でも、ドリルをつくったりして、連携できるかもしれません。子どもたちの方がスッと知識が頭に入っていくような気がします。

――このような取り組みはJリーグ、Jクラブの力を測るものであり、それぞれの存在意義が問われるものだと感じます。

高田 試合が立て込んでいるとか、コロナ対策で忙しかったとか、いろいろと理由はあるのでしょうが、模試で勝ち点が伸びなかったクラブがあります。それに対して、リーグとしてもっとコミュニケーションを取らなければならなかったと感じています。これは単なるパートナー企業との連携イベントではなく、ファン・サポーター自身の命を守る大事な活動であるということを、リーグがもっと強く伝える必要がありました。

西田 Jリーグは地域性がある組織であり、地域に素晴らしいコミュニティを持っています。災害とは場所と紐付いたものです。Jリーグも同様です。だから防災という観点では大きな役割を果たせます。ヤフーとしてはコンテンツ、仕組みを提供しながら、Jリーグの力をしっかり生かせる取り組みを続けていきたいと考えています。

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