「ソナエルJapan杯」の開催意義とは? 防災のためにJリーグが果たす社会的責任

吉田誠一

社会連携をクラブとしてのスタンダードに

「日ごろから熱心に『シャレン!』に取り組んでいるクラブが上位に入った印象」と、Jリーグの高田理事。クラブと地元自治体の強いつながりが、地域住民を災害から守る 【(c)GAINARE TOTTORI】

――Jクラブは地域に支えられているので、地域が衰退したらクラブは成り立ちません。防災とは地域を守ることなので、Jクラブにとって非常に重要なテーマです。

高田 その通りだと思います。日ごろから地元自治体と連携しているかどうかが重要です。実際に災害が起きた時、普段からの連携の深さが試されます。クラブと地元自治体の強いつながりが地域住民、ファン・サポーターを守ることになりますから。

西田 ある程度の規模の企業、ある程度の数の人材を集めている企業には、社会に対して何らかの役割を果たす責任があります。ヤフーがCSR(企業の社会的責任)として防災に取り組んでいるのは、その気持ちの表れです。Jリーグが「シャレン!」に取り組んでいるのも、組織として社会的責任を果たそうとしているからだと思います。

 この国で誰もが陥る可能性がある危機は、災害です。企業、組織、コミュニティが社会的責任を果たそうとするなら、防災という観点で活動すべきだと思いますし、Jリーグにはその力があります。もちろん選手は良いプレーをするのが第一ですが、メッセージの力を備えた人間として、社会に対する責任も果たさなければなりません。選手が防災のメッセージを発してくれたら、サポーターの意識も高まり、災害時に1人でも多くの命を救うことにつながるかもしれません。

――この活動は、Jリーグがどうあるべきかという問いへの1つの答えを示しているのではないでしょうか?

高田 クラブの成長の仕方にはいろいろあります。地域のコミュニティとの結びつきで成長していくクラブもあれば、熱狂的なサポーターに支えられ、選手がサッカーに集中することで、結果を出しながら成長していくクラブもあります。しかし、地域とつながること、社会連携はクラブとしての活動の選択肢の1つではなく、ベースになる必須のものだと思います。これをスタンダードとする必要があります。

――各クラブのOBはその地域の名士であり、発言力、影響力があります。

高田 今回のイベントでは多くのクラブがマスコットを稼働させていました。マスコットとともにOBがクラブの顔として活動してくれると、現役選手も協力しやすいでしょう。

西田 JリーグのOBの多くは、いまの子どもたちのお父さん、お母さん世代が憧れていた存在です。彼らが活動に加わることで、巻き込める層が広がりますし、こうした活動はOBが力を発揮できる格好のシーンであるとも思います。

生き残るためのリテラシーを磨く取り組み

長崎の2連覇で終わった第2回「ソナエルJapan杯」だが、「効果を最大化するにはまだ工夫が必要」と、ヤフーの西田執行役員は今後の課題も口にした 【(c)J LEAGUE】

――「ソナエルJapan杯」に課題があるとしたら、どういった点でしょうか?

西田 総参加者数は私が考えていた目標に届きませんでした。Jリーグのポテンシャルを考えると、より多くの方に届けることができると思っています。Jリーグが持つコミュニティにコンテンツを掛け合わせて効果を最大化するためには、まだ工夫が必要です。回数を重ねながら、正解に近づけていきたいと思っています。

高田 ランキングを見ると(上位と下位で)勝ち点が大きく開いています。規模を考えれば、もっと勝ち点を挙げてもおかしくないのにと思えるクラブもあります。かつてJクラブで働いていた身として思うのは、このイベントを成功させるには、このような社会的意義のある取り組みを多くの人に広げたいという覚悟、決意、信念が必要だということです。Jリーグとしては、クラブとのコミュニケーションを取りながら、このイベントの意義をしっかり伝える努力をしていきたいと考えています。被災地への支援は多くのクラブが積極的に取り組んでいます。防災についても同じ温度感で取り組んでほしいですね。

西田 この国において、防災力は欠かせないリテラシー(適切に理解し、活用する力)です。ヤフーには小学生向けの「Yahoo!きっず」というサービスがありますが、そのテーマは生き抜く力を養うことです。ヤフー防災模試の子ども版「ちょボットの防災道場」もあります。毎年、夏になると多くの水難事故が起きますが、海や川で遊ぶ時の注意点を頭に入れていたら、命を守れたかもしれないと考えてしまいます。そこで今年は、水難事故に備えるコンテンツを展開しました。

「ソナエルJapan杯」も、生き残るためのリテラシーを磨く取り組みです。だからこそ、より多くの人に参加してもらえるようなイベントにしていきたいと思っています。

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