Jリーグとヤフーと「防災」と ソナエルJapan杯、それぞれの思い

宇都宮徹壱

Jリーグの村井満チェアマン(左)とヤフーの西田修一執行役員の対談は9月29日にオンラインで行われた 【宇都宮徹壱】

 防災の日の9月1日、Jリーグとヤフー株式会社は「ヤフー防災模試 ソナエルJapan杯(以下、ソナエルJapan杯)」の開催を発表した。これは防災意識を高めることを目的に、災害時に必要な知識や能力を問う「ヤフー防災模試」を、Jリーグに所属する57クラブのファン・サポーターがスマートフォンで受験。その点数をクラブ間で競い合うという企画である。そして第1回のソナエルJapan杯は、J2のV・ファーレン長崎が優勝を果たした。

 優勝クラブの関係者、そして日本サッカー界のレジェンドが顔をそろえたチームJリーグOB(以下、J-OB)のコメントはあらためて紹介したい。その前に、ソナエルJapan杯を開催したJリーグとヤフーを代表して、村井満チェアマンと西田修一執行役員の対談をお届けする。なぜこの両者がタッグを組んだのか。そしてなぜ、ネットメディアとスポーツ興行団体が「防災」の情報発信に取り組むのか。ソナエルJapan杯に参加した人も、参加できなかった人も、ご一読いただければ幸いである。

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ソナエルJapan杯での注目クラブは?

今年のマスコット総選挙で優勝した長崎のヴィヴィくん。ソナエルJapan杯も大活躍? 【宇都宮徹壱】

──まずは今回のソナエルJapan杯で、気になったクラブや注目したクラブについて、それぞれ教えてください。西田さん、いかがでしょうか?

西田 優勝したV・ファーレンですね。ヤフー防災模試自体は、実は2018年から展開しています。その経験を踏まえると、大地震などの災害に見舞われた地域や、南海トラフ地震での被災が懸念されている地域での得点が高い傾向が見られました。最近で言えば、大地震があった熊本ですとか、あるいは豪雨災害に見舞われた県ですよね。長崎の場合ですと、直近では大きな災害に見舞われたという報道は記憶にありません。ではなぜ、これほどまで高得点を上げて優勝したのか。どこにポイントがあったのか、知りたいと思いました。

──長崎は、地域ごとに分かれて行われた予選ラウンドを文句なしの首位突破。「九州代表」として、決勝ラウンドに進出しました。するとロアッソ熊本をはじめ、九州他県のJクラブのサポーターがエールを送るという現象が見られましたね。非常にJリーグらしいことだと思いましたが、村井さんはいかがでしょうか?

村井 Jリーグの試合はホーム&アウェーで行われますから、もともとファン・サポーター同士の行き来があったわけですね。それに紐づくような形で、自然災害に見舞われた地域のクラブに対して、アウェーのサポーターから「頑張っていこう!」みたいなエールや横断幕が掲出される伝統がありました。そういった意味で、熊本の人たちが長崎の応援に回ったことは、ソナエルJapan杯の話題づくりにも一役買ってくれたと思っています。

 それと長崎と言えば、今年のマスコット総選挙でセンターポジションに返り咲いた、ヴィヴィくんという非常に愛らしいマスコットがいますよね。このヴィヴィくんもまた、ソナエルJapan杯への参加を呼びかけていた効果もあったと思います。それとともに、クラブが持っているアセットをフルに使って、ホームゲームでの呼びかけにも積極的でしたよね。そういった意味で、今回の優勝は長崎にとっても大きな転換点になったと思います。

──2位の清水エスパルス、そして3位のFC町田ゼルビアについては、いかがでしょう?

西田 まず町田に関しては、チームを率いるポポヴィッチ監督のファン・サポーターへの発信力が、大きく影響していたと聞いています。このあたりも、いかにもJリーグならでは、ですよね。それと2位の清水、4位には藤枝MYFCが入りました。もともとソナエルJapan杯は、ソナエル東海をベースにスタートしていますので、これら東海地方のクラブが上位を占めたのは、さすがだなと感じました。

なぜJリーグとヤフーはタッグを組んだのか?

「サッカーは屋外競技ですので、さまざまな天候に影響を受けやすい」と村井チェアマン 【宇都宮徹壱】

──このソナエルJapan杯は、Jリーグとヤフーがタッグを組んで行われたことが、非常に興味深く感じました。もともと両者は、長らくパートナー契約を交わしてきた歴史があります。今回はJリーグ側から声をかけて実現したとのことですが、それぞれどのような思いがあったのでしょうか? 村井さんからお願いします。

村井 サッカーのコンテンツを持っているJリーグ、そしてメディアを持っているヤフーさん。この両者がコラボすることで、これまでもさまざまなファンサービスや視聴者に対するサポートなどを行ってきました。ヤフーさんは日本全体をカバーするプレーヤーではある一方で、例えば私が住んでいるさいたま市のエリア情報なんかもトップページに表示されるようになりましたよね。われわれの理念である地域密着と、地域情報をパーソナライズして提供するヤフーさんの戦略は、非常に近いものを感じていました。

 それで防災という観点で言えば、これまでだと国とか行政とか自治体といった上からの情報発信が主でしたが、なかなか「自分ごと」として若者たちに伝わっていかないことを感じておりました。けれどもサッカーであれば、あるいはインターネットであれば、防災というテーマであっても若年層に届くのではないか。Jリーグとヤフーさんが発信することで、若者たちに「やらされている感」なく「自分ごと」として、この問題を捉えていく方向性を打ち出せるのではないか。そんなことを感じていました。

──ヤフーとしても、防災というジャンルへの難しさは感じていたのでしょうか?

西田 そうですね。私たちは防災模試をはじめ、防災・減災・被災地対応といったことをやってきましたが、これから起きるかもしれないことに対して「備える」アクションは、なかなか起こしづらいですよね。これまで累計400万人以上の方に、防災模試を受けていただきましたが、日本全国で被災する可能性があることを考えると、まだまだ足りていません。そうした中、Jリーグさんと一緒に防災の情報発信をすることは、われわれにとってもありがたい話ではありました。

村井 サッカーは屋外競技ですので、さまざまな天候に影響を受けやすいとも言えます。多少の雨なら試合はできますが、豪雨や台風、竜巻や豪雪、もちろん大地震なんかが起こると中止にせざるを得ません。そうした自然環境の変化に、われわれは年間を通して向き合っているわけで、クラブ間で連携しながら防災について考える土壌が、もともとJリーグにはあったと言えると思います。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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