連載:ヤクルトが強くなったワケ

ヤクルトの強さを再確認する連載が完結!「やっぱり、今年も“絶対大丈夫”」

長谷川晶一

リーグ連覇に向けてラストスパートをかけるヤクルトナイン。最後の1カ月は全力で戦うのみ 【写真は共同】

 球団OB対談、データ解析を通して、「ヤクルトが強くなったワケ」を検証してきた連載もいよいよ最終回。ヤクルトOBによる対談取材を行うなど、今回の企画を監修した長谷川晶一氏が総括した。長谷川氏といえば大のヤクルトファンで有名なライターだが、改めて、ヤクルトのどこに真の強さを感じたのだろうか。

 この企画を進める8月末、2位・DeNAに一時は4ゲーム差に詰め寄られた王者だったが、底力を見せて、再び突き放した。連覇を視界に捉えた今なら自信を持って言える。“絶対大丈夫”。

日々、ハラハラしながら過ごした2022年夏――

 残り25試合で9月を迎えた――。2022年ペナントレースも、いよいよ大詰めを迎えている。昨年、極寒のほっともっとフィールドで20年ぶりの日本一を目撃した際には「もう、このまま死んでも悔いはないよ、これ以上の喜びはないよ!」と歓喜の涙に包まれたけれど、あれから9カ月が経過した今、やっぱり死にたくはないし、球団史上初となる「2年連続日本一」に勝る喜びはないと考えを改めている。

 スポーツナビサイドから「ヤクルト特集を企画しているので、ぜひご協力を」と連絡をいただいたのは7月末のことだった。ご承知の通り、7月9日にチーム内における新型コロナウイルスの大量感染が発生以来、ヤクルトはそれまでの勢いを失い、つらい時期を迎えていた。

 一読者として、「ヤクルト特集」は読みたいけれど、はたしてチームは再び勢いを取り戻すことができるのか、まったく見通しが立たない頃のことだった。それでも着々と企画は進んでいく。8月に入ると「OB対談」のキャスティング、スケジュール調整がなされ、投手編「五十嵐亮太×館山昌平」、打者編「飯田哲也×真中満」が正式に決まった。

 一方、データ分析業務を行っているデータスタジアム、デルタ両社からは「ヤクルトの強さ」を分析するデータが、僕のもとに送られることになった。この間、8月5日から12日までは7連敗を喫した。前半戦の貯金を食いつぶす日々が続き、横浜DeNAベイスターズが怒とうの追い上げを見せていた。気が気でない毎日、それでも、企画は着々と進んでいく。僕にとっての「2022年8月」とは、そんな日々だった。

 そして、対談取材が始まる。まずは「五十嵐×館山対談」からだった。両者とも、何度も一緒に仕事をしているので、気心は知れていた。OBであり、石川雅規や小川泰弘ら、現役選手たちと汗を流してきた両者の言葉は、冷静に現状を分析しつつ、その底流には古巣への愛情があふれていた。

 この対談で印象的だったのが、「高津監督の投手起用」について話題が及んだ際に、館山さんが口にした「みんなで同時に疲弊するのではなくて8割のメンバーで回しながら、常に2割の余力を残している」という言葉だ。これを受けて五十嵐さんも「常に保険が控えている」とも言っていた。この言葉は勇気と元気の出るものだった。「そうだ、オレたちにはまだ最後のブースト、最後の保険が控えているのだ!」と勇気を感じながら、僕は対談取材を行っていた。

山田哲人に対するOBたちの深い愛情

夏場は苦しんでいたものの、3試合連続本塁打で8月を締めくくった山田。キャプテン・山田が打てば、チームも、ファンも、OBも乗る 【写真は共同】

「五十嵐×館山対談」の数日後、今度は「飯田哲也×真中満対談」が実現した。ここでは、不振を極めていたキャプテン・山田哲人に対する飯田さん、真中さんの愛情あふれる言葉が印象的だった。真中さんが「感情を内に秘めた山田がきちんと結果を出して、“さぁ、どうだ!”というところを見せてほしい」と言えば、山田の復活は「OBみんなの願い」と、飯田さんも言い切った。

 この言葉を耳にしたときには、「本当にその通りだよ、真中さん、飯田さん!」と胸が高鳴る思いがした。こうしたOBたちの言葉に後押しされるように、2位と4ゲーム差で迎えた26~28日のベイスターズ戦では見事に3連勝。山田哲人も復調の兆しを見せてくれた。スイープされていれば1ゲーム差となるところだったものの、結果的に7ゲーム差とすることに成功したのだ。

 ちょうどその後、前述したようにデータスタジアム、デルタ社から最新データが届いた。もちろん、企画趣旨に沿った「ヤクルト有利」のデータがチョイスされていることは理解していたが、今シーズンさらにたくましく成長し、三冠王に突き進んでいる村上宗隆の圧倒的な凄みを、改めてデータで再認識するのは気持ちよかった。

 また、漠然と感じていた「長岡秀樹の守備率の高さ」をデータで見ることで、さらに安心感が増したのも事実だ。「センター・塩見泰隆、セカンド・山田哲人、ショート・長岡、そしてキャッチャー・中村悠平」を中心としたセンターラインの充実と安定感こそ、今年のヤクルトの強さの一端なのだろう。

 対談とデータ分析を含めた7本の原稿は、不安に押しつぶされそうな僕の心に大きな希望と勇気を与えてくれた。対談終了後、真中さんは言った。

「何だか、長谷川さんの不安を取り除くための対談だったよね(笑)」

 まさに、その通りだった(笑)。けれども、「それは単に僕一人だけでなく、多くのヤクルトファンにとっての福音にもなるだろう」という思いもあったから、自分の不安点をOBのみなさんに率直にぶつけたし、希望を持てる言葉を求めたのだった。

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著者プロフィール

1970年5月13日生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務を経て2003年にノンフィクションライターに。05年よりプロ野球12球団すべてのファンクラブに入会し続ける、世界でただひとりの「12球団ファンクラブ評論家(R)」。著書に『いつも、気づけば神宮に東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)、『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間』(インプレス)、『生と性が交錯する街 新宿二丁目』(角川新書)、『基本は、真っ直ぐ――石川雅規42歳の肖像』(ベースボール・マガジン社)ほか多数。

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