競い合うことで高まる防災意識 ソナエル東海杯(岐阜・磐田・名古屋)
出向してすぐにソナエル東海の担当になって…岐阜の場合
ホームゲームで防災のブースを出しての啓発活動などを行っている岐阜だが、担当者によれば「まだまだこれから」 【写真提供:FC岐阜】
「正直、清水さんに勝てたのには、驚いています。ウチはJ1クラブと比べると、SNSのフォロワー数がどうしても少ないんですよ。ですから、クラブの全スタッフやスクール生も含めて受験をお願いして、最後はJリーグIDの中からウチを登録していただいている方にもメールを送りました。結果として、想像以上に票が伸びることになりましたね」
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「最近は南海トラフ地震のことが盛んに言われていますが、岐阜に関してはここ半世紀ほど大きな地震はありません。その代わり、台風や大雨による水害がかなり多くなっています。ソナエル東海の名前をお借りして、ホームゲームで防災のブースを出しての啓発活動などはやっていますが、まだまだこれからという感じですね」
そんな安江さん、実は今年の4月に岐阜県庁から出向してきたばかり。地方のJクラブではよくある話だが、安江さんの前職は家畜の防疫というから、異例の抜てきであった。そもそも役所とJクラブとでは、仕事のやり方も違えば風土も違う。最初のうちは大いに面食らうことも多々あったという。
「こちらに出向して、すぐにソナエル東海の担当になったんです。防災というと行政の場合、どうしてもとっつきにくいところがあります。でもJクラブがこれをやると、かなり食いつきが違うんですよね。もうひとつ、行政との違いで感じたのがスピード。お役所だと、缶ジュース1本買うのにも稟議が必要なくらいです(笑)。それがFC岐阜では、決まったことが10分後には実現されているんですよ。JリーグIDの件も、決まって即実行。それでもし失敗しても、謝ってすぐに次の対策を考える。そういう文化なんですね」
今回の3位という結果を受けて「これをどう生かしていくかが次の課題。これからも皆さんに愛されるクラブを目指していきたいですね」と語る安江さん。率直に言えば、岐阜のソナエル東海での取り組みから、特筆すべきものは見いだせなかった。むしろ県庁から出向してきた畑違いのスタッフに自信を与え、なおかつJクラブの存在意義を再認識させたという副産物について、ぜひとも知ってもらいたいところである。
「サッカーだけでない」名門クラブの現在地…磐田の場合
磐田市の草地博昭市長。防災に前向きで自ら模試を受験。クラブと地元行政との普段からの連携がうかがえる 【写真提供:磐田市】
「最後のツメが甘かったのは反省材料ですが、今回のソナエル東海ではクラブ内だけでなく、行政の皆さんからもご協力していただいたことには感謝しかありません。特に草地(博昭)市長は、公約の中に『防災』が入っていたとはいえ、非常に前向きでしたね」
加藤さんが語るように、6クラブ対抗のソナエルバトル「防災隊長」対決では、他クラブが選手やスタッフを出場させる中、磐田は草地市長自らが登場。結果は3位だったものの「前回より成績が上がり、新しい知識をたくさん身につけることができました」という前向きなコメントを残している。そんな市長を持つ磐田市には、防災面でどんな地域課題があるのだろうか。
「磐田市は縦に長い地形で、海もあれば山もあるし、天竜川という広い川もあります。これだけ起伏がある土地ですので、地域によっての対策が違いますし、特に大雨による水害対策が非常に重要と捉えています。そこでまず、市に対して防災の課題を率直に聞きましたところ『県が作ったハザードマップしかない』ということでした。そこで、磐田市独自のハザードマップを作りましょう、という話になったんですね」
そんな加藤さん、実はヤマハ発動機サッカー部プロ準備室時代からの生え抜きでもある。ずっと「勝った、負けた」の世界に生きてきて、ホームタウン部の部長となった当初はシャレン!の意味するところが「よく理解できなかった」そうだ。それが最近では「こうすればシャレン!になるのではないか」と考えられるようになったという。そして、こう続ける。
「これまでのイメージだと、皆さん『ジュビロ磐田=サッカー』だったと思うんです。でも最近は『ジュビロって、そんなこともやっているんだ!』と言われるのが、むしろうれしいですね。今の世の中、SDGsとかサステイナブルといったものが、どんどん表に出てきているじゃないですか。ウチは株式会社ですが、クラブが公共財として認識されるようになったのは、実に誇らしいことだと思っています」
「フットボールオリエンテッド」だった時代を知る、クラブの生え抜きがシャレン!に目覚め、ソナエル東海で1位を逃したことを悔しがる。これはこれで、磐田というクラブの多面性を感じさせる、魅力的なエピソードではないだろうか。