「トータルフットボール」のピースとして重用されはじめた遠藤 三笘を辟易とさせた「アンチフットボール」
シーズン中盤に入り、遠藤(右)はプレータイムを増やしている。CLのリール戦では後半18分から出場し勝利に貢献した 【Photo by Liverpool FC/Liverpool FC via Getty Images】
同点にされても遠藤をピッチに送り出した
36チーム中唯一の6戦全勝で、プレミアリーグと同様、欧州CLの順位表でも1番上に位置するリバプールは、ホームでフランスのリールと対戦。遠藤航は今季の定位置となっているベンチスタートだった。
その遠藤が出場の準備を済ませて、タッチライン際に立ったのが後半15分のことだった。カーティス・ジョーンズの素晴らしいスルーパスに抜け出したエースのモハメド・サラーが、1対1となったGKの脇を通す技ありのシュートを決め、前半34分に先制したリバプールが1-0でリードしていた。しかもリールの右サイドバックのアイサ・マンディがルイス・ディアスを倒し、この試合2枚目のイエローカードをもらって退場した直後だった。
こうなると、少し早めの時間帯ではあったが、今季は試合終盤に運動量が落ちた中盤の選手に代わり、しっかりとリードを守る“クローザー”の役目が定着している遠藤の出番となる。
ところがタッチライン際の遠藤の目の前で、10人となったリールがワンチャンスをものにして、同点にしてしまった。遠藤の交代相手は攻撃的MFのドミニク・ソボスライ。ゴールが必要な展開ならば残したい選手だった。
しかしアルネ・スロット監督はそのまま遠藤をピッチに送り出した。同点にされて守るリードがないのに、攻撃的MFのソボスライに代えて、守備のスペシャリストの遠藤が入った。それでもリバプールは10人のリールをしっかり押し込み、日本代表主将が投入された4分後の後半22分、コーナーキックを奪った。
そしてこのコーナーキックのクリアボールに、後半の頭から入っていたハーヴェイ・エリオットがペナルティエリアの少し外、ゴールから約20メートルの位置でダイレクトで左足のボレーを合わせると、リールのボランチ、エンガライエル・ムカウが出した左足に当たって角度が変わるという幸運もあったが、ボールがゴールに吸い込まれるように入って、リバプールが再び1点をリードした。
この後は数的有利もあったが、リバプールが危なげなくリードを守り切り、7戦全勝で8位以上を確定させて、悠々とトーナメントステージ(ベスト16)進出を決めた。
非情にも見える選手起用の裏にあるのは…
スロット監督(右)が遠藤(3番)を貴重な戦力と考えているのは間違いないだろう 【Photo by Richard Sellers/Sportsphoto/Allstar via Getty Images】
確実にプレー時間が増えている遠藤だが、これはもちろん日本代表主将がマッチフィットを失わず、どんな形でもピッチに入れば常にベストのパフォーマンスを見せることで、スロット監督の信頼を勝ち取ったということが1つある。
そしてもう1つは、スロット監督がこれまでの監督との比較で、“スクワッド・ゲーム”を重視する指揮官だからではないだろうか。スクワッド・ゲームとは端的に言えば、保有戦力を有効活用し、選手をやり繰りして長いシーズンを乗り切るマネジメントのことだ。
シーズンも半ばを過ぎ、年末年始の過密日程と重なったこともあるが、このところのオランダ人知将はときに無造作に見えるほど、躊躇なく選手を交代するように映る。それはまるで肩の寿命が考慮されるようになり、先発完投という価値観に見切りをつけ、先発、中継ぎ、抑えという分業制へと移り変わった野球の投手起用のようにも感じる。
1月8日のコラムで近代フットボールにおけるスクワッド・ゲームの重要性について触れたが、これまでの監督との比較で、スロット監督はそこ、つまり選手を消耗させないことにより心を砕く監督なのではないだろうか。
遠藤の例を出すまでもなく、役割分担にこだわる采配はやや非情に見えるときもある。しかしその裏には、選手に限界を超えさせないという配慮もあるのだろう。そして選手の状態をフレッシュに保つことも、優勝を勝ち取る重要なカギとスロット監督は考えているのではないだろうか。
ユルゲン・クロップのヘヴィメタル・フットボールにオランダ流の論理的なトータルフットボールを持ち込み、今季、リバプールを疾走させているスロット監督だが、その“トータル”という概念には控え選手もしっかり含まれているようだ。同点にされても、“予定通り”とばかりに守備的な遠藤をピッチに送り出した欧州CLでの起用法を見て、そんなことを感じた。
次に監督会見に出席する際にはそこのところ、46歳オランダ人知将がスクワッド・ゲームをどのように捉えているのか、しっかりと尋ねてみたい。
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