Jリーグが防災の大切さを発信する理由 ヤフー防災模試 ソナエルJapan杯

宇都宮徹壱

チェアマンもOB会会長も受験した「ヤフー防災模試」とは?

9月1日に発表された「ヤフー防災模試 ソナエルJapan杯」。報道向けの発表会後、村井満チェアマンと佐藤寿人氏に話を聞いた 【宇都宮徹壱】

 得点は40点で偏差値は40──。これが「ヤフー防災模試」での私の成績だ。ちなみにJリーグの村井満チェアマンは、1回目の模試では41点で偏差値40。元日本代表でJリーグ選手OB会会長の佐藤寿人氏は、92点で偏差値65だった。苦笑交じりにチェアマンが語る。

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「とんでもない点数ですよね(苦笑)。ある程度の知識はあると思っていたので、この結果には正直ショックでした。でも、この模試を受験することで、間違いなく防災の知識が深まります。例えば災害用伝言ダイヤルといって、被災地の安否情報を音声登録や確認ができるサービスがあります。その番号は171で『イナイ』と覚えればいいわけですよ。そんな感じで1回目は散々だったんですけど、自分ですぐに行動できるように頭に入れながら解説を読んで、2回目にトライしたら96点でした」

 一方、1回目から高得点をマークした佐藤氏。普段から防災に関心があるのかと問うてみると「ちょっと予習したら、たまたまいい点でした」と謙遜する。とはいえ、まったく関心がなかったはずがない。現役時代に2シーズンを過ごした仙台は東日本大震災で甚大な被害を受け、最も長くプレーした広島は2014年と18年に豪雨による土砂災害に見舞われ、キャリアの出発点と終着点となった千葉は19年の台風被害で死者も出ているからだ。

「現役を引退してから、豪雨災害の被害があった広島の被災地を見て回りました。本来であれば、絶対に土砂の被害が起こりうることがない場所だったんですよ。けれども大雨で土砂が流れてきて、道が寸断されて建物が倒壊してしまいました。そうした危険性を事前に知ることができて、僕らみたいなアスリートがもっと発信できていたら、より救える命もあったんじゃないか。そういった思いはありますね」

 防災の日の9月1日、Yahoo! JAPANとJリーグは「ヤフー防災模試 ソナエルJapan杯(以下、ソナエルJapan杯)」の開催を発表した。これは防災意識を高めることを目的に、災害時に必要な知識や能力を問う「ヤフー防災模試」をJリーグに所属する57クラブ、そしてファン・サポーターがスマートフォンで受験し、その受験者数や点数をクラブ間で競い合うという企画である。それにしてもなぜ、Jリーグと防災模試は結び付くこととなったのか。まずは、その背景から探っていくことにしたい。

プロトタイプとなった「ソナエル東海」の成功

ソナエル東海はアスクラロ沼津の活動がきっかけでスタートした 【写真提供:アスルクラロ沼津】

 ソナエルJapan杯について理解するには、そのプロトタイプと呼ぶべき「ソナエル東海」について言及する必要がある。ソナエル東海とは、東海地域をホームタウンとする6クラブ(清水エスパルス、ジュビロ磐田、藤枝MYFC、アスルクラロ沼津、名古屋グランパス、FC岐阜)による防災プロジェクト。これは、Jリーグが18年から展開している社会連携活動「シャレン!」の防災バージョンという立て付けでスタートした。

 きっかけを作ったのは、J3の沼津。地域の防災活動の一環として防災マップを作ったところ、東海地方の他のJクラブが「一緒に何かできないか」という話になった。東海地方の4県のうち、とりわけ静岡県は「近い将来に南海トラフ地震が発生する」と言われており、昭和の時代から小中学校での避難訓練が盛んだった土地柄で知られている。そこに岐阜県と愛知県のJクラブが加わり、これがソナエル東海となった。

 さらに今年6月、Yahoo! JAPANとソナエル東海が共同で「ヤフー防災模試 ソナエル東海杯」を開催。ヤフー防災模試の受験者数を、クラブごとに競うというフォーマットが完成する。このときは累計2540名が参加し、そのうち31%の781名を集めた名古屋が優勝。以前のコラムでも紹介したが、取材に応じてくれた名古屋の担当者のコメントを再掲する。

「防災って、とっつきにくいものだと思うんですよ。頭では重要だと理解していても、実際に起こってみるまでは自分ごととして考えづらい。Jクラブに防災の専門性はありませんが、考えるきっかけというか、楽しく学ぶ入り口にはなると思います」(西村惇志氏=広報コミュニケーション部ホームタウングループ)

「なぜJクラブが防災?」という疑問への答えが、このコメントに集約されている。そして、もうひとつ忘れてならないのが、Jリーグのコンペティティブな要素。J1からJ3までの6クラブが競い合ったからこそ、ソナエル東海は2500人以上の受験者数を集めることができた。こうした成功事例がベースとなり、全Jクラブを巻き込んで開催されることとなったのが、今回のソナエルJapan杯だったのである。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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