なぜ防災活動にJクラブが関わるのか? ソナエル東海杯(沼津・藤枝・清水)

宇都宮徹壱

熱海での土石流災害でバナーを掲げた沼津の選手たち

7月3日に熱海で大雨による土石流災害が発生。沼津は試合前、被災地を激励するバナーを掲出した 【写真提供:アスルクラロ沼津】

「ガンバロウ!! 静岡・東部」

 静岡県熱海市で、大雨による土石流災害が発生したのは、7月3日のこと。その日、同じ静岡県東部を本拠とするJ3のアスルクラロ沼津は、ガイナーレ鳥取とのアウェー戦に臨んでいた。試合前、沼津のスターティングイレブンが広げたバナーに書かれていたのが、冒頭のメッセージ。試合は4-1で沼津が勝利している。

 思えば昨年の同じ時期(2020年7月4日)、熊本県南部が豪雨に見舞われて球磨川が氾濫し、81人の死者・行方不明者を出している。首都圏直下地震や南海トラフ地震など「いつか必ず起きる」とされる大地震への危惧がある一方で、大雨による河川の氾濫や土砂崩れは、もはや毎年のように日本全国どこでも起こり得るリスクとなっている。

 そんな折も折、東海地域をホームタウンとする6クラブ(清水エスパルス、ジュビロ磐田、藤枝MYFC、アスルクラロ沼津、名古屋グランパス、FC岐阜)による防災プロジェクト「ソナエル東海」を取材する機会を得た。ソナエル東海は、Jリーグが3年前から展開している社会連携活動「シャレン!」の防災バージョン。なぜJクラブと防災が結びつくことになったのか。まずはJリーグ社会連携の大多和亮介さんに語っていただこう。

「きっかけは19年にアスルクラロ沼津が、地域の防災活動の一環として防災マップを作ったことでした。それを知った、東海地方をホームタウンとする他のJクラブが『一緒に何かできないだろうか』という話になって始まったのが、ソナエル東海です。Jクラブと防災というと、これまでは災害が起こってから、募金活動などの被災地支援を行ってきました。もちろんそれも大事なんですが、こうした自然災害が起こる前に『何かできることがないのか?』というのが、考え方の前提としてありました」

 そして今年、ヤフー株式会社とソナエル東海が共同で「ヤフー防災模試ソナエル東海杯」を開催(6月10日〜30日)。災害時に必要な知識や能力を問う「ヤフー防災模試(台風・豪雨編)」の受験者数をクラブごとに競うこととなった。結果、累計2540名が参加することとなり、そのうち31%の781名を集めた名古屋が優勝している。本稿では優勝した名古屋だけでなく、他の5クラブの担当者にもインタビュー。それぞれが防災にいかに向き合い、ソナエル東海杯から何を得たのか、じっくりお話を伺うことにした。

災害時に活躍できる人材育成を…沼津の場合

沼津の「全力防災隊」。月に1回、地元の有志が集まり、AEDの使い方や防災グッズの選び方などを学ぶ 【写真提供:アスルクラロ沼津】

 まずは6位のアスルクラロ沼津から。受験者数は251名で全体の10%。前述のとおり、ソナエル東海立ち上げのきっかけを作ったクラブであり、防災に関する意識は全Jクラブの中でも群を抜いている印象である。それだけに、この結果には忸怩(じくじ)たる思いもあったはずだ。取材に応じてくれた、取締役事業部営業部部長の山崎宏さんは語る。

「防災については、自分たちが一番やっているという自覚はあるし、本質的かつ継続的にやっているのがアスルクラロだと思っています。ただし、名古屋さんや磐田さんなんかと違って、ベースとなるコアサポの数が違いすぎますからね。ウチはJ3ですので、これが精いっぱいなのかなとも思っています」

 そんな沼津の代表的な取り組みが「全力防災隊」。いざ災害が起こったときに、地域で活躍できる人材を育成することを目的に結成されたという。

「月1回で水曜日の夜、ファンやサポーターや地域の方々に集まっていただいています。AEDの講習会とか、防災グッズの選び方とか、避難所の運営をゲーム形式で学んだりもしています。ホームゲームのときは、会場にブースを出して『全力防災隊』で学んだことを地域の皆さんに還元するための発信も行っています」

 ちなみにソナエル東海杯では、開催期間中に選手やマスコットやクラブ社長がヤフー防災模試の点数を競う「ソナエルバトル」も展開。「防災キャプテン」対決で88点をたたき出し、見事1位に輝いたのも沼津の菅井拓也選手であった。山崎さんいわく「ウチのキャプテンは宮城出身で、震災でお父さんを亡くされています。それもあって、普段から防災に対する意識は高いですね」。「全力防災隊」では、自らの体験を語ってくれたそうだ。

「確かにJ1クラブのように、発信も周知もできていないのは事実です。それでも続けることで、応援してくださるパートナー企業さんも増えてきていますし、地域の人たちを少しずつ巻き込みながら、クラブの存在を知ってもらうことにも成功していると感じています」

 最後に、こう結んだ山崎さん。そうした地道な努力が、次回のソナエル東海杯での結果に結び付くことを願わずにはいられない。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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