バイエルンの強さを徹底分析  “実用主義者”フリックの戦術的工夫とは

戦術分析に定評のあるドイツのウェブサイトがバイエルンの特徴を解説。フリック体制下(赤)でのチームは、コバチ時代(薄赤)に比べて20〜30メートル前方に位置している 【(C)Spielverlagerung.de】

 ハンジ・フリックにとって、ブンデスリーガ1部クラブの監督として最初に取りかかった仕事は“盟主”バイエルン・ミュンヘンでの指揮だった。昨年11月に成績不振で更迭となったニコ・コバチ前監督の後を暫定的に継ぐと、今年4月にはクラブと2023年までの契約を締結。そして、バイエルンは彼の下でかつての強さを取り戻し、13〜16年のジョゼップ・グアルディオラ体制下ですら成し遂げられなかった3冠を達成した。

 ドイツ国内でも同国代表チームを率いるヨアヒム・レーヴ監督のアシスタントとしてしか知られていなかったフリックだが、このたび、ドイツの分析ウェブサイト『Spielverlagerung.de』(シュピエルフェアラーゲルング)のメンバーで、『Zeit Online』『BBC.com』『Espn.com』 などヨーロッパ大手メディアに寄稿する気鋭のライターが、そのフリックの戦術をひも解いてくれた。

フリック流を分析

 ハンジ・フリックは、昨秋までは世界のサッカー界では力量未知数な存在だった。55歳の彼はドイツ代表が14年にブラジル・ワールドカップを制覇した際にはピッチ横に立っていたものの、実際には常に上司のレーヴ監督の影にとどまり、バイエルンでも当初は脇役を務める予定だった。しかし、その未来はすべてが違う方向へ進んだのである。

 バイエルンが昨シーズン、競技面において深刻なクライシスに陥ったとき、フリックは急遽(きゅうきょ)辞任したニコ・コバチの代わりに指揮を執らざるを得ない状況になった。そこで彼が最初の業務のひとつとして遂行したのは、チームのリーダーたちとのミーティングで、彼らとはそれまでのピッチ上でのパフォーマンスについて話し合った。

 チームがどん底に落ちたのは、コバチ辞任の引き金ともなったフランクフルトに1-5で敗れた19年11月2日。ただ、バイエルンはそれ以前も個々のクオリティーからほど遠いプレーしかできていなかった。当然、選手たちにもその自覚はあり、フリックとの会談ではそれらの原因と改善点まで具体的に特定したという。
 
 当時のバイエルンのプレーは消極的になりすぎていた。チーム全体が低すぎるポジションに定位していた揚げ句、アグレッシブな守りを見せる頻度も明らかに少なすぎた。この低調は細かい戦術面の調整で解決できるものではないと判断したフリックは、根本的な理念革新の必要性を感じ、それを即座に実行へ移している。コバチのアシスタントとしては数カ月の間、単なる手伝い役だった彼は、昇進に伴いたちまちクラブ内の重要なリーダー的地位を確立した。
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