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突きつけられる「ウィズコロナ」の現実
野球界はいかにアップデートできるか

サヨナラ勝ちも静寂のまま…

6月19日に開幕を迎えるプロ野球。新型コロナウイルスによって、さまざまな変化を求められる1年になる
6月19日に開幕を迎えるプロ野球。新型コロナウイルスによって、さまざまな変化を求められる1年になる【写真は共同】

 プロ野球開催日の週末だけは、いつも乗客の少ない西武狭山線は青や白のライオンズカラーに身をまとったファンと、ビジターチームを応援する老若男女でいっぱいになる。しかし、3カ月遅れのペナントレース開幕を6日後に控えたその日、各車両には数えられる程度の乗客しかいなかった。


 大雨が降りつける6月13日、土曜日の午前11時。埼玉西武vs.千葉ロッテの練習試合が行われたメットライフドームに向かうと、「ウィズコロナ」の現実を突きつけられた。


 無観客試合でスタンドに球団関係者と報道陣しかいないスタジアムは、巨大送風機の音が響くほど静まり返っている。試合は淡々と進み、2対2の9回裏、西武の木村文紀がバックスクリーンにサヨナラ本塁打を突き刺した。これ以上なく劇的な幕切れだが、ホームベース付近でチームメートが殊勲者を待ち構える光景はない。歓喜の輪をつくると「密」や「接触」になるため、西武の選手たちはダッグアウトから一歩も出ずに待っている。味気ない無観客試合は、静寂に包まれたまま終了した。


 これが、「ウィズコロナ」の現実だ。ファンのいない球場は無味乾燥としており、プロ野球は何のために開催されているのかと改めて考えさせられた――。

計り知れないビジネス面のダメージ

 6月19日、新型コロナウイルスの感染拡大により3カ月遅れた2020年シーズンは、いよいよ幕を開ける。パンデミックで世の中のあり方が大きく変わったように、プロ野球もさまざまな変化を求められる1年になる。


 とりわけ高いハードルに直面させられるのが、ビジネス面だ。近年のプロ野球人気は右肩上がりの観客動員に支えられてきた。目安として2016年の横浜DeNAを例にとると、売り上げ110億円超のうち、チケット収入は30%で33億円、年間席収入は10%で11億円程度と見られる(池田純前社長の各メディアでの発言より計算)。無観客試合のダメージは、数字で見るとイメージできるだろう。


 球場にファンを迎えられるのは早くて7月10日。しかし、Jリーグが同日から政府の指針どおり、「5000人または収容人数の50%」の観客を入れて開催する方針を発表しているのに対し、プロ野球は不透明のままだ。


 観客減の影響はグッズ収入にも及ぶ。16年のDeNAの場合、売り上げにおける同割合は20%。スタジアムを訪れた際に応援グッズを買った経験はほとんどのファンにあるだろうが、果たしてオンライン販売でどこまで補えるか。試合協賛も減り、スポンサー収入もマイナスになると予想される(16年のDeNAの場合、同割合は売り上げの10%)。

チケット収入の減少はプロ興行としては大きなダメージ。近年、常にスタジアムが満員となるDeNAでは約30億円が影響を受けると予想される
チケット収入の減少はプロ興行としては大きなダメージ。近年、常にスタジアムが満員となるDeNAでは約30億円が影響を受けると予想される【写真は共同】

 これまで伸ばしてきた収入源が大きな打撃を受けるなか、各球団に求められるのは新たな価値観の創出だ。


 いずれも球場に来られないファンを楽しませようと、新しい応援スタイルを打ち出している。「ウィズコロナ」時代のピンチをチャンスに変え、今後のトレンドが生まれる可能性も十分にある。


 巨人はライブ配信アプリ「FanStream」を通じて、開幕戦からの主催12試合で各2020人を無料招待し、東京ドームの座席から観戦しているような視座で試合を楽しめる参加型ライブ配信の無料トライアルを行う。コメント投稿に加え、オレンジタオルを振るアクションが可能になるのは巨人ファンに喜ばれそうだ。こうした機能から、投げ銭やギフティングに発展していくかもしれない。


 DeNAは本拠地での開幕3連戦で、球団OBの解説などがつくオンラインでの試合観戦を1試合1000円で販売する。近年、ホームゲームでチケットが入手困難になるほど観客動員が好調なDeNA。横浜スタジアムの座席数拡張に加え、横浜市内の百貨店の屋上にあるビアガーデンやホテルでの観戦イベントを実施してきた。球場のキャパシティーには限りがある以上、バーチャルの世界にも可能性を広げられれば、IT球団の強みをさらに発揮していけるはずだ。


 もし各球団が無観客試合による減収を他の何かである程度カバーできない場合、最悪、その影響は選手に及びかねない。日本プロフェッショナル野球協約には不慮の事態による年俸削減の規定がなく、今季の年俸は通常どおりに支払われる一方、来季分に影響が出る可能性は否定できない。


「選手は今シーズン、来シーズンを含めて、どうなるんだろうという不安を持っていると思います」


 日本プロ野球選手会の森忠仁事務局長は6月前半にそう話した。ただしFAに影響する登録日数や出来高払いの扱いなど開幕前に球団側と交渉すべきことが山積みで、今季の球団経営が来季の選手年俸に与える影響は、シーズン終了後の契約更改を迎えるまで不透明な状況になりそうだ。

中島大輔

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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