連載:欧州ステップアップ移籍組、今季の「通信簿」と来季の「去就予測」

久保建英の推定市場価格は1年で15倍 ステップアップ移籍組「合否」と「未来」

吉田治良

堂安律:右肩上がりだった市場価格は下落

指揮官の交代など、堂安にとって不運ではあった。来季はゲーゲンプレスに適応し、ポジションをつかみたい 【Getty Images】

 久保、冨安と同じ東京五輪世代の中で、唯一移籍後の市場価格が下落したのが堂安だ。

 ガンバ大阪からフローニンゲンに期限付き移籍(のちに完全移籍)して以降、右肩上がりだった市場価格は、昨年6月の1000万ユーロをピークにじわじわと下降。オランダの名門PSVで浮き沈みの激しいシーズンを過ごしたのが原因だ。

 攻撃のリズムを変えられる選手として、マルク・ファン・ボメル監督は堂安を高く買っていたが、成績不振でその指揮官が解任されると、風向きが変化。アーネスト・ファーバー新監督の下で出場機会を失った。

 とはいえ、ドリブルでの崩しのセンスはチームでもトップクラス。今季はヨーロッパリーグにも初出場を果たすなど、欧州を舞台に経験値を高めている。

 新型コロナウイルスの影響で、途中で打ち切りとなった今季のエールディビジを4位で終えたPSVは、すでに監督交代を発表。新シーズンの指揮を執るのは、ゲーゲンプレスの使い手、ロジャー・シュミットだ。はたして堂安は、強度の高いハイプレッシングサッカーにいち早く適応し、右サイドハーフのポジションをつかめるだろうか。東京五輪代表のエースの逆襲に期待したい。

南野拓実:チームで19番目の市場価格という現実

欧州王者リバプールに、しかもシーズン途中の加入では、南野でなくてもフィットするのは難しい。2年目に輝けるかどうかは、プレシーズンの過ごし方にかかっている 【Getty Images】

 難しいと言われるシーズン途中の移籍、しかも欧州王者リバプールに新天地を求めた南野が、初参戦のプレミアリーグである程度の苦労を強いられることは、十分に想像ができた。

 1000万ユーロという推定市場価格は、チーム内で19番目。トップはモハメド・サラーとサディオ・マネの1億2000万ユーロ(約150億円)である。選手層の厚さは推して知るべしだろう。しかも、昨季のチャンピオンズリーグ優勝メンバーがほぼ残り、組織としてがっちりと固まったチームに割って入るのは容易ではなかったはずだ。

 結局、半年間で残した成績は、10試合出場(先発は2試合)でノーゴール。サラー、マネ、ロベルト・フィルミーノという強力3トップの壁はやはり厚かった。市場価格もザルツブルク時代の1250万ユーロ(約15億6250万円)から下落したが、実際、30年ぶりのプレミアリーグ制覇に貢献した実感もないだろう。

 もちろん残留となる2年目は、プレミア特有の当たりの強さに慣れ、どこまでユルゲン・クロップ監督の戦術を習得できるかが成否の鍵を握る。ただ幸い、ドイツ語でコミュニケーションが取れるこの指揮官は、南野の能力を高く評価している。

 現地時間7月26日、プレミアリーグ最終節のニューカッスル戦で8試合ぶりにスタメン出場を飾った南野に対してもクロップは、「タキ(南野)はやるべきことを忠実にやってくれた」とコメント。焦らず、前向きに取り組んでいけば、必ず道は開けるはずだ。

中島翔哉:「ポルトの10番」、2年目の復活はなるか

ポルト移籍後、市場価格が下落してしまった中島。彼がポルトで復活できるかどうかは、カタール・ワールドカップを目指す日本代表にも小さくない影響を及ぼすだろう 【Getty Images】

 一方で心配なのが、堂安、南野とともに森保ジャパンの攻撃の核を担っていた中島だ。

 カタールのアル・ドゥハイルに在籍していた19年5月に記録した2500万ユーロ(約31億円)という推定市場価格は、久保に抜かれるまで日本人歴代トップだった。ところが、昨夏にポルトガルの強豪ポルトに移籍してから、その評価は下がる一方なのだ。現地のポルトガル人記者は、「完全に1年を無駄にした」とまで言い放っている。

 要するに、方向性の違いなのだろう。

 中島の洗練されたテクニックは、タレントがそろうポルトでも1、2を争うレベルにある。しかし、チームを率いるセルジオ・コンセイソン監督は、ただうまいだけの選手は起用しない。笑顔でボールと戯れ、何よりもサッカーを楽しもうとする中島と、とにかくチームのために身を粉にして働き、球際で戦える選手を求める指揮官。まるで水と油だ。

 シーズン再開決定後、チームへの合流を拒んだ中島は、結局中断前のリオ・アヴェ戦(3月7日)を最後に、公式戦のピッチには一度も立たないまま、1年目のシーズンを終えている。

 ただ、すっかりポルトで浮き上がってしまった中島だが、高額年俸もネックとなって、来季に新天地を求めるのは難しそうだ。ここではポルティモネンセ時代のように、王様然として振る舞うことは不可能。であれば、2年目は自らのポリシーとチーム戦術との折り合いをうまくつけていくしかない。

「ポルトの10番」が復活できるかどうかは、同じくエースナンバーを背負う日本代表の未来にも大きな影響を及ぼすだろう。

2/2ページ

著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント