サッカーと野球~プロスポーツにおけるコンバートの意義

新庄監督が積極コンバートで球界に革命 岩本勉がその「裏側」と「秘話」を明かす

平尾類

清宮(右)を三塁で起用したことは多くのファンや関係者を驚かせた。しかし新庄監督(左)の決断は、しっかりとした根拠があってのものだ 【写真は共同】

 今年のパ・リーグで旋風を起こしたのが、2年連続最下位から2位に躍進した日本ハムだ。新庄剛志監督就任3年目で選手層が厚くなり、攻守とも野球の精度が上がっている。

 新庄監督の采配を象徴するのが、積極的なコンバートだ。一塁に固定されていた清宮幸太郎が三塁、外野を守り、本職が捕手の郡司裕也は今年の春季キャンプから本格的に挑戦した三塁で出場機会を増やした。長距離砲として期待が大きい野村佑希も内外野を守る。

 野球評論家の岩本勉氏は新庄監督と親交が深いことで知られ、日本ハムの試合を見続けてきた。積極的なコンバートがチームにもたらした効果、さらに侍ジャパン・井端弘和監督との会話で新庄監督の功績を再認識した秘話も明かしてくれた。

「野村や清宮、郡司は来年どこを守るのか」が話題に

岩本氏以上に日本ハムをよく知る評論家はいないだろう。新庄監督の積極コンバートをどう見ているのか 【撮影:平尾類】

――新庄監督が敢行した積極的なコンバートが、チーム改革の象徴となりました。

 思い返せば、就任1年目の春季キャンプから改革は始まっていました。新庄監督の発案で、実戦に出場する選手の守備位置と打順をガラポン抽選機で決めた。物珍しさからクローズアップされましたが、このときから固定観念に捉われない起用法で選手の新たな可能性を引き出したいという思惑があったと思います。

 現役引退後にバリ島で10年以上生活して日本から遠ざかったけど、野球観に狂いが生じていない。コーチ陣、スタッフからもらった情報を参考にするだけでなく、フラットな視点でいろんな守備位置で起用して選手の動きの質、性格などを分析していました。日本にずっといる他の監督だったら、周りから「何をやっているんだ」と言われてここまで大胆にできなかったでしょう。

 北海道のテレビ局は、野村選手、郡司選手、清宮選手が「来年はどのポジションを守るか」というテーマを取り上げて、地元で話題になっています。少し前なら考えられないですよね。新庄監督はファンの野球観も変えているんです。

――未経験のポジションを守る選手の反応はどうでしたか?

 最初はみんな、照れくさそうだったんですよ。でも練習を重ねると、気持ちを振り切って取り組んでいるように見えました。捕手や内野手が外野に回り、外野手が内野を守ることで普段の守備位置では気づかなかった大変さ、苦労を肌で感じたと思います。選手もこれまでの固定観念に縛られていたことに気づいたんじゃないですかね。

 驚かされたのはアルカンタラ選手です。もともと内野手で入ってきたのに、投手と捕手を除く7つのポジションを守っていた。清宮選手、野村選手も内外野を守る景色に、違和感がなくなっていました。

清宮は横の動きが俊敏でグラブさばきが巧いと監督は認識

当初は心許なかった清宮(左)の三塁守備だが、練習を積み、試合を重ねることでどんどん上達していった 【写真は共同】

――一塁を守っていた清宮が三塁に挑戦したことは驚きでした。

 三塁を守って間もないとき、僕は解説で「投手がたまったもんじゃない」とコメントしたんですよ。三塁は顔に打球が当たってもいい覚悟で前に出て攻めきらないといけないのに、当時の清宮選手は全部の打球を待ってさばく。捕って一塁を踏めばアウト、の癖が抜けていなかったので、内野安打が多かった。彼も落ち込んでいたと思います。

 でも練習して、試合を重ねたらどんどん上手くなる。これはすごいなと。

 清宮選手に限らず、日本ハムのキャンプは守備に割く時間が長いんですよ。だから打撃練習になると、「やっとバットが握れる」と嬉しそうなんです。守備に自信を持ち、打撃の調子が良くなったことで清宮選手の顔つきが良くなりましたよね。三塁の難しさを感じたことで、守り慣れた一塁につくときにゆとりが出たように感じます。投手に声を掛ける回数が明らかに増えました。

――新庄監督は清宮が三塁を守れるという確信があったのでしょうか?

 ありましたね。明らかに適性がなかったら成長するうえで遠回りになるし、やらせないでしょう。清宮選手の横の動きが俊敏だったり、グラブさばきが巧いことをしっかり見ている。起用の幅を広げるうえでもメリットが大きいです。一塁はマルティネス、レイエスがいるので、三塁を守れたほうがチャンスは広がります。

 腹をくくって起用している新庄監督の覚悟も評価されるべきです。コンバートして結果が出なかったら監督の責任も問われますから。

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著者プロフィール

1980年4月10日、神奈川県横浜市生まれ。スポーツ新聞に勤務していた当時はDeNA、巨人、ヤクルト、西武の担当記者を歴任。現在はライター、アスリートのマネジメント業などの活動をしている。

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