連載:欧州ステップアップ移籍組、今季の「通信簿」と来季の「去就予測」

久保建英の推定市場価格は1年で15倍 ステップアップ移籍組「合否」と「未来」

吉田治良

東京五輪代表で攻撃の中核を担う2人。ラ・リーガ参戦1年目でセンセーショナルな活躍を見せた久保に対して、強豪PSVに移籍後の堂安は浮き沈みの激しいシーズンを過ごした 【Getty Images】

 推定市場価格の変動は、パフォーマンスの良し悪しを判断する客観的材料だ。今季、ステップアップ移籍を果たした欧州組で、評価額がアップしたのは久保と冨安、ダウンしたのが堂安、南野、中島だった。東京五輪代表、そしてカタール・ワールドカップを目指す日本代表でも中核を担う5人の移籍1年目を総括し、それぞれの近未来を予測する。

 ドイツの移籍情報専門サイト『Transfer Markt』によると、日本人選手の最新推定市場価格トップ6は以下の通りとなっている(カッコ内は年齢/今季の最終所属クラブ)。

1位 久保建英(19歳/マジョルカ):3000万ユーロ(約37億5000円)
2位 中島翔哉(25歳/ポルト):1600万ユーロ(約20億円)
3位 冨安健洋(21歳/ボローニャ):1350万ユーロ(約16億9000万円)
4位 鎌田大地(23歳/フランクフルト):1200万ユーロ(約15億円)
5位 南野拓実(25歳/リバプール):1000万ユーロ(約12億5000万円)
6位 堂安律(22歳/PSV):630万ユーロ(約7億9000万円)


 いわゆるリオ五輪世代(中島、鎌田、南野)と東京五輪世代(久保、冨安、堂安)が、きれいに3人ずつ上位を占めた格好だ。簡単に言ってしまえば、伸び盛りの年代である。

 このうち、期限付き移籍で復帰の鎌田(ベルギーのシント=トロイデンからブンデスリーガのフランクフルトに復帰)を除く5人が、今季、所属するクラブやリーグの「ステージ」を上げたステップアップ移籍組だ。

久保建英:推定市場価格はマジョルカ入団時の15倍に

ラ・リーガ1年目で結果を残した久保は市場価格が高騰。来季の去就も気になるところだ 【Getty Images】

 特筆すべきは、やはり久保だろう。FC東京からレアル・マドリーへの移籍を経て、マジョルカに期限付き移籍のラ・リーガ挑戦1年目に、辛口のスペインメディアもうならせる見事なパフォーマンスを披露してくれた。

 推定市場価格は、マジョルカ入団時の200万ユーロ(約2億5000万円)から15倍に跳ね上がったが、これは10代の選手全体の中でも6位に相当する数字だ。バイエルンで売り出し中の快足SBアルフォンソ・デイビスの6000万ユーロ(約75億円)や、バルセロナの下部組織で久保とチームメートだったアンス・ファティの5000万ユーロ(約62億5000万円)とはまだ開きがあるものの、その評価額は、例えばマンチェスター・ユナイテッドで今季ブレークしたメイソン・グリーンウッド(2900万ユーロ=約36億2500万円)をも上回っている。

 戦力的に1部で戦うレベルになく、結局1年で2部へ舞い戻ることとなったマジョルカにあって、久保のテクニックは群を抜いていた。とりわけリーグ再開後は攻撃の絶対軸となり、チームメートはボールを持てば必ず背番号26を探した。

 もっとも、ここから真のワールドクラスへと羽ばたけるかどうかは、おそらくスペイン国内の中堅クラブに再び期限付き移籍されるであろう来季以降の活躍にかかっている。有力な移籍先候補に挙がるレアル・ソシエダやビジャレアルの選手層はマジョルカの比ではなく、定位置をつかめる保証はどこにもない。

 ただ、将来的にマドリーへ復帰し、そこで不動のレギュラーとなることを目標とするのであれば、この段階でつまづくわけにはいかない。パスの出し手としてだけでなく、受け手としても成長を遂げ、さらなるステップアップを期待したい。

冨安健洋:守備大国で世界基準を身に付ける冨安

スイスの研究機関『CIES』の算出によれば、冨安の推定市場価格3000万ユーロ超え。東京五輪で活躍し、さらに価値を高めてビッグクラブへとステップアップできれば理想的だ 【Getty Images】

 入団1年目でチームに不可欠な存在となったのは、ボローニャの冨安も同じだ。DFに高い戦術理解力が要求される守備大国イタリアで、1カ月弱の故障離脱を除き、シーズンを通してレギュラーを務め上げたのだ。その評価は久保と同等、あるいはチームのセリエA残留に貢献したことを踏まえれば、それ以上と言っていいかもしれない。

 シント=トロイデンからボローニャに完全移籍した昨夏に900万ユーロ(約11億2500万ユーロ)だった推定市場価格は、今年4月の段階で1350万ユーロに上昇しているが、今季のセリエAが終了し、『Transfer Markt』のデータが更新されれば、おそらく2000万ユーロ(約25億円)程度の値が付いているはずだ(冨安の記事内にあるCIESのデータとは算出方法が異なる)。

 今季は主に右SBを務めたが、シニサ・ミハイロビッチ監督には来季、冨安を純粋なCBとして起用する考えもあるという。ボローニャというプレッシャーの少ない中堅クラブで守備者としての世界基準を身に付け、来年の東京五輪でさらに評価を高めて、ビッグクラブへ──。それが冨安の思い描く、理想的な成長曲線だろう。

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著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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