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映画『レスラー』でLiLiCoが訴えたいこと
命をかけて、何のために彼らは戦うのか?

「ステイホーム」が続き、スポーツ観戦の興奮を忘れかけてしまったあなたへ。『王様のブランチ』の映画コーナーなどでおなじみの映画コメンテーターLiLiCoさんに、自宅でじっくりと観たいスポーツ映画を5本選んでいただきました。ストーリー、演出はもちろん、俳優の名演技など、プロレスラーとしてリングに立った経験を持つLiLiCoさんならではの視点でスポーツ映画を評論します。スポーツイベント再開に向けて、徐々にテンションを高めていきましょう!


 第3弾はプロレス映画『レスラー』(発売元:日活/販売元:ハピネット、価格:ブルーレイ1,800円+税、DVD1,200円+税、その他各配信サービスでもデジタル配信中)を紹介します。

低予算で撮られた、父と娘の愛の物語

プロレスデビューを果たす前のLiLiCoがこの作品に大いに感情移入できた理由とは?
プロレスデビューを果たす前のLiLiCoがこの作品に大いに感情移入できた理由とは?【(C)2008 OFF THE TOP ROPE INC. AND WILD BUNCH.】

『レスラー』はダーレン・アロノフスキー監督が『ブラック・スワン』の前に撮った、キャリアの末期を迎えたプロレスラーが、生命の危険を感じながら過ごす、その最後の時間を迫真の表現で描いている映画です。


 もうねー、これねー、本当にどれだけ泣いたか。


 ミッキー・ロークとつながっているじゃないですか。シルベスター・スタローンもそうなんですけれども、一度有名になるとくだらないことをして非難を浴び、そののちに復活するという。ダブりにダブって、余計に注目されたと思います。

 ロープにぐったりともたれかかっているポスターの絵柄だけでグッとくるものがありますが、前に紹介した『ファイティング・ファミリー』が家族とともに戦う映画であったのに対して、『レスラー』はスポーツ映画であるという前提で、プロレスラーである父と娘との愛の物語だと思うんです。サクセスストーリーであった『ファイティング・ファミリー』に対して、主人公がダメになっていく物語。

【(C)2008 OFF THE TOP ROPE INC. AND WILD BUNCH.】

 まだ私がプロレス界にデビューする前の作品でしたし、多忙でプロレスを観る暇もなく、そんな時期に観て、なぜこんなにもこの映画に感情移入できるのだろうと思っていました。


 気がついたんですけど、ミッキー・ロークの背中を追うようにハンディカメラで撮っているんですよね。彼になったかのような、彼の体の一部になって動いているかのような演出がすばらしくて。この『レスラー』は低予算で撮られたものですけれども、くしくもその手法がハマってしまったと言ってもいいのかな、と。


 スーパーマーケットのシーンも営業中に撮っていて、お客さんも映画の撮影だと気がついていないんです。そこが映像の緊張感につながっている。こういうミラクルってたまにあるんですよ、しかも低予算という感じがしない。


 ミッキー・ローク演じるかつての人気プロレスラー、ランディ・“ザ・ラム”・ロビンソンが底辺に落ちている状態から始まるお話であるからかもしれませんけど、これは低予算じゃないといけないですし、ミッキー・ロークじゃないといけない気がするんですね。余計なところもなければ足りないところもひとつもない、そういう映画だと思います。


 最後のシーンはさまざまな解釈があると思うけれど、あのシーンを観てまたもう一度頑張ろうと思う人もいるんじゃないかと思うんですよね。その意味では前向きさがないわけではない。

ちょっと不器用な私のお父さんの姿と重なる

プロレスラーの父が娘のために頑張る姿。そのシーンにLiLiCoは自分のお父さんの姿を重ねたと言う
プロレスラーの父が娘のために頑張る姿。そのシーンにLiLiCoは自分のお父さんの姿を重ねたと言う【(C)2008 OFF THE TOP ROPE INC. AND WILD BUNCH.】

 私がこの映画で一番好きなのは、先ほど述べたようにスーパーのシーンなんですけれども、もうひとつ、後半に出てくる親子のシーンもそうです。


 長く連絡を取り合っていなければ、娘は親を嫌いになる。それに対して、お父さんは罪の意識を持って生きていると思うんですね。その関係性は私の家と同じです。


 私のお父さんは家を出ていったので、その後再び逢(あ)うまで、自分が9歳から35歳の間は、彼がどういう人なのかまったくわかりませんでした。母の葬式で久しぶりに逢って今では仲がいいですが、その私たちの関係がすごく重なってしまって。


 ランディが彼の娘であるステファニー・ラムジンスキー(エヴァン・レイチェル・ウッド)に服をプレゼントするシーンがあります。彼が思いを寄せるキャシディというストリッパーが買い物に付き合ってくれてちゃんとしたコートも選んでくれるんですが、ランディはそれ以外にも自分の好みでプレゼントを買ってしまうんですね。


 不思議なもので、親が買ってくれるプレゼントって、少しズレてるんですよ。私の家庭でも似たことがありました。この前、私は「長いテーブルが欲しい」と言ったのに、父は四角いテーブルをふたつ買ってきたんですよね。くっつければ同じ長さにはなるんですけど……親は自分の感情がプレゼントの中に入って、やっぱり少しズレてしまうものなんでしょうね。でもそれが、私が50歳になろうとしている今、すごく切ないと同時に愛くるしく感じるところでもあるんです。


 この映画を観た2008年には「せっかく娘との関係を修復するチャンスなのに、何やっているのお父さん……」と、残念に感じていたんですけれども、そこに愛を感じるんですよね、今の感覚では。彼はなんとかして頑張ろうとしているわけです。

【(C)2008 OFF THE TOP ROPE INC. AND WILD BUNCH.】

 ただ、頑張り方がわからない。それまでの人生すべてをプロレスに費やし、そのプロレスですら人気の低下で存在意義を失いかけ、娘のこともよくわからない。酒も飲んでいるし、いろいろな筋が切れている人だなとは思うんですけど、それでも、そんなお父さんと娘の絆は感じてほしいなと思いますね。


(私が出場している日本の団体の)DDTのバックステージで、選手の娘さんが走り回ったりしているんですよ。そういうときに「ああいいな、あの子はこうやってお父さんのお仕事をちゃんと理解して」と思うんです。プロレスのバックステージを体験したら、絶対にマセた子どもになりますよね(笑)。プロレスをやりたくなるだろうし、一方で子どもとしてもお父さんが痛そうで怖いという気持ちもあると思いますし、そういういろいろな葛藤を巡ってこんがらがっているはずです。


 この映画はまだそうしていないんですけど、いつかお父さんと一緒に観てみたいです。複雑な気持ちになるとは思うんですけどね、それでも。

後藤勝

サッカーを中心に取材執筆を継続するフリーライター。FC東京を対象とするWeb/メールマガジン「トーキョーワッショイ!プレミアム」(http://www.targma.jp/wasshoi/)を随時更新。著書に小説『エンダーズ・デッドリードライヴ 東京蹴球旅団2029』(カンゼン刊 http://www.kanzen.jp/book/b181705.html)がある。【Twitter】@TokyoWasshoi

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