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LiLiCoが語りたい! 映画『アイ,トーニャ』
“腐った”人たちに囲まれた彼女の半生

「ステイホーム」が続き、スポーツ観戦の興奮を忘れかけてしまったあなたへ。『王様のブランチ』の映画コーナーなどでおなじみの映画コメンテーターLiLiCoさんに、自宅でじっくりと観たいスポーツ映画を5本選んでいただきました。ストーリー、演出はもちろん、俳優の名演技など、プロレスラーとしてリングに立った経験を持つLiLiCoさんならではの視点でスポーツ映画を評論します。スポーツイベント再開に向けて、徐々にテンションを高めていきましょう!


 第2弾はフィギュアスケート映画『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(配給元:ショウゲート/ブルーレイ&DVD販売元:ポニーキャニオン)を紹介します。

登場人物の誰とも友だちにはなりたくない

「ナンシー・ケリガン襲撃事件」で全世界を騒がせたトーニャ・ハーディングの“痛すぎる”半生とは?
「ナンシー・ケリガン襲撃事件」で全世界を騒がせたトーニャ・ハーディングの“痛すぎる”半生とは?【(C)2017 Al Film Entertainment LLC】

『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』は、オレゴン州ポートランドで貧しい労働者階級の家に生まれたトーニャ・ハーディングがフィギュアスケートをはじめ、やがて技術的には一流の域に達しながらも、20世紀を震撼させる事件の要因とされ、破滅していくまでの物語です。


 私たちくらいの年齢だと、トーニャが要因とされるあの「ナンシー・ケリガン襲撃事件(1994年)」は誰でも憶えていますよね。あるいはその事件後10年間くらいに生まれた人でも、何らかの形で耳にしている。日本のワイドショーも毎日取り上げていて、本当にすごかった。

嫌な人ばかりが登場するが、なかでもお母さんの恐ろしさが際立っている
嫌な人ばかりが登場するが、なかでもお母さんの恐ろしさが際立っている【(C)2017 Al Film Entertainment LLC】

 まず、映画としてあの作り方がとても面白くて。ただトーニャを時系列で追って描くのではなく、ドキュメンタリーのような描き方をしている。


 インタビュー形式で答えつつ、その発言に関連したシーンに飛ぶというのもそうなんですけど、もっと言えばそのシーンを演じて再生しつつ、カメラ目線になって私たち観客に問いかけているところが結構あったりする。あれがとってもうまいんですよね。


 あの人たち、ダメじゃないですか。みんなとことんダメ人間で、彼らに説明されると「うんうん、そう考えていたんだね」という気持ちに――いえ、共感するわけじゃないのよ。だけど、観客を巻き込んでいくところが映画の作り方として面白いなと。

史実に基づいた映画とはいえ、浮世離れした登場人物もいる。写真はその代表例、太ったボディガード
史実に基づいた映画とはいえ、浮世離れした登場人物もいる。写真はその代表例、太ったボディガード【(C)2017 Al Film Entertainment LLC】

『ファイティング・ファミリー』同様、史実に基づいた映画ですけど、やはり劇中の人物が実在するとは思えないんですよ。特にあの太ったボディガード(ポール・ウォルター・ハウザー演じるショーン・エッカート)。言っていることチンプンカンプンだから。ただ、ああいう勘違い野郎って、いなさそうでいるんですよ。よほど甘やかされてきたのか、さほど痛い目に遭わないまま育って、自己中心的な妄想が膨らんでいる。勝手にやっておいて「オレは工作員だから」みたいなことを言ってしまう。最後は、仲間の誰にも相談せずにナンシー・ケリガン襲撃を決めてトーニャを困らせてしまう……。


 このなかの誰とも友だちになりたいと思わないです、本当に嫌な人ばっかり。特にお母さん(アリソン・ジャネイ演じるラヴォナ・ゴールデン)、恐ろしいですよね。初登場のシーンで外見的にも実在の人物とそっくりですし。ラヴォナとショーンも、そして彼氏から夫になるジェフ・ギルーリー役のセバスチャン・スタンも、俳優が実在の人たちとそっくりであることはスタッフロールでわかりますけど、似過ぎです。

愛を知らぬまま成長したトーニャ

選手と家族、コーチとの関係を美化せず描いた作品に、昨今のスポーツを取り巻く問題を考えさせられる
選手と家族、コーチとの関係を美化せず描いた作品に、昨今のスポーツを取り巻く問題を考えさせられる【(C)2017 Al Film Entertainment LLC】

 娘というものは、お母さんにはハグしてほしいだけなんですよね。


 私もお母さんとすごく仲が悪かったんですけど、ただハグしてほしいだけでした。お母さんと娘の関係はそれだけなんです。でもこの母親は幼いトーニャがスケートのスクールに通っているとき「トイレに行きたい」と訴えると、「滑り続けな」と言い、お漏らしするのを傍観しているんです。


 もしかしたら、スパルタの自分が良いお母さんだと勘違いしているのかもしれない。でもこういう親はたくさんいると思うんですよね。最近、パワハラとかモラハラという言葉が生まれて社会問題になっているじゃないですか。それがスポーツ界では認められる傾向にある。


 実際、スポーツの世界ではそのくらいやらないと一流になれない可能性はある。厳しい世界でそのスポーツの頂点に立ったお子さんを持つお母さんは、少なからずああいう面があるのかもしれない。なぜかと言えば、子どもに対して一番最初に「ナンバーワンになれ」と言うのはお母さんかお父さんのはずですから。子どもにはまだその感覚がないですもん。オリンピックとかゴールドメダルとか。


 そうして育ったトーニャは、愛を知らないからこそ、旦那さんにDVされても「こんなもんか」って感じていたと思うんですよ。友人にも“だめんず”を惹きつけてしまう女性がいますけど、トーニャも人の温もりが欲しかったんだと思うんですよね。彼氏(ジェフ)はとんでもない人だけど、自分を愛してくれる人で、彼女が探していた温もりがあったのでしょうし、唯一、彼女を気にしてくれていた人だったのだと思います。


 そんなスポーツ界におけるファミリー問題、コーチ問題を美化せずストレートに描いているところがすごい。トーニャは「これが真実だ」と最後に言うけど、とんでもない話ですからね、これ。

後藤勝

サッカーを中心に取材執筆を継続するフリーライター。FC東京を対象とするWeb/メールマガジン「トーキョーワッショイ!プレミアム」(http://www.targma.jp/wasshoi/)を随時更新。著書に小説『エンダーズ・デッドリードライヴ 東京蹴球旅団2029』(カンゼン刊 http://www.kanzen.jp/book/b181705.html)がある。【Twitter】@TokyoWasshoi

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